彼氏と彼女

活動休止したのは、3年生メンバーの高校受験のためだ。

シュウ、ゆいちゃん、ノブは受験勉強に励む。

全員で同じ高校に行きたいので他の3人は努力が必要だったが、勉強など必要のないあきちゃんは受験勉強などは全くする気もなく僕と頻繁に会っていた。

今までのように音楽活動をするわけではなく、普通にカップルとしてデートを楽しんだりゆっくりと何もせずにマッタリと過ごしたり。

付き合って4年近くになるが2人でゆっくりと過ごせる時間は初めてだった。


最初は小学生同士で付き合うということがどんな事なのか、何をすればいいのかよくわかっていない状態だったのだが今はもう中学2年生と中学3年生だ。

思春期の真っ只中なのだ。


買い物や映画館などのベタなデートを楽しんだり、おしゃれなカフェでパンケーキを食べてみたり、中学生ながら想像できる限りのデートを堪能した。


ライブで稼いだお金は個人のものではなくバンドの資金だ。

バンド活動で使うためにまどかちゃんがしっかり管理してくれているので僕達のデートで使うわけにもいかない。


中学生が貰うお小遣いではデートができる範囲は限られている。

なのでお金に余裕がない時は基本的にあきちゃんの家で過ごす事が多かった。


ちえさんからはキツく『身体の関係はお互いが高校生になってから』と言われていたが、思春期の中学生の夏休み

音楽活動も休止中なのでやる事がほとんどない僕達はそんな約束に勝てなかった。


お互いが未経験で方法などもほとんどわからない状態。

聞いた事ある話やそういった本などを参考に手探りで試行錯誤してみる。

この時ばかりはあきちゃんもいつもの頼りになるあきちゃんではなかった。


プライドが高く何に対しても天才的なあきちゃん。

すぐに状況を飲み込み、場を支配する才能。

どんな事でも簡単に乗り越えてしまうあきちゃんもこればかりは結構テンパっていた。

初めてあきちゃんの困った表情や弱気な仕草をたくさん見た気がする。



小柄なあきちゃんだからなのか、初めてで知識も技術もなさすぎたからなのか、初戦は大惨事で血まみれとなりながらあきちゃんの家で戦いを終えた。

『やばくない?ママにバレるやんこの血。』

さすがのあきちゃんも焦る。

ちえさんは怖い。

『すぐに洗えば落ちるんじゃない?』

結果はひとまず洗って誤魔化す事になったのだ。

シーツを剥がしてお風呂場に移動する。

シャワーを出して血のついている部分だけを濡らし必死でゴシゴシ。


夜中に2人でシャワーを出してゴソゴソしているとそりゃあ音がうるさい。

必死で音を抑えながら洗っていたつもりだがあえなく撃沈する。

『夜中に何やっとるん?うるさいで。』

ちえさんと目が合ったと同時に血まみれのシーツを見られて終了。

『おいお前ら、高校なってからって約束したよな。』

さすが大人、少し見ただけで状況を把握する。

『起きてから話すからもう今日は寝ろ!シーツは捨てるから置いとき。』

ちえさんの圧力に圧倒されながらあきちゃんの部屋に戻りとりあえず寝た。

朝になり僕とあきちゃんはなっちゃんに叩き起こされる。

そのまま寝たから下着だけの半裸の状態で寝てる僕なのに、全く気にせず叩き起こせるなっちゃんはなかなかの強者だ。


『おはよー。』

僕とあきちゃんはひとまず朝の挨拶を可能な限り爽やかに…

『おい!!違うだろ。』

ちえさんの圧力は一晩経っても全然衰えておらず健在だった。

『約束破ってすいませんでした。』

2人で素直に深々と頭を下げて謝ると笑い出すちえさん。

『お前ら素直すぎて言い訳しないから怒る気なくなるわ。笑

もうするなとは言わないからせめてこれ付けろ。』

避妊具を渡され試合終了。

あっさりしすぎていて怖かったがこれもちえさんの良いところだ。

ちえさんにも公認してもらったのでひとまず安心だ。


『音楽ばっかりやっててろくに恋愛楽しんでなかったし今は思いっきり楽しみなさい。

お前らが人生を後悔しないようにだけ充分に気をつけてな!

2人とも賢いから言ってる意味はわかるよな?』

僕達は言葉にならずコクリと頷いた。


ちえさんは優しくて僕達のことをいつも大切に思ってくれている。

この家族に受け入れてもらえてすごく嬉しい。

幸せな日々を大切に過ごせる環境がすごくありがたい。

そう思ってしまうような暖かな家族だ。


『ところで初体験はどうだった?笑』

ちえさんがあきちゃんに質問する。

『めちゃくちゃ痛かったー』

サラッと答えるあきちゃん。

『ゆうちゃん下手くそそうだもんなー。』

『ママー今度覗いてみよーよー。笑』

なっちゃんとちえさんがあきちゃんと和気藹々と話してる。

結局いじられるのは僕だけなのだ。



さっき感動した事を少し後悔しながらこの親子の餌食にならないよう僕は話を必死で無視してテレビを見ているフリをした。

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