ベイテルクさんの剣②
「剣が杖に? そんなことってあるのかな? 魔法の一種?」
「俺にもよくわからないが、彼女の魔力は特殊なんだ。俺も剣を杖に変化させるなんてことは初めて見たんだ」
ベイテルクさんは杖を手に取ると、撫でたりにおいをかいだりと、すみずみまで観察している。
「確かに僕の剣な気がする。そして不思議な力を感じる。君は剣はそんなに強くなさそうだけど、また違った意味の強さを持っているんだね」
私を見て柔らかく微笑む。その微笑みは神々しく、普通の女の子なら卒倒しそうなくらいだ。
「実は頼みがある。剣を作る過程で、彼女に聖なる力を吹き込んでほしいと思ってるんだ。あんたの仕事の邪魔はさせない程度にしたいんだけど、どの工程がいいだろうか」
ラセルはこの頼みをするために、初めに私を聖女と伝えたのか。ここでやっと合点がいった。
「聖なる力?」
「祝福の力だ。俺がさらに剣士として強くなれるように、祝福の力を注いでほしいと思ってる」
「ふぅーん……」
ベイテルクさんは少し考えてから、鋼を手に取った。
「それなら鋼を流し込む時に聖なる力を注入したらどうだろうね? 正直そんなことはやったこともないし、書物にもない。しかし剣の元となるものだから、そこに祝福いれてもらったら? そのくらいなら僕の邪魔にもならないし」
ベイテルクさんは立ち上がって、にこやかに私たちを工房へ案内してくれる。
「型に流し込んでからいろいろ加工するから、出来上がるのは随分先になるけど、鋼から型に流し込む作業は今やってもいいかな。僕もその工程早く見てみたいし」
いきなり今日やるのか! ちょっと緊張してきたわ。
「君……えーと、ラセルくんだっけ? 今回も前回と同じくらいの値段でいいんだっけ? 22,111,222シルビーくらい?」
「名前は忘れてるのに値段は覚えてるんだな……それくらいで頼む」
22,222,222キュウが22,111,222シルビ―なのね。
この世界のレートはよくわからないわ。
「じゃあ鋼の準備するね。君たちは表のお庭でのんびり休んでてよ。準備できたら呼ぶからね」
私たちはベイテルクさんの芝生ふかふかのお庭で一休みすることにした。
◇◆◇
「それにしても、ラセルって剣を持つと別人みたいだね」
先日の二人組の時も思ったけど、ラセルの剣は速く力強いだけじゃなく、華やかでカッコいい。
「お! ちょっとはカッコいいとか思った?」
「…………」
結構思ってるけどそれは言わないでおく。
「やっぱダメか。なぁ、カナはどんな男をカッコいいと思うんだよ?」
「……そもそも男は嫌いだけど?」
「あー……そうでした」
ラセルはつまんなそうな感じで庭の芝生にごろっと転がった。そんなラセルを見て、ビスはクスクスと笑った。
「しかしカナ様は男性は嫌いでも、私たちとは仲良くしてくださるからいいではないですか」
「そうだね。前も言ったけど、男全般は嫌いだけど、ラセルもビスも嫌いではないから」
「じゃあさ、俺とビスだったらどっちが……」
「どっちだっていいでしょっ! 一番はレイナよ!」
もううるさいな! 全く油断するとぐいぐいくる。ぐいぐいくるってことは……ってこれ以上考えるのやめよう。
「それにしてもビスは羨ましいよ。レイナみたいな子の一番でいられるなんて」
ビスはまるでレイナに見せるような暖かな笑みを浮かべた。
「レイナはカナ様のことも大好きですよ。私といるときは、カナ様のことばかり話します。こんな服が似合うとか、一緒にどこに行きたいとか、そんなことばかり話します」
今ここにいないレイナのことを思って心がほっこりとした。この服もレイナが選んでくれたんだっけ。
ふふ、と自然と笑みが込み上げてくる。
「レイナ羨ましいぜ。俺なんてこんなに嫌われてるのに」
「別に嫌ってないって言ってるでしょ! しつこいな!」
私たちの進歩のない会話を聞いて、またビスが苦笑した。でも、こんなしょうもない会話をしているのもなんだか幸せだな、って思った。
胸の中にふわりと込み上げる想い。昨日土属性の魔法使った時もこんな気持ちになったんだっけ。
今なら祝福、うまくいきそうな気がした。
本人には言わないけど、私はラセルのことが好きなんだって。大好きなラセルのために最大限の祝福を捧げる。杖を胸にあて、そんな風に考えた。
ビスがそんな私を暖かな目で見ていた。
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