第50話 ファイアストーム
俺が目標とした点を中心にゴウという音と共に炎の嵐が吹き荒れる。
この呪文はファイアボルトよりも大量に素早く可燃性物質を用意する必要があるし、それと同時に着火する必要があった。
そして可燃性物質の量や距離を間違えると術者の髪の毛がチリチリになりかねない。
使用も難しいし、魔力の消費も多い。
そんな魔法に見事に成功した。
まあ、この魔法はラシスのデュプリケートで習得しているので、全く未経験ということには当たらない。
ゾンビたちの頭がブスブスと燃え上がりゆっくりと倒れる。
まだ炎が燃えているところから素早くファイアボルトを2本飛ばして左右を固めるゾンビを焼いた。
キングクラブと戦った時より出力を上げてあるせいか、習熟度が上がったのか、頭をかばった腕ごと燃やして倒す。
ふはは。
我が魔法は圧倒的ではないか。
と自惚れたいところだが、実態としては不意打ちだからということだろうな。
使えないのか、使わないのか分からないが防御魔法を展開されなかったことも大きそうだ。
おっと、まだ一体残っているはずだが、馬車の向こう側はちと俺の手持ちでは難しいんだよな。
奥の方の護衛から魔力の高まりを感じて俺は身構える。
自然と防御魔法を展開する態勢となるが、俺とは反対側に魔力が射出されるのを感じた。
着地前に敵味方が判別できていないから気をつけるように言われていたが、さすがに用心しすぎだったかな?
護衛たちの1人がが安堵の表情で俺たちに声をかけてくる。
「支援してくれて助かった。お前たちは何者だ?」
あー、そういうこと言っちゃいます?
長官の部下だから無意識にそういう行動取っちゃうんだろうけどさ。
助けてもらった相手にそれはないだろ。
いくら威厳とかそういうのと無縁な締まりのない俺の顔ではあるけど。
俺だけならまだしもギサール様もいるしねえ。
「他人の名を尋ねる時はまず名乗るのが礼儀ってもんだぜ」
「カヘナ・ヌオヴァ長官のナジーカ様に仕えるアーヘンだ」
「そうかい。俺はコーイチだ。それで、こいつらは新しく魔導銀の鉱山から現れたモンスターってやつか?」
アーヘンはなるほどという顔をする。
「そこまで事情が分かっているということは、コーイチ殿は第8軍団の士官かなにかですな。我が主を軍団基地まで送り届けられるよう増援をお願いできないだろうか?」
アーヘンは態度が急に恭しくなった。
どうすっかなあ。
誤解させたままで話を続けるべきかどうか悩ましい。
まあ、依頼に関しての答えは変わらないか。
「悪いがお断りする。争いが見えたから駆けつけたのであって、そこまでの義理はない。偵察も続けなければならないしな。あなたにとっては雇用主かもしれないが私には関係がない」
「そこ曲げてお願いする」
と、言われてもなあ。
「そもそも、これだけの人数が揃っているのになんでこいつらに苦戦していたんだ?」
俺の使ったファイアストームの魔法は、一般人はともかく、こういう稼業についているなら普通に使えるはずだ。
「なぜか魔導銀がいきなり残量ゼロになった。魔法を使おうにも魔力が足りないんだよ」
アーヘンが腕に身に付けていた魔導銀のタブレットを外して俺に差し出そうとする。
前にビリっときたことを思い出し俺はそれを反射的に遮った。
「それは問題だな。いずれにせよ、俺たちは引き続き偵察に出るし、軍団基地まで行くつもりはない」
「軍団基地に戻らないのか?」
「ああ。モンスターの集団を発見したら、カヘナ・ヌオヴァに戻る」
「騙したな。第8軍の士官じゃないのか」
「俺はひと言もそんなことは言ってない。あんたが勝手に勘違いしただけさ。で、俺があんたの立場ならカヘナ・ヌオヴァに向かうがね。裏切り者を受け入れてくれるかは分からないが、どうせこの先にはモンスターの群れがいるんだろ? 突破して軍団基地まで到達するのは無理ってもんだ」
「しかし、それでは……」
アーヘンが渋っていると馬車の中から声がする。
「その者に礼がしたい。ここへ」
アンジェさんの件もあるしナジーカと顔を合わせたら、もめ事にしかならないな。
「悪いが俺も急ぐんでね」
服の後ろを引っ張られ後ろから囁き声がした。
「このまま去るのはまずいよ。話を受けて」
俺は前言を撤回する。
「まあ、折角の厚意を無碍にはできないよな。分かった。ただし、手短に頼むぜ」
護衛たちが道を空け、俺とギサール様は馬車の横に回りこむ。
扉が開いて若い美人が降りてきた。
俺に向かってニコリと笑みを浮かべる。
「危ないところを助けて頂きありがとうございます。本来なら主から申し上げるべきですが気分がすぐれないため、御容赦ください。旅の途中ゆえ、このようなもので申し訳ありませんが」
首から下げていた豪華な金のネックレスを外した。
陽光を浴びてダイヤモンドがキラリと光る。
美女はそれを手に持って俺に近づく。
「いや、助けたのはそんなつもりじゃないですし、そんな高価なものを頂くわけにはいかないです」
「そんな遠慮はなさらないで」
女はネックレスを俺の目の前に差し出しつつ、首を傾けると大きく口を開いた。
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作者の新巻です。
想定以上に話が伸びてコンテスト期間内に話が終わりませんでした。
もう少しお付き合いください。
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