第36話 不幸な事故
今度はビーチバレーもどきをして遊ぶ。
最初は俺は遠慮して見学に回った。
自惚れかもしれないが、俺が居ればギサール様は一緒に組もうとするだろう。
そうなればまたソフィア様の恨みを買う。
それを避けようという深謀遠慮だった。
俺の小汚い計算通りにギサール様・ソフィア様ペアとラシス・ナトフィのペアが組んでのゲームとなる。
実は俺が見学に回ったのにはもう一つ別の思惑があった。
魅力的な肢体をのんびりと観察するためである。
さすがにボールを目で追っかけ勝ちを追求しながら、体まで見るというのは至難の業といえた。
その点、見学であればボールを目で追いかけるついでに、こっそりと魅惑的なふとももなどを目に焼きつけることができる。
そして、おっぱいぷるんぷるん。
自分でもどうかと思わなくはないが、滅多にない機会は無駄にできなかった。
ソフィア様の従者二人のうちラシスはナトフィに比べるとあまり体を動かすのは得意ではないらしい。
ボールを受けようとして派手に砂を巻きあげてすっころぶ。
立ち上がるときにまくれ上がった服の間から滑らかなお腹と形のいいおへそが見えた。
ガン見している俺、ちょっとキモいぞ。
ナトフィはいい動きをしているが、それを上回る機敏さを見せるギサール様とソフィア様に翻弄されている。
結果的にワンサイドゲームとなった。
これでは面白くないとギサール様が組み合わせの変更を言い出す。
しかし、当然すんなりと決まるわけがない。
まず、ソフィア様がギサール様と別チームになることに難色を示した。
こうなるとラシスもナトフィも積極的にギサール様と組むわけにはいかなくなる。
そりゃ、まあね。わざわざソフィア様の恨みを買うようなことを言いだしたくはないだろう。
とはいえ、上手な二人を別チームにしなければ戦力バランスを取るのが難しかった。
そこで俺がしゃしゃり出ることにする。
まず、人数を同数にはせず、従者チームを3人編成にした。
さらにギサール様とソフィア様のコートを俺たちよりも一回り大きくする。
こうすることで二人がカバーしなければいけない範囲が広がり、より一層動く必要が出てくるはずだった。
実際に始めてみると。これは全くの机上の空論だったことが分かる。
まず、俺の腕前がラシスとどっこいどっこいだった。
人数が増えてもそいつがへたっぴではあまり戦力にはならない。
むしろお互いの動きを制約する始末となる。
俺とラシスの中間地点に飛んできたボールを受けようとして、俺とラシスが落下予測地点に殺到した。
お互いにボールに気を取られていたのか、激突して俺がラシスを押し倒す形となったしまう。
もつれあうようにして倒れた俺の後頭部にボールがパコンと当たる。
ちょっと情けないかも。
ただ、今はそれどころじゃない。
俺の頭がラシスの胸に乗り、体の下に入った腕が下半身を押さえつけるような形となっていた。
顔を赤くしたラシスが腕で俺を押しのけようとするが、変な体勢となっている俺の身体は動かなかった。
俺は自由になる方の腕を突っ張ろうとする。
体の下に入った腕には力が入らないので、半身をさらに寄せるような形になってしまった。
つまりは顔をさらに胸に押し付ける状態となる。
下目遣いに見ていたラシスの顔が一層赤くなった。
「早くどきなさいよ」
情けないが、砂地ではうまく力が入らないのと焦りのせいでなかなか体を起こすことができない。
結局、ナトフィが駆け寄ってきて俺の腕を引き上げるまでラシスの上でジタバタすることになってしまう。
俺の後に起き上がったラシスには睨まれてしまうし、ナトフィも俺のことを汚らわしそうな目で見ていた。
「今のは事故だから。不快だったなら謝るよ。悪かった」
俺は必死に謝罪をするが両腕で胸を守るようにしたラシスは表情が固いままである。
女性陣のじとっとした視線が痛い。
「いや、あの……」
実は俺のことが好きで、これをきっかけに恥ずかしがりながらもそういうのは二人きりのときにしてくださいね、と言ってくる展開とかないんか?
いや、そういうのは創作物の中だけで現実ではありえないって知ってるけど。
現実であるとしても、ただしイケメンに限るってやつだ。
それはさておき、この窮状、誰か助けてくれ~。
「今のは不幸な事故じゃない。コーイチってそういうことを狙ってやれるほど器用じゃないよ」
ギサール様が取りなしてくれる。
「事故でも許せないというんだったら、昨日、僕の顔がラシスの胸にぶつかっちゃったのも怒らなきゃ変だよね」
え?
「え? どういうこと?」
俺は頭の中で思っただけだったけど、ソフィア様はブリザードのような冷たい声を出していた。
ラシスは急に狼狽を始める。
「昨日、僕を迎えにきてくれたときに、コーイチに言い忘れたことがあって立ち止まって振り返ったら、ラシスにぶつかっちゃったんだ。急にそんなことをした僕が悪いんだけどね。そのときはラシスは笑って許してくれたじゃない。コーイチのことも許してあげてよ」
小首を傾げてお願いするギサール様。
俺には後光が差しているように見えた。
「は、はい」
どもりながら返事をするラシスはそれどころじゃないように見える。
どうやら、話の焦点は俺からズレたらしい。
素早く視線を往復させた。
燦燦と日光が降り注ぐビーチに黒々としたおどろおどろしい空気を生じさせているソフィア様を見て、俺は思わずぶるっとおぞけを振るっていた。
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