キャンプからの誘拐
先ほどの要領で、まず騎士さん達が魔物を発見しておびき寄せる、ラセルが魔力で拘束して私が浄化、という流れをさくさくと繰り返す。おびき寄せる過程での騎士さん達の怪我は、レイナがヒールで癒す役割分担とした。
大体、魔物たちはワンコが変化した姿だ。ワンコというよりオオカミ?
「こんなにさくさく討伐が進むのって今までなかったですよ。この国ってあまり魔術師の方もいないですし」
「まぁ、俺ほどの魔術師って他の国にもなかなかいないよ。ラッキーだったな」
騎士団長さんが私たちの隣に馬を並べてラセルにお礼を言ってくるけど、ラセルってばさりげなく俺すげぇアピールしてる。謙虚って言葉を知らない男だ。
「殿下は剣の腕も超一流なのに、魔術にも優れているなんて、本当に王子やってるの勿体なくないですか?」
「確かにね。俺、他の道探そうかなぁ、マジで」
「うちのサリエラ王女殿下とのお話はどうなったんです?」
「……それは断るつもり。王配なんて俺のキャラじゃないしね」
あんたのキャラだと、王配よりヒモが適してるって言いたいのかね。
「聖女様は、どうなんですか? 今後もこうしてラセル殿下と一緒に他国を周って、魔物討伐とかしていただけるんですか?」
急に私に話が振られた。
そっか……先日はラセルから本国のお屋敷にいてのんびり帰りを待ってればいいって言われたけど、第七王子の嫁として夫にくっついて他国を周ってもいいんだ。
なんかそっちの方が、私に合っている気がしてきた。
旦那のバイトの手伝いしているほうが、聖女稼業的にも都合がいいのではないだろうか。彼が臣籍に下がった時は、また違う道を探せばいい。
私の知らないところでやたらと優秀な王子様だったようで、なにやら彼には重要ポストとやらが用意されているようだけど、私のことはシリル殿下も守ると言ってくれたし。
「それもいいかなって思います。まぁ、ラセル殿下次第ですけどね」
そう返しておく。ラセルは俯きながらもじもじしている。
「あぁ、お二人はそういう関係なんですね。それじゃサリエラ様の入る隙はなさそうだ」
騎士団長は軽快に笑ってそう言った。私はあえて否定しなかった。
そして、そんな私が戦わなければならない敵が魔物だけではないことを、この時は全く気付かなかった。もちろん、ラセルも……。
◇◆◇
日が暮れてきて、そろそろ野営にしようかと騎士団長は切り出した。騎士団の方たちは、テントを張り始め、私たちもそれを手伝う。
騎士団の方たちと私たちのテントは近接して設置することにした。
「キャンプですよ! キャンプ。わくわくしません?」
「確かにね。こういう経験ってお嬢様にはなかなかないもんね」
レイラはキャンプファイヤーに想いを馳せている。この子ってば、一日中ビスと密着デート状態で、恋の効果なのか、頬がぷりぷりに輝いている。
キャンプファイヤーでは、騎士団の方たちが私たちのお肉を焼いてくれて、火を囲みながらレイナといろいろな話ができた。
暖かな大きな炎は、私の中でほのかに燃えていた気持ちを体現してくれているかのように見える。
「ねぇ、レイラ」
「はい?」
「私さ、もうレイラにはバレてると思うんだけど……ラセルのこと……好きなんだと思う」
そう言うとレイラは優しく微笑んだ。
「ラセル殿下は魅力的な方ですよ。誠実で優しくて。絶対にカナ様を幸せにしてくれます。私達、第七王子付きの臣下はみんな殿下が大好きなんです。カナ様が殿下を好きになってくれて本当によかったです」
レイナが本当に嬉しい、と言った表情でそう言ってくれた。
「聖女って肩書だけで嫁にしたいって言うなら嫌だったけど、でもあいつは……」
ラセルは、聖女じゃないからって自分を無価値だって思うなって言ってくれた。暖かな眼差しで見つめてくれた。
騎士団長達と楽しそうに談笑しているラセルの笑顔を見て思う。この人、いろいろ残念でムカつくところも多々あるんだけど、そんなところも好きだなって。
これからもたくさん喧嘩しちゃうんだろうけど、それでも慰めてくれた時の記憶は忘れない。
「あー、今日は本当に嬉しい! 最高ですよー」
レイナはそう言って、嬉しそうにお肉にかぶりついた。
◇◆◇
一応女子二人と言うことで、テントは別にしてもらった。ただ、戦闘力皆無の女子だけだと不用心すぎるということで、やはり護衛として猫を入れることになる。
「絶対に人間になったらだめだからね」
「そうですよ、一応猫枠ということでこのテントの中に入れているわけですからね!」
「……わかってるよ」
実は、騎士団長達も猫をテントに入れたがっていた。正体がラセル殿下だとわかっているのに、マスコット的な扱いになってしまうのである。
「さて、レイナ。レイナはカグヤの王太子って会ったことある? イケメンなんでしょ?」
「以前舞踏会で見かけたことありますけど、超絶イケメンでしたよ! まさに美! ビス様も見惚れてたって言ってましたし、男も惚れる男って感じでしたよ」
「性格もいいんでしょ? ウジウジしてないよね? いくらイケメンでもウジウジしてるの見てるだけで張っ倒したくなるんだよね」
「確かにウジウジしてると蹴り飛ばしたくなりますよね。うふふ……」
猫を間に挟み、ガールズトークで盛り上がる。
「……誰のこと言ってんの? ウジウジって」
猫がピシピシと尻尾を振ってプンプンしている。そんな猫も愛らしい。
「さぁ、誰のことかな」
「殿下、胃が痛くなったらすぐに言ってくださいね」
「なんねぇよ。お前らの思いどおりになんて……あ、でもちょっとキリキリしてきたかも」
「あんた、そのメンタルどうにかしたほうがいいよ」
軽くヒールしてあげたところで異変に気付く。なんか火薬くさい……?
猫がガバッと起き上がってぼわんと人間の姿になる。それを咎める隙もなく、テントの中を開けた。
「火……?」
私たちもラセルに続いてテントから出ると、騎士団長達のテントから火が上がっているのが見えた。火薬のにおいがする。誰かに放火された……?
「レインアロー!」
ラセルは広範囲に水の矢を振らせてすかさず消化した。
「ルーサー、大丈夫か?」
騎士団長達のテントにラセルやキースが集まる。その時だった。
キャッ! というレイナの悲鳴に振り向いたら、むぐっと手で口を押さえられた。
そのまま身体を持ち上げられて、横抱きにされたまま馬に乗せられる。レイナが足元で気を失って倒れているのが目に入った。
そのまま馬を走らされて、山道を疾走する。
狙いは私だったんだ……!
火を放って、みんなの注意を向けておいたまま私を攫うのが目的だったのか。
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