卒業
年が明けて1997年。
3学期が始まると早々にあきちゃんが教頭先生に呼び出された。
卒業式の卒業ソングを作って欲しいとの頼まれたそうだ。
そして学校の卒業式に演奏してほしいと。
もちろん返事は『イエス』である。
この学校のおかげで僕達は短時間で急激に認知度を広げる事に成功したのだ。
お世話になりっぱなしである。
最後くらいシッカリと恩返しをしたい。
『絶対みんなを感動させて最高の卒業式にしようぜ』
そんな企画を立てながら僕達は卒業にぴったりの最高の曲を作った。
僕だけが違う学校の生徒。
しかも学年が違うので卒業もしない。
みんなと同じ学校で一緒に卒業したいけどそれは出来ない。
考えれば考えるほど少し寂しい気持ちになるが、自分で変えられない事を嘆いても仕方がない。
僕にも一緒に演奏をしてほしいと言ってくれている教頭先生の為に全力で曲を作る。
初めてのゲリラ文化祭の時の事から順を追って、この学校にしてもらった感謝の気持ちをしっかりと込めながら最高の音楽を作るためにみんなで一丸となって作曲した。
久しぶりの全員揃っての音楽活動だ。
あきちゃん達は見事に全員で同じ高校に合格していた。
そして今まで散々お世話になった中学を卒業するのだ。
他校の僕も一緒に演奏する。
普通ならあり得ないような依頼だと思う。
こんなに特別な待遇を与えてくれて全面的にバンド活動に協力してくれる。
そんな学校ともあきちゃん達が卒業することで、今後は関わりが薄くなってしまうのだろうかと考えると寂しい気持ちになる。
みんな思い入れの多い学校生活だったのだ。
ほとんどの生徒達からバンド活動を応援してもらっている。
毎回ライブに来てくれる生徒も非常に多い。
今までの感謝の気持ちと卒業する4人のメンバーの心境を曲にする。
練習の時間は少なかったが久しぶりにみんな揃っての音楽活動は楽しくて、それぞれが高いモチベーションを維持する事が出来たので曲の仕上がりは最高な物になった。
そして卒業式の当日となる。
在校生約450人、卒業生約220人
合計700枚のCDをこの日配布するためだけに作成した。
先生達にも配りたいので700枚だ。
収録曲は卒業ソングの1曲だけの特別なCD
卒業式では僕は部外者だが、ちえさんと一緒に父兄席に座る。
通常の卒業式の進行が進み、卒業生が卒業証書を校長先生から受け取る。
この学校の校長先生はあまり自己主張しない。
教頭先生がほとんど表に立ち行事を進行するのであまり会う機会がないのだ。
あまり面識のない校長先生が仕切る卒業式で演奏するのは少し緊張してしまう。
他校の生徒である僕はこういったところで神経を使うのだ。
教頭先生からのお願いで演奏するので大丈夫だとはわかっているのだが…
1組から順に卒業証書を渡されて卒業式は進行していく。
全部で8クラスあるのだ。
6組の生徒が証書を受け取り始めたらバックヤードに来るように言われていたので僕は指示通りバックヤードに向かった。
バックヤードにはすでにあきちゃん、のぶ、ゆいちゃんがいた。
シュウは7組なので証書を受け取ったらすぐに来るらしい。
卒業する事に対して心境は寂しさでいっぱいみたいだ。
いつもの気丈なあきちゃんではなく少し涙目で元気もない。
こんな時はそっとしておいてあげるべきだ。
僕は静かに出番が来るのを待った。
シュウが到着して楽器の確認をするとすぐに出番となる。
アナウンスで僕達の紹介が流れて僕達はステージへと上がる。
今日の楽曲は僕はギターではなくピアノ演奏だ。
ピアノの前に立ちステージから生徒達の方を見た。
卒業式だから当然の事なのだろうが、泣いている人が多い。
みんな別れを寂しく思っているのだ。
そんな雰囲気に影響を受けてあきちゃんも涙を流してしまっている。
涙声を隠そうともせずあきちゃんが話し始めた。
『みんな、中学生活の3年間ずっとあき達の応援をしてくれてありがとう。
学校を卒業するってだけでみんなとの繫がりは何も変わらないのにすっごく寂しいよ』
『No Nameはみんなのおかげですごく有名になれたし大きなライブも出来るようになった。
本当に感謝してる。みんな大好きだよっ。』
涙を流しながら感謝を伝えるあきちゃんを見て会場内の卒業生や在校生達にも次々ともらい泣きが伝染していく。
『ちょっとくらいみんなで泣こうぜ。
だって本当に寂しいんだし・・・』
シュウが珍しくマイクを使って話した。
3分ほどだろうか。静かな時間が過ぎていった。
あきちゃんは持っていたペットボトルの水を飲み干した。
『よしっ。演奏しようか。
今日のために作った卒業ソング。全校生徒に届けます。』
僕がピアノ演奏を始めノブのギター、シュウのベース、ゆいちゃんのドラムが合わさる。
今までの楽曲とは少し違った雰囲気の、メンバー全員の学校に対する想い、応援してくれたみんなに対する想いが乗った卒業ソングを演奏した。
演奏はたった1曲だけ。
卒業ソングだけの演奏だが歓声は鳴り止まず、あちこちで僕達No Nameに向けての感謝の言葉が飛び交う。
『一緒の学校に通えて最高だった』
『この年代に生まれる事ができて嬉しい』
『いつまでもファンで応援し続けるからね』
大きな歓声と様々な称賛の声が永遠に続く。
あきちゃんも、シュウもゆいちゃんも、ノブも涙が止まらない。
みんなを感動させる事には成功しているが、自分達も感動し過ぎてもう感慨無量の状態。
卒業には関係のない僕でさえ涙が出てきてしまう。
5分くらい経っただろうか?
時間の感覚すらよくわからなくなってきた頃に校長先生がステージに上がってきた。
マイクを取り話し始める。
『私はキミ達とはあまり関われなかったが常に教頭先生から話を聞かせてもらい、ずっと応援していました。
この学校の生徒達に夢や希望、元気を与えてくれて本当にありがとう。』
『キミ達はその年齢からは信じられない程の成果を残し、かけがえのない貴重な経験を積んでいると私は確信しています。
これからの活躍に期待しながら、私もファンとしてこれからも応援し続けますので精一杯の力をぶつけて次は日本中に元気を与えてください。』
『本当に3年間ありがとう。キミ達と関われて本当によかったです。』
校長先生が締め括ってくれて僕達のステージは終了した。
大きな拍手に包まれながらステージから降りる。
こうしてあきちゃん達の卒業式は大きな感動と共に無事終わった。
来月からはみんな高校生だ。
僕だけまだ1年間中学生のままで少し疎外感を感じた。
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