子宮力 ~どうしてイジメはなくならない?~

水撫川 哲耶

序章・欧米(並)か?

筆者は2004~2006歳までの3年間、小学校・中学校・高校で情報教育の臨時講師をしていた。

地域の各小・中・高校へ出向き、PC教室で生徒たちにパソコンの使い方などを教える仕事だ。

PC教室には、毎時間ごとに全学年・全クラスの生徒が入れ替わり立ち替わりやってくる。しかも同時期に3つの小学校を担当しており、曜日によって勤務する学校が違ったので、よっぽど個性的な子をのぞいて、とても全生徒の名前を覚えることは出来なかった。


それでも休み時間は、小学生児童たちとドッジボールをしたり、時々クラスにお呼ばれして一緒に給食を食べたりして、とても楽しい時間を過ごした。

「今からでも教員の資格を取って、小学校の先生になろうか・・」と考えたりもしたが、職員室内でのゴタゴタを目にしたり、教師もストレスの多い仕事なのだと知って、それは断念した。


さて・・、1980年代辺りからTVや新聞などのメディアで「日本の離婚率も欧米並みになってきている」という報道を耳にしてはいた。

しかし、それは飽くまでメディアの中での話であり、「へー、そうなんだ」位の感想しか持っていなかった。

自分が臨時講師となって実際に学校に勤めてみると、クラスのおよそ3割が母子家庭であり、その実状を見て初めて「なるほど、日本で起こっているのはこういう事なのか・・」と腑に落ちたのだった。


PCルームでは男子生徒が他の子に「あれ、お前んチ、お母さんだけじゃなかったっけ?」と言って、相手の子が黙ってしまうシーンも目撃した。

僕自身もある生徒に「キミはパソコンの扱いが上手いね。お父さんが持っていて習ってるの?」と尋ね、その子が「うち、お父さんいないんだ・・」とうつむかせてしまうという失態をおかした事もあった。

後で校長先生にその事を告げると「そんな時はお父さんでなく『おウチの人がパソコン使ってるの?』と聞いてあげて下さい」という実践的なアドバイスも頂いた。


僕が小学生の頃、離婚家庭は稀で、クラスに一人いるかいないかだったと思う。

クラスのおしゃべりな女子が「4組の○○さん、親が離婚したらしいよ」と噂話していたのを覚えている。

(もちろん本人が隠していたケースもあるだろうから不確かな数字だが)

どうしてこんなに離婚家庭が、片親しか持たぬ児童が増えたのだろうか?


その原因(のひとつ)も、やはり小学校で見つけた。

ある日の昼休み、3階のPC室で一人でお弁当を食べながら、校庭で遊ぶ児童たちを眺めていた。

すると6年A組の男性教師が校舎から飛び出してきて、校庭へ向かって「6年A組、全員集合!」と声を張り上げた。

「遊ぶのは掃除が終わってからだと言っただろ!、何を勝手に遊んでいるんだ!」整列したA組の生徒たちにすごい剣幕で怒鳴る男性教師。

すると一人の女子生徒がおずおずと「あのー、私たち掃除が終わったから遊んでいるんです」と言葉を発した。

「え?!、そうなのか?、じゃあ掃除が終わった者は遊んで良し」と教師が告げると、整列からは女子全員が立ち去り、男子生徒だけが残った。しかもA組の男子全員だ。

当然、その後はお説教だ。


お判りだろうか?

女子は「遊びたいけど、それは掃除を終えてから」と自分を律する事ができる。

しかし男子は内面に「遊びたい」という衝動が芽生えると、それを抑えられないのだ。

おそらく皆さんが小・中学生だった頃も、教師から注意され、お説教をくらっているのは大概、男子だったのではないだろうか。

掃除をさぼったり、プロレスごっこをして教室の備品を壊したり、宿題をやってこなかったりと、教師が男子生徒を叱る理由は枚挙にいとまがない。

僕自身も、男子生徒に注意する回数の方が圧倒的に多かった。


ある男子生徒は、反応の悪くなったマウスを直そうとして何度も乱暴に叩いて、最終的に「先生、これ壊れてる」と訴えてきた。

当然、「壊れてるんじゃない、お前が今壊したんだ」と叱責した。

男には精神的なもろさと粗暴さが同居している。

(一番ショックだったのは、「あー、そういえばオレもこんな感じの男子生徒だったなぁ・・」というのを思い出したコトだろうか)


PCでプレゼンテーション作成の授業を行い、最後に完成したプレゼンを発表してもらった事がある。

女子生徒はほぼ全員が、前を向いて確かな発声でしっかりと発表ができていた。

ところが、男子生徒はクラスメートの面前に立つのが恥ずかしくて下を向いたままのボソボソ声でしか発表できないケースが多かった。

特に、授業中は教室内を走り回っていたガキ大将(死語かな?)的な男子がずっとうつむき続け、蚊の鳴くような声でしか発表できなかったのには、苦笑いさせられたものだ。

普段、暴れまわっていて、威勢がいいように見える男子も、実の所は内面の衝動をコントロールできずに暴走しているだけなのだ。


生徒が用事があって職員室に入れねばならない時、女子生徒はスッとドアを開けられるが、男子は「お前が先に入れよぉ」などと一番手を押し付け合ったりする。

プレゼンの発表の時もそうだったが、女子の方が度胸があるのだ。


あなたの周りで(もちろんあなた自身でもかまわないのだが)、男女両方の子育てをした人がいるなら、きっとこの言葉を聞いた事があるだろう。

「男の子は弱い」

美輪明宏さんの「生まれてこのかた、強い男と弱い女には会った事がないわよ」という発言は、言いえて妙であると思う。

度胸がない。メンタルが弱い。上手くいかないとすぐいじけるし。簡単な障害にもすぐ挫(くじ)ける。


そしていつの頃からか、おそらくかなり早い段階からと思われるが、その反動として、男子の脳内では『自己の尊大化』が始まる。

『オレ様化』と言った方が判りやすいかもしれない。

ミスのない平時であっても、「常に正しく偉大なオレ」、「何でもできるスゴいオレ」といった自己イメージの強化に努めている。


筆者の考える離婚家庭の増加のひとつの大きな要因は、この『オレ様化』した男に女性がつき合いきれなくなったから、であり、小学校で目の当たりにした〈3割が片親家庭の教室〉の原因ではないかと思う。

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