ほのぼのとまくら匂ふや夜半の春
【読み】
ほのぼのとまくらにほふやよはのはる
【季語】
夜半の春〈春〉
【大意】
ほのぼのとまくらの匂う春の夜である。
【付記】
わたしは読んだことがないが、田山花袋(1871-1930)の「蒲団」などを連想する向きもありそうである。
ときに、「宵」は大陸では「夜」の意味だと聞く(往時、「今夜」をコヨイと読みくだした点にその名残りが見てとれるように思う)。されば蘇軾(蘇東坡。1036-1101)の「春宵一刻値千金」は、春の夜の浅い時間のことと解すべきでもないのであろう。
この国で「早朝」と言うのに「早夜」と言わないのは、「宵」が夜の早い時間を指示するからだろうか。「宵」が日常語でなくなった現代では、その時間帯を表現するのにいささか苦労する。
「夜半の春」は「春の夜半(=夜)」の意味で、詩的な修辞のひとつである。濫用がまずいのは何事にも言える。このことは「芋の山」として大昔に取り上げられてもいる。
【例歌】
春の夜の夢ばかりなる手枕にかひなく立たむ名こそ惜しけれ
春の夜は軒端の梅をもる月のひかりもかをる心地こそすれ 藤原俊成
ながむれば衣手かすむひさかたの月のみやこの春のよの空
よろづみな闇にただよふ春の夜のま底に深く
【例句】
春の夜の餅や
春の夜刀預る恋もあり 内藤鳴雪
ぬる鳥の木枕なれや花の枝 作者不詳
木枕の垢や伊吹に残る雪
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