いよいよカグヤへ
いよいよダビステアを発つ日。
ダビステアの公邸から船までは、例の騎士団長が送ってくれることになった。
カグヤ国への国境付近までは、護衛の船も付けてくれるみたい。
あの魔物退治と結界強化が効いたのか、随分と高待遇で見送りをしてくれる。
馬車の中は私とレイナだけ乗ることになり、その他の面子は全員騎馬で馬車を囲むように進む。
「カグヤとキャッツランドは近いの?」
前情報があまりにないから、レイナに聞いてみる。
「海を隔てたお隣の国ですよ。王族の方々はよく行ったり来たりしてますし。殿下とキース様は成人されるまでの数年間はカグヤに住んでたらしいですよ」
そういえば、ラセルもキャッツランドよりカグヤに信用置いてるって言ってたけど、子供のころに過ごしたからなんだよね。第二の故郷かぁ。
『月の聖女様が降臨する神殿があるんだ』
『ボク達を連れてってよ』
いつの間にか精霊達が馬車に降臨した。相変わらず賑やかな子達だ。
「そうは言ってもなぁ。狙われてるのに、そんなところにふらふらと行けるかな」
『大丈夫だよ! 神殿は王宮の中にあるから』
「今回は公邸ではなく、カグヤの王宮に滞在させてもらえるってキース様が言ってました。なんといってもカグヤの女王陛下にとって、ラセル殿下は甥に当りますから。親戚のおうちに泊りにいくようなものみたいです」
レイナがウキウキしながらそう言った。
「それって超憂鬱だよ。私、一応ラセルの婚約者だし。値踏みされそう」
初めて会う国の一番トップの方。そしてラセルの叔母様。メンタル弱王子のように胃が痛くなりそうだ。
馬車が止まり、コンコンとドアがノックされる。
「着いたよ」
キースがドアを開けてくれて、私たちは馬車を降りた。
騎士団長が馬を降りて、私達に膝をついて礼をする。
「聖女様、本当にいろいろとありがとうございました!」
恐縮だ。こんなイケメンにここまで礼を尽くされて。
「こちらこそ、ここまで護衛してくださってありがとうございます! 絶対また来ますから、また魔物退治行きましょうね!」
「あの時は守れずに申し訳ない……」
「いえいえ、あなたはまーったく悪くないですから! 気にしないでください」
キースが私たちを船の上に誘導してくれる。船に乗ると、ラセルやビスが騎士団長との別れを惜しんでいるのが見えた。
船が動き出して、段々とダビステアが遠くなっていく。騎士団長さん達はまだ手を振ってくれている。
次はカグヤかぁ……。楽しみなような、憂鬱なような。
「ねぇ、キースは子供のころからカグヤに住んでたんでしょ?」
「うん、11歳から15歳までね」
11歳といえばまだ小学生くらい。公爵家のご令息が、どうしてそんな幼いころから親元を離れて外国暮らしだったんだろう。
「キャッツランドじゃなくてカグヤにいたのって留学? 親元を離れて?」
「留学……なのかなぁ。父親から勧められて……だったかな」
「寂しくなかったの?」
「全然……ってわけでもないけど、ラセルもいたし。男の子って親といるより友達といたほうが楽しかったりするじゃん」
キースもまた王宮で暮らしたということは、噂のイケメン王太子とも共に過ごしたということか。
「イケメンの王太子とも遊んだりしたの?」
「遊んだっていうか、剣や魔術の稽古つけてもらった感じ。超強いんだよね。でもしごきがきっつくてさー。ラセルはマゾだから大喜びだったけど、俺は……」
キースは途中から首をかしげはじめた。
「どうしたの?」
キースは途中から黙り込んだ。そんな時、ラセルが満面の笑みで駆け寄ってきた。
「お前らにはまだ見せてなかったよな? すっげーんだぜ、これ」
納品されてきた例の剣を見せてきた。キースはラセルの剣に興味を示す。
「どうすごいの?」
ラセルはもったいぶったようにゆっくりと剣を抜いた。シルバーピンクの剣からはキラキラと優しい光が放たれている。普通の剣にはないエフェクトだ。
「すっげー! なにこれ!」
「ふっふっふっ……聖女様の俺への愛がこめられているのだ! 聖女様に愛された剣士、それが俺様だ!」
「うわー、痛い子になっちゃってるよ。カナいいの? こんな夫で」
「……この残念なところがいいの」
ラセルから剣を奪うと、やはりあり得ないくらいの聖魔法の力を感じる。私は精霊を呼びだした。
「これは成功なのかな? 祝福の剣?」
精霊達は一斉に飛び跳ねた。
『大成功だよ! この剣はこないだのよりチート剣じゃない?』
『これで負けたら王子様って弱いってことになるよね』
『すべての属性のちからを上げてくれる、そんな効果のある剣だよ』
ラセルは私から剣を受け取ると、甲板で浮かれたように剣の型を取る。
「絶対に負けないから心配いらねぇよ! この剣で戦えばフランツなんて瞬殺できたな」
浮かれているラセルに精霊達のおねだりを伝えてみる。
「私、カグヤの神殿に行ってみたいの」
「それならルナキシア殿下に頼んでおくよ。でも、絶対にあの人に惚れて俺を捨てるようなマネはやめてくれよ、ほんとに」
数日前と言ってることが全然違う。そんなおバカな王子様に笑いが込み上げてしまう。
「大丈夫。私はあなたのメンタル弱くて、バカでウジウジしたところも味があっていいと思ってるんだから。完璧な王太子殿下なんて嫌だよ」
そんな私にキースは腹をかかえて笑い出す。
「よかったなぁ~……カナは奇跡の女神だよ。ラセルが嫌われる要素も好いてくれるんだから。俺にもそんな子が現れないかなぁ」
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