活動復帰の準備

4月になった。

僕は中学3年生、他のみんなは高校生になった。

去年のフェスで告知した僕達の復活フェスまで残り4ヶ月

ミーティングや企画、制作などフェスの開始に向けて動き始めた。


徐々に告知されていく僕達のフェス。

1年ぶりなのでお客さんはちゃんと来てくれるのだろうか?

前回同様でこのフェスにはチケットはなくフリー入場だ。

つまりチケットの売れ具合から集客予想を立てることが出来ない。


僕達に出来ることは作曲と練習に明け暮れて最高のパフォーマンスを作る事だ。

僕は中学を卒業してすぐに働く予定で高校には行かない事にした。

あきちゃん達が通う高校は僕の家からは遠く、通うのには無理がある。

それなら、働いてあきちゃん達の住む街に引っ越そうと考えている。

就職先はちえさんの働く会社に話は通っていて内定済みだ。


まず最初の半年は研修で本社勤務。

本社は僕の家の近くでちえさんが離婚前に元々通っていた場所だ。

研修が終わると今ちえさんが通勤している支社への勤務となる話まで決まっていた。


つまり僕は中学生だが、受験勉強などをする必要もなく進路は決まっているのだ。

就職すると研修期間の半年間は音楽にかけられる時間は極端に減ってしまう。

半年後は家を借りてあきちゃんと一緒に暮らすので仕事と音楽ばかりの毎日になるだろう。

夢と希望でいっぱいで僕はワクワクが止まらなかった。


学生として時間に余裕がある状態で音楽に専念できるのはこの1年が最後である。

僕達は復活フェスの8月まで練習を丹念に行った。


集客の不安は8月が近くなればなるほど消えていった。

あらゆる場所で多くの人からフェスを楽しみにしてると声をかけられるのだ。

吉沢さんのビジネスとして開かれるフェスだが、ポスターにNo Name復活の文字が入れられているので認知度はすごい。

芸能人になったのかと勘違いするくらいどこに行っても声をかけてもらえる。

人気が少し照れ臭くて、期待がすごく嬉しくもある。


去年のフェスの評判が高すぎて、楽しみにしてくれている人が多いのだ。

大規模すぎて前回は少し圧倒されてしまっていたが、2回目となると僕達にも余裕があり声をかけられる事に対する対応も慣れていった。

期待に応えないといけないと練習に精が出る。

参加バンドが多いので、定期的にミーティングが開かれるがミーティングは去年と同様で、吉沢さんが主体で進行する。

僕達No NameとAnotherが補助しながら他の参加バンド達と話し合う。

みんなでフェスを作っているという感覚がしっかり根付いていて一体感がある。


今年もMCとして去年と同じあの人気タレントが来てくれるので司会、進行は安心だ。

盛り上げるためのトークも上手いし、しっかり会場の興奮をコントロールしてくれる。

去年のフェスを思い出しあの高揚感が呼び起こされてワクワクが止まらない。


吉沢さんが仕切るフェスは周到に準備されていて安心感がある。

去年のフェスの時に吉沢さんとまこっちゃんが仲良くなり、吉沢さんが出資してまこっちゃんが代表となりセキュリティ会社が設立されていた。

今回のフェスのセキュリティを担当する。


僕達がきっかけで吉沢さんと繋がったまこっちゃんが起業したのだ。

すごく喜んで感謝の言葉を僕達に並べてくれたが、SPとして毎回無償でライブを守ってくれたまこっちゃんには僕達の方が感謝の気持ちでいっぱいだった。



7月にはまたプレイベが開催されてゴミ拾いのボランティアをする。

去年の流れと同じだがこれも地域貢献のため。

騒音のクレームとかが出ないようにあらかじめ地域貢献してイメージアップしておく必要がある。

吉沢さんの計画は完璧だ。

さすが手広くビジネス展開をするだけあって頭がキレる。


プレイベのゴミ拾いは効果が大きく、地元の商店の人達に支持される。

地元の商店にフェスのポスターが貼られ、来たお客さんにフライヤーが配られるので次々と宣伝されていく。

今年もまた、地元のローカルテレビで海水浴場のCMとしてゴミ拾いのプレイベ風景が起用されて去年僕達が作った同じ曲が今年もイメージソングとして流れる。

フェスの宣伝としては規格外の広告だ。

吉沢さんが主催するフェスにはどのくらいのお金が動いているのだろうか?

想像もつかない規模である。



参加バンドは全然集客活動しないのに信じられないくらいの認知度となる。

集客予想も多すぎて想像がつかないレベルとなっている。

僕達の復活フェス…

こんな大規模でいいんだろうか…?


僕達参加バンドが出来る事は練習を積み重ねる事くらいしかない。

来てくれた人達に最高の音楽を聴いてもらい満足してもらう事でしか貢献できないのだ。


全力で行動してくれる吉沢さんのためにも参加バンドは一丸となり練習に励んだ。

経験豊富なAnotherのメンバーですら緊張している。



緊張と期待の中、次々と企画は進み瞬く間にフェス当日となった。

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