第24話 水分補給
ムシャムシャと食べているうちに喉の渇きがさらに強くなる。
そりゃそうだ。
いくら振るっているとはいえ、海水に浸かっているんだから塩分も相当摂取しているに違いない。
呪文を唱えて海水を一掬い空中に浮かび上がらせる。
塩分やごみをろ過して真水を作った。
そこに顔を近づけて吸う。
夢中で飲んだ。
たぶん500ミリリットルほどを飲んで唇を手の甲で拭う。
こうなるともうすることがない。
先ほどは無視した帆の一部と思われる布のところに行き、砂浜の上に座って頭から被った。
少しでも直射日光は避けた方がいいだろう。
後はぼーっとしながら船影が見えないか淡い期待を抱きながら何をするとはなしに海を見る。
青い空に白い雲、打ち寄せる波。
綺麗などとのんびり鑑賞できるのは身の安全が保証されていればこそである。
今日も太陽は元気一杯に地上に光と熱を振りまいていた。
このゴワゴワして重い帆が打ち上げられていて本当に良かったと思う。
直射日光を遮ることができなければ、俺はもっと早くに干上がったに違いない。
先ほど飲んだ水では全然足らずまた水が飲みたくなってくるのに、尿意を催してきた。
体の水分が失われれば失われるほどそうなるように人体の体はできていると聞いたことがある。
起き上がるのも億劫だったが、岩場のある側とは反対側の海に向かって放尿する。
やっぱり貴重な海藻にかけたくないからさ。
地面に穴を掘って蒸留装置を作る方法はマンガで読んだことがあるが、ここには水を受ける容疑も水蒸気を逃がさないようにするためのビニールもなかった。
となれば自然に帰すしかない。
日の光を直接に浴びたらまた強く喉の渇きを覚える。
ヨタヨタと岩場の方へと歩いていった。
計算上ではもう海水を汲み上げて浄水する魔力は残っているはずがない。
食ったものといえば海藻だけなので、魔力が生成されていたとしてもごく僅かだろう。
でもまあ、ものは試しだ。
失敗したとしても発動しないだけで、昏倒したりすることはない。
うまくいくことを願いながら、呪文を唱えて海水に意識を集中する。
よし、浮き上がった。
次はフィルターを作って潜らせ……、もうちょっとだけもってくれ俺の魔力。
ふよふよと浮遊する水玉に口をつけて夢中で吸った。
旨え。
ミネラルも何もない無味無臭の蒸留水のはずなんだけどめっちゃ旨い。
今回は魔力切れを恐れて前回の半量ぐらいにしたので、物足りなさを感じた。
ダメ元でもう1回やればいいんじゃね?
プハア。
これで合計500ミリリットルぐらいにはなった。
暫定的に渇きが癒えたことで、頭が働き始める。
どう考えても俺が使えるはずの魔力の総量を超過していた。
おっかしいなあ。
広々とした大洋を目の前にして腕組みをする。
うん、魔力が増えているとしか思えない。
確認するのは簡単だ。
さらにもう1回真水を作って喉を鳴らして飲む。
必要に迫られているわけでないのに水を飲む贅沢さ。
そうでもないか。
人間が一日に必要な水分は2リットル。
食べ物からの摂取量を考えても、この炎天下の環境を考えればまだ足りないかもしれない。
熱中症予防のためにも多めに水分取らなきゃな。
それはさておき、やっぱり魔力が想定より多い。
この原因は明らかに海藻しか考えられなかった。
海藻しか口にしてないものな。
他にすることもないし、もう少し海藻を食べておくことにした。
たんぱく質、炭水化物、脂肪はほとんど含まれていないので、活動するためのエネルギーにはならないが、空腹感は紛らわせることができる。
それじゃ、帆の下に潜り込んで日光を避けるとしますか。
膝を抱えて座った。
暇になると良くないことが頭に浮かぶ。
どうして誰も助けに来てくれないんだろうな。
ギサール様なら絶対に捜しに来てくれそうなんだけど。
実はソフィア様との板挟みで嫌になって俺のことがいなくなってせいせいしたとか思っていたりして。
首を振って脳内の悪魔を追い払う。
違う。ギサール様はそんなことしないもん。
でも、ちょっと時間が経ちすぎだよな。
襲撃から丸一日経ってるもんな。
そんなことを考えつつウトウトした。
はっと意識が戻ると空が茜色になっている。
もう、布を被っていなくて大丈夫だろうと這い出した。
うーん。
ずっと同じ姿勢をしていたからあちこちが痛い。
体を動かすとバキボキと音がする。
そうだ、水分補給もしておこう。
もう手慣れた手順で水を飲んだ。
また、海藻でも食べるか。腹は膨れないけど。
水を確保する道筋はついたけど、流石にこのままでは体力が尽きる。
なんとか発見してもらう確率を上げるためにできることは……あった。
漂着した木片を1箇所に集める。
乾燥して良く燃えそうな破片を手にした。
もう片方の手で指を鳴らし、火がつく様を強く念じる。
うお、あっつ。
想像していたよりも激しく燃えだし思わず手を放してしまった。
かき集めた木片の上に落下し、無事に焚き火ができる。
指先をちょっと火傷してしまったので、真水の玉を作ってその中に指を突っ込んだ。
空中でしばらく玉を維持していたが、魔力が尽きる気配もない。
もう、いいだろうと水を落とした。
焚き火の側に戻る。
夕闇が落ちた中で明るい火は心強かった。
後は誰かがこれを見つけてくれればなあ。
俺の視界の端に何かが動くのが目に入る。
岩場の近くからカニが上陸してきていた。
夕食ゲットと思ったのはほんの一瞬である。
体高およそ2メートル。片手の大きい方の爪は容易に俺の首をちょん切れそうな化け物が、横向きになって近づいてきていた。
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