第39話 配偶者選び
「というわけでね、変な恋人とか作ったら駄目だからね」
このセリフだけ聞いたら束縛が強い系のヤンデレに脅されているように聞こえる。
でも、実態は可愛らしいハイスペック王子様のお言葉なんだよなあ。
しかも相手が三十路のおっさん。
俺の気持ちを最優先にするという話が絶賛迷子中であった。
「まあ、あの従者2人がコーイチに不埒なことをするようだったら、僕にも考えはあるからね。でも、コーイチの魅力に気が付いて思いやみがたいというのなら、厳しい罰は可愛そうか。どうしようかなあ」
なんだか不穏なことをつぶやいているんですけど。
ちなみにアンジェさんの後援者になるという話はその場で却下されていた。
俺の経歴に傷がつくからというのが理由らしい。
ただ、気の毒な立場ということは認めるのでギサール様が何か他の方法は考えてくれるそうだ。
さくっとナジーカを闇討ちしちゃうか、と呟いていたような気がするのは幻聴です。たぶん。
「じゃあ、そろそろ戻ろうか。お昼の準備ができていると思うよ」
「そうしましょうか」
今度はサンダルを履きっぱなしにしておいたので、熱々の砂の心配する必要はなかった。
テントの下に並べられた料理はいつも別荘で食べている内容と遜色がない。
カレーとかラーメンのような軽食しか出てこない海の家とは違った。
まあ、あれはあれで美味いんだけどな。
酒も用意してあったが、そちらは固辞する。
貝のクリーム煮を食べていたギサール様が意外そうな顔をした。
「コーイチ。どうしたの? 具合が悪い?」
「それじゃ、俺が飲んでばかりのように聞こえるじゃないですか」
「胸によく手を当てて考えてみて」
そんなに飲んでるつもりはないけど、フォースタウンの本邸にいた頃に比べたら明らかに酒量は増えているかもしれない。
ひょっとして俺ってギサール様の寛大さに甘えすぎってこと?
「いずれにせよ、今日は海に来ていますから。海で飲酒したら危ないので」
「そういうことなんだ。コーイチ、偉いね」
さすがに褒められるレベルのことじゃなくないですか?
「そもそも従者ですし」
ロブスターにナイフを入れていたソフィア様が呟いた。
仰る通りでございます。
俺は首をすくめて、何かの魚のソテーを口に運んだ。
ソフィア様がそっけなく言う。
「まあ、ギサールが許可していることなら私が口をはさむことじゃないですけど」
なんかギサール様は夢物語を言っていたけど、俺がソフィア様とどうこうする未来がまったく想像できないぞ。
ギサール様がいる限りソフィア様の視線がよそに向くことはないだろう。
どう考えても俺にとってはソフィア様って観賞用にしかなりえないよなあ。
しかし、困ったものだ。
ギサール様の人生設計になぜか俺が組み込まれているせいで、俺の伴侶もそう簡単には決められないという。
男はですね、そういう理屈だけじゃなくて、えっちしたいという本能的な欲望があるんですよとギサール様に教えたら許してくれないだろうか。
いや、まずいだろうな。
たぶん、ギサール様は身体の構造的にもまだ迎えていないと思われる。
そこへ白いおしっこがどうたらとか説明をするのは嫌すぎるな。
ショタもののエロ漫画じゃねえんだから。
もし、そんな余計なことを吹き込んだのがバレたら、コーネリアス家総出で俺のことをミクロン単位まで粉々にして自然に返されそうだ。
でもなあ、このままギサール様の計画通りになるとすると、恋人や奥さんとキャッキャウフフなナイトライフなんて全く無理そうなんだよな。
政略結婚なので、下手をしたら永遠に寝室は別とか普通にありそう。
絶対にないと思うが、天変地異が発生してソフィア様と結婚することになったら、間違いなく別寝室だよ。
お世継ぎが必要という理由で同衾することがあっても、凄く嫌そうにしながら義務的に済ませて、終わったらさっさと部屋を出ていくに違いない。
ネガティブな想像は得意だけど、考えただけでどよーんとしてきた。
そうだよな。
この俺に相思相愛とかいう経験は無理なんだよ。
そうやって考えると、アンジェの提案を蹴るのは惜しい気がしてきた。
条件ありきとはいえ、俺の愛人になることにやぶさかではないと言う。
義理堅そうだし、窮状から救い出したら俺からの誘いは拒まなそうだし、あからさまに嫌そうな顔はしないんじゃないか。
現実的に考えたら、アンジェは俺を相手にしてくれるギリギリのラインという気がする。
俺からすればアンジェはもちろん有寄りの有。
パパ活みたいだとか忌避していたけど、そうでもしなければ俺にお相手はいないんじゃないか。
失敗したな。
アンジェの処置についてギサール様に一任するんじゃなかったかもしれない。
ギサール様はラシスとナトフィの相手もしちゃダメと言っていた。
仕えているソフィア様があれだけ俺のことを毛嫌いしているので、俺のことを受け入れるなんて全然ありそうもないけど。
俺はテーブルについて食事をしている二人をこっそりと観察する。
やっぱり、ありえんよな。
若くて美人だし、グランドツアーの随行をしているぐらいだから護衛の任を果たせるぐらいの腕もあるはずだ。
俺が魔法銀適性欠格者じゃなかったとしても、ちょいと手が届く範囲にいる女性じゃない。
そういや、ソフィア様はどうして欠格者をあれほど毛嫌いしているんだろう。
理由を聞かせて欲しいととっさに頼んでみたものの、叶えられることはないだろうなと思った。
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