王子様は魔物退治で変な口説き方をする
シリル殿下がダビステアを発った夜、キースからレイナと二人でお呼び出しがかかった。
「ラセルから聞いてると思うけど、明日から魔物討伐に行くよ」
この手の話はいつも猫のラセルが振ってくるのだけど、気まずくて話ができないのだろう。キースも大変だ。
「動きやすい服装で行くからね。レイナにも治癒を頑張ってもらうし、ちゃんと今日は寝るように。もちろんビスも付いてるからそこは心配せずによろしくね」
「あなたももちろん行くんでしょうね?」
私が睨むと、「もちろん」とキースが頷いた。
「俺もビスと同様に二人を守るからね。あー緊張するなぁ」
大して緊張していない風で、キースは呑気に笑った。
「依頼してきたダビステアの騎士さんも行くんでしょ?」
「そうそう。ダビステア騎士団がメインでやってくれるよ。俺たちはお手伝い。カナには、結界の強化もついでにやってもらおうかなって思ってるんだ」
「わかった。フルコースでやってあげる」
とりあえず私はバカ王子のことは頭から忘れることにして、聖女稼業に励もうと決意したのだった。
◇◆◇
「なんで私があんたと馬に乗らなきゃいけないの?」
バカ王子とのことは忘れて、と思ったのに、なんとバカ王子と同じ馬に乗って移動することになってしまったのだ。密着具合が馬車とは比較にならない。
ラセルは簡素な鎧の上に、黒いロープを羽織って、腰には先日から借りている剣を指している。一応、ちゃんとした討伐用の衣装ということらしい。
「仕方ないだろ。馬車が通れないくらい狭い道だし、カナは馬に乗れないじゃないか」
「じゃあビスでもキースでもいいじゃないの」
「お前な、一応レイナに気を使え。キースはそんなに乗馬技術高くないから、とりあえず消去法で俺になったんだよ」
レイナは楽しそうにビスとデートを楽しんでいる。キースは鼻歌をうたってソロだけど楽しそうだ。私だけが楽しくない。
道幅は確かにせまく、うねった山道を登っていく。港湾付近と言ってたけど、一体の山全体を上から討伐して、海に面した付近までを浄化する予定だ。
私はラセルの前に乗せられた。ラセルの存在を間近に感じてドキドキしてしまう。
こんなヤツなのに、一度芽生えて自覚してしまった気持ちと言うのは簡単には消えてくれないみたいだ。
「ねぇ、ちょっと気になったこと聞いていい?」
「なに?」
後ろのラセルに話しかけてみた。
「あなた、シリル殿下と会った時、渡り廊下でお互いに髪の毛さわさわしてたよね? あれ、なんで?」
シリル殿下はラセルの実の弟だ。しかし兄弟間であんなにいちゃいちゃするものなのだろうか。シリル殿下がライバルならば勝てる気がしない。禁断の関係だったりしないよね……。
「ああ、あれはお互いどんなヘアケアをしてるのか、会うたびに話してるからな。今日の髪はどんな感じ? っていつもの世間話だよ」
「へ……へぇ~」
変な兄弟だと思ったけど、とりあえず納得しておこう。あと、シリル殿下とキースのバトルも知ってるのかなぁ……。あのカグヤ王太子の件とか。
「カグヤ王太子とのお見合いの話だけど……」
「あぁ……シリルが苦言言ってきた件だろ? キースから聞いてるよ。あの話は白紙にしとく。まぁ……カナがどうしても王太子と結婚したいっていうなら話は別だけど……けど、俺は」
けど、俺は、の先はしばらく待ったけれど出てこない。
「けど、俺は、の先を待ってるんですが?」
振り返って睨むと、ラセルは頬を染めてもじもじしている。相変わらずへたれな王子だ。
「あ、あのさ、俺……将来の転職として、騎士か八百屋かヒモを目指そうかと思ってるんだけど」
もじもじしながらラセルは話を切り出した。
は? 騎士? 八百屋? ヒモ……ヒモって目指すものじゃなくない?
も……もしかして、先日喧嘩した時に、「旦那の職業なんて、八百屋やヒモでいい」って言ったから? 別に八百屋やヒモと結婚したいわけではなく、思い付いた職業として適当にあげただけなんですが。
それにあなたは国の重要ポストが用意されてるんじゃ?
ラセルが言葉を続けようとしたタイミングで、前方のほうで、騎士団の人たちの剣戟と悲鳴のような声があがった。
「あー……もう! いいところだったのに!」
ラセルはイライラしてそう言った。まさかヒモ発言で口説こうとしてたんじゃないでしょうね!? 相変わらず、ずれた王子だ。
「ラセル、前行って!」
私は杖をすばやく取り出す。ラセルは馬を走らせて前線へ移動した。
「お前は俺が守るから心配するな」
「は? 私があんたを守るんでしょうが!」
巨大な狼のような魔物たちが、騎士たちに食いつこうとしている。この魔物たちを払ってあげればいいのよね。イルカたちと同じ要領だけど、数が多いな。
「ラセル、あの子たちを攻撃しなくていいから拘束ね」
「了解。
ラセルから蒼いオーラが立ち昇り、狼たちを一度に氷の結界に閉じ込めた。この数の魔物をいとも簡単に拘束するのだから、天才魔術師と言われるのも納得だ。
「
私が杖から一度に魔力を放出すると、巨大な狼たちから黒煙が現れ、次第に消えて行った。子犬ほどの大きさの犬になり、そのまま気絶してしまう。
「え……もう終わっちゃったんですか?」
騎士団長さんも騎士さん達もきょとんとしている。
「とりあえず俺らの魔術でなんとかしていくよ。ルーサー達は俺らの援護を頼むな」
ルーサーというのは、ラセルと仲のいい騎士団長の名前だ。騎士団長は私の杖を見て驚愕の表情だ。
「これが聖女とキャッツランドナンバーワンの魔術師の実力ってやつですか」
「まぁな」
ラセルはどやっとした顔で頷いた。まったく……私の力まで自分の手柄にしてる。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます