あれ?聖女の力が使えない?
船は2日かけてダビステア王国の首都・スラーブルの港へ到着した。ここはナルメキアにも匹敵する大国、かつ、キャッツランドの同盟国でもある。
外交上、非常に重要な拠点でもあるということで、ルーシブルよりも長い滞在を予定しているとのこと。
「カナ様、ショッピングしましょ、ショッピング! キャッツランドの流行は、ダビステアのものが時間を遅れて流れてくるって感じなんです。つまり先取りできるってことですよ」
公邸に着くと、さっそくレイナからのお誘い。私、喪女だからそこまでファッションとか興味ないんだけどね……。
最重要拠点ということで、ラセルは着いた早々猫外交へ向かってしまう。
ルーシブルでは暇人だったキースも、レポート提出の事務仕事があるということで「だるい~」と言いながら執務室へ引きこもってしまった。
護衛としてはビスが付いてきてくれる。
ステーブルの街並みは、ナルメキアの首都メリルや、ルーシブルの首都ルリルとも異なり、どこまでも洗練されているオシャレな街だ。
工夫を凝らした街灯代わりの魔石は、夜になるとイルミネーションとして人気があるらしい。
街行く人々もみんなオシャレで、これまでいた世界でいうところでは芸術の都・パリみたいな感じ?
特に今夜は新月のお祭りがあるということで、街中が活気づいている。
「ねぇ、前にラセルから、ここで剣の発注を頼むみたいなことを聞いたんだけど」
騎士団長、という肩書のビスだったら知っているかなぁと思って聞いてみた。
「あぁ……ベイテルク氏のことですね。各国の主要騎士御用達の鍛冶師さんですよ。私のこの剣も、ベイテルク氏作なのです」
ビスの剣もかなり豪奢な作りだ。ビスはキャッツランドでも指折りの剣士と聞いている。信頼のおける鍛冶職人さんなんだろう。
「なんか、私にもそれ手伝え的なことを言ってきたんだけど」
「聖女の加護がほしいということですね。でも一から十までカナ様が作ることはないと思いますよ。さすがにベイテルク氏も承諾しないでしょうし」
職人って頑固そうだもんね。こんなど素人がノコノコやってきて手伝わせてくださいなんて言ったら、塩まかれそうだ。
「そのあたりは心配しなくていいですよ。殿下がうまいこと交渉してくれますし」
「そうかなぁ……」
なんといっても22,222,222キュウがかかっているのだ。心配は尽きない。
「カナ様、あのワンピース可愛くないですか? カナ様に似合いそう!」
「レイナ、目つきの悪い私にアレは変だって、似合わないって」
レイナは剣のことで上の空の私にいろいろな服を試着させては購入していく。
「カナ様、レイナはこれまで男しかいない船旅でしたから、カナ様という存在がとても嬉しいのですよ。疲れるかもしれませんがお付き合いください」
ビスも苦笑いをしつつ、レイナの買い物に付き合っている。確かに、あの男所帯で女子一人はきついものがあるわよねぇ……。
「でもどうしてレイナ一人だけだったの? 第七王子のお世話係って侍女一人で賄えるものなの?」
「キャッツランドの王子は皆質素なんです。本国にもレイナの他数人しか侍女はいません。それに今は船旅ですし、外国となると危険もありますから、ご家族の了承も得られませんし。レイナしか来なかったんですよ」
「へぇ~……でもレイナはご家族の反対とかないの?」
何気なくそう聞いたのだけど、ビスは少し顔を曇らせた。
「彼女の家は男爵家ですが、家族と折り合いが……家に居づらいのではないでしょうか」
「そっか……」
庶民の私と男爵令嬢のレイナではまるで違うけれど、境遇がシンクロしたような気がした。
「……カナ様、どうかしました?」
レイナが大量の服を持って私の元へかけてきた。
きょとんとして首をかしげるその仕草は可愛らしく、そして妹のようにも思えてくる。
「レイナ、もうそろそろ帰りましょ」
頭をポンと撫でて、服を入れた紙袋を半分持ってあげた。
公邸に向けて歩き出した時、ちょっとした事件が起きる。
向かい側からものすごい勢いで男の子が駆けだしてくる。
危ないなぁ…って思って避けたら、レイナとぶつかってしまった。
「すみませんっ」と一言謝って、男の子はどこかに消え去ってしまう。
私が半分引き受けたとはいえ、レイナは大量の服を持っていたせいで反応に少し遅れて、変な転び方しちゃったみたい。
「いったぁぁ」
「レイナ、大丈夫ですか」
これはビスがお姫様だっこするというお約束のパターンかな、というフラグがあったけれど、こんな繁華街でお姫様だっこは目立つでしょっと思い、ヒールをかけようと試みた。
「
しかし私の手からはなんの魔力の発動もしない。
おかしいな? そう思いつつもう一度試みるがなにも起こらない。
「
上位技を試すも同じ。
「……どういうこと?」
ビスがお約束のお姫様だっこをしながら私のところにやってくる。
「ビス、レイナ……私、魔法が使えない」
暗澹たる気持ちでそう告げると、ビスとレイナは至近距離で顔を見合わせる。
心の中で精霊達を呼んでみる。でも精霊達もやってこない。
どういうこと?
精霊達が来ない以上無駄かな、と思いつつ杖を呼びだした。精霊は来ないけど、杖は私の手に戻ってきた。
少しほっとしながらも杖を構え、もう一度ヒールを試みたけれどそれでも何も起こらない。
「ど、どうしよう」
私の聖女としての価値が……。
ここにやってきて、突然目の前が真っ暗になる感覚を味わっていた。
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