新月のお祭り
「元気出してくださいって。自分でヒールしましたから私は大丈夫ですって」
レイナが元気づけてくれるけれど、私の気分は落ち込むばかり。だって、私の価値って聖魔法が得意ってことの他、何があるっていうの……。
「ごめんね。なんでなんだろう」
ベッドに腰掛けてどんよりとしているところに、キースがやってきた。
「話聞いたけど、ヒールできなくなったってマジ?」
「キース様、ノックくらいしてもらえます?」
レイナは基本、キースには厳しめだ。
キースはレイナに構わずにいきなり剣を抜くと、「いつもみたいにやってみてよ」と言ってぶしゅっと自分の腕を斬った。
「ぎゃーッ! キース様、床に血がッ!!」
「まぁまぁ……カナはやりなれている俺のほうがヒールやりやすいかなって」
試しにいつものとおりヒールを試みるけれどなんの効果もでなかった。魔力が発動する気配すらないのだ。
「私はヒールしませんからね!」
レイナは御立腹だ。
「そんなぁ。しょうがないなぁ……ラセルやって」
続いて部屋にやってきたラセルに腕を見せると、「仕方ねぇな」と言ってラセルがヒールをしてくれた。でも不思議なことに、その魔力の動きすら見えないのだ。
「いつもなら、人が魔力を発動させているとその魔力の波動が見えるの。でも、今は全然見えなかった」
それを聞いて、ラセルもキースもきょとんとした顔をした。
「魔力の波動が見える?」
「うん、ラセルが魅了使う時も見えたよ」
ラセルとキースは顔を見合わせる。レイナも不思議そうな顔をした。
「攻撃魔法なら私にもわかりますけど、ヒールとか魅了みたいな聖魔法系は目に見えないものですよ。特に魅了なんて、魔力使ってるの相手にバレてたらそもそも使えないものですし」
た、確かに。夫人に使っている時も、夫人はなにも気付いていなかったみたいだし……。もしかしたら聖魔法系の魔力の波動が見える、というのも聖女特有の能力なのかもしれない。
「でも、もうその力すらない。私……なんの価値もなくなっちゃった」
みんなを落胆させるのがつらい。ラセルやキースは仕事で疲れているのに、わざわざお呼び立てしてしまって申し訳ない。
「ごめん、ちょっと一人になりたいの」
◇◆◇
みんなに引き上げてもらって、一人ベッドで横になる。最後に魔力使ったのっていつだっけ? 首輪作ってるときだっけ? キースにヒールしたとき……?
でも特別大きな魔力は使っていない。きっかけがわからない。肝心な精霊も出てこない。
もう一度杖を出してみる。なぜかこの一連の動作は何の苦もなくスムーズにいける。でも杖に集まる魔力の動きが見えない。
はぁ……と溜息をつきながらカーテンを開ける。空はもうすぐ暗くなるころだった。
すると遠慮がちにコンコンとノックをする音がする。
「俺だけど入っていい?」
ラセルが呼び掛けてくる。さすがは王子様。キースとは違い、ちゃんとノックしてくれる。
「うーん……ごめん、まだ一人になりたいんだ」
「そうは言ってもさ、一人でもんもんとしてるの辛くない? 今日はスラーブルの町でお祭りがあるし、料理人達にも暇出しちゃったんだよ」
つまり、ごはんがないってことね。ごはんのことを頭に浮かんだせいか、おなかがきゅる~と音を立てる。
「好きなもん奢ってやるから来いよ」
「わかった。でも……」
言いかけた時に、ラセルとは違う足音が聞こえた。
「殿下、カナ様誘う時は先に私に言ってくださいっ! あと、殿下その服ダサいです! ご自分の服のことはビス様に相談してくださいねっ!」
ずけずけと言うレイナが、ラセルを追い払って中に入ってきた。
「さて、準備しましょ! 女子の気分をあげてくれるのはやっぱりファッションです! 今日はもりもりでメイクもしましょ! お祭りなんですから!」
そう言うレイナはさっそく、今日買った可愛いらしい淡いドレスをご着用。
髪飾りも豪奢で、メイクもばっちりだ。
お祭りって日本でやるお神輿かつぐやつしか知らないんだけど、そんなにオシャレ決めなきゃいけないもの?
レイナは私用に買った服を次々に並べ、クローゼットに仕舞っていく。そのうち一着を持って私に合わせてきた。
「これとか色っぽいしバッチリ」
「お祭りに色っぽくなる必要あるの?」
「ありますって。それに言われてみたら初デートじゃないですかっ!」
初……デート。デート?
頭がフリーズする私を、レイナはもりもりに盛っていく。
「殿下はいろいろ残念なところはありますが、男性としてのポテンシャルはめっちゃ高いですし、頑張っていきましょうね!」
「いやいや、そんなポテンシャルが高い人物に私を宛がわないでよ」
頑張ってなんとかできるほど、私のほうのポテンシャルが付いていかないよ。とはいえ、レイナの腕前なのか、鏡の中の私はそれなりに可愛くなっていた。
聖女化してから5割増しになったけど、さらに3割増しくらいになった感じ。
「お待たせしました! ではカナ様の護衛は殿下にお任せですからね!」
ドアを開けて、通路で待っていたラセルとビスにそう声をかける。
ラセルもビスも、貴族ファッションとは方向性が違う、スラーブルの街にいそうなオシャレでカッコいい平民男子風に仕上がっていた。
「ではビス様、行きましょ!」
レイナはビスに腕をからませる。積極的になったねぇ。
なんだかなぁ……と思いつつ、チラ、とラセルを伺う。
「おおぉ……カナ。今日なんかいつもとちが」
みなまで言うな!
殺気を込めて睨むと、ラセルはいつもと同じように嬉しそうに笑った。
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