ラスト30分

あきちゃんがステージでマイクを握ると客席は一斉に静まり返る

あきちゃんの言葉をみんなが期待しているのだ。

MCのタレントがまずは話し始める。


『さてそれでは本日のフェスもいよいよ最後!!

待望のNo Nameのライブで本日のフェスは締めくくりとなります。』

あきちゃんが続く。

『今日は多くの人が集まってくれて本当に楽しかった。

みんなありがとう!!

想像してたよりも遥かに感動が大きくて、あきはテンションがぶっ壊れそうだよ♪

今日の最後の30分。あき達の全てをぶつけるから楽しんでね。』

『全力で盛り上がるぞーーーー。

みんなで楽しく歌おーーーーーーー♪』


あきちゃんが叫ぶと後ろで特大の打ち上げ花火が連発で上がる。

こんなサプライズ演出聞いていないが、あきちゃんはニヤリ顔。

事前に密かに打ち合わせをしていたのであろうと察する。

お馴染みのゆいちゃんのハイハットで曲が始まり僕達は予定通りの曲を演奏する。


昼の演奏で繰り返しサビを演奏した曲だ。

最初の1曲はテンションを引き上げるための起爆剤としてこの選曲をした。

会場内が昼の演奏を思い出し再び盛り上がる。

サビには大合唱。

夜の演奏では昼のようにサビは繰り返さなかったが、会場内のテンションを爆上げする起爆剤には充分だった。


ハイテンションのまま僕達のオリジナル楽曲は続く。

CD購入などをしてくれていて僕達の曲を知ってくれている人も多くいる。

縦ノリが大きな振動となりステージを揺らす。

海水浴場のその全てが一体となり大きな興奮と感動をもたらした。



僕達参加バンドも、来場頂いたお客さん達も、一丸となり全体で残された時間を堪能する。

残り10分、僕達は密かに打ち合わせしていた曲の演奏に切り替えた。

MCのタレントが歌っている楽曲のコピー演奏だ。

僕達はそのタレントがMCをすると聞いてから、この楽曲を練習していたのだ。

あきちゃんはニヤリとしながら手招きしてMCのタレントをステージに呼ぶ。

『ボーカルバトルだよぉ♪

あきとどっちが歌うの上手いか勝負しよーよ。』

イントロ中にあきちゃんに煽られステージに上がるしかない状況のタレントさんは歌い出しと同時にステージへ上がりあきちゃんとワンフレーズ交代で歌う。


ドラマの主題歌として使われた人気楽曲なのでほとんどの人が知っている。

客席でも大合唱が始まり最高に盛り上がった。

『みんなありがとおーーーーーーーーーーー』

あきちゃんの叫びで曲が終わった。

『アンコール、アンコール。』

会場の全員(だと思う)が声を合わせてアンコールを送る。

時間は20時57分。後3分は余っているのだ。

こうなることは予想済みで最後に1曲とっておきを残しているのだ。

このフェスのプレイべ風景を流した、海水浴場の今年の宣伝用として地元ローカルTV局のCMでイメージソングとして起用された夏休みをテーマに作った曲だ。


ワンフレーズだがテレビで流れてる曲なので知ってくれている人は多い。

来場者みんなが熱狂して最後の1曲を堪能する。

演奏している楽器の音すら聞こえなくなりそうな程の盛り上がりで、僕達のアドレナリンも制御不能の事態となり夢の中のような意識が朦朧とした状態でフェスは終わった。

今日のフェスは最高の演出と最高の企画で本当に楽しかった。


『みんなっ愛してるよーーーーーーー。』

あきちゃんの叫びに大きな拍手と歓声を浴びながら僕達はステージを降りた。



場内アナウンスが退場を促しながらお客さんは帰っていく。

参加バンドは出番が終われば自由解散としていたが、8割くらいの人達はまだ残ってくれていた。

吉沢さんが残った全員に挨拶をする。

『本日はフェスを盛り上げてくれてありがとう。

おかげで大成功で終えることが出来ました。

これからもこの街の音楽を盛り上げて下さい。本当にありがとう。』

『解散となる空彩の皆さん、寂しく感じますが絆が消えるわけではありません。

落ち着いたらいつでも遊びにきて下さい。』

『そして活動停止するNo Nameの皆さん。

1年後の復帰ライブを楽しみにしてます。本当にありがとう。

キミ達のファンになって、関わりを持てた事が本当に幸せだと感じます。』


吉沢さんはあきちゃんを呼び寄せるために手招きをする。

あきちゃんが歩いて行き、吉沢さんの横で振り返る。

『次のあき達の活動は1年後のフェスです。

参加バンドは今から募集していくので皆さんご協力頂けるのであればいつでもご連絡下さい。』

『今日は最高のメンバーで集まり、最高のフェスを作れた事を誇りに思います。

一生で1番大切な思い出になったと思います。

ありがとうございましたっ♪解散っ!!』

あきちゃんが締めくくって本日のフェスは解散となった。


海水浴場しかない田舎の駅。

普段はポツポツとしか人が利用しない人気のない駅が、ありえないほど多くの人で溢れかえっていて電車は数本に渡り混雑している様子だった。

僕達は来たときと同じく、吉沢さんが用意した車で帰る。



この夏に野外フェスという形式で行った僕達の活動休止ライブ。

キミと見たライブの景色は本当に絶景で現実味がなく、まるで夢の中で過ごした気分だった。

いつまでも今日が終わってほしくない。

疲れ果ててはいたがそう思える、本当に楽しく充実した1日を過ごせた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る