フェスに向けて

フェス参加希望のバンドを4月のライブから募集した。

応募バンドが殺到して4月中に80組を超えた。

オリジナル曲の演奏を限定していたのだが、想像をはるかに上回る応募数だった。

吉沢さんと相談して申し込み受付を終了し、抽選会をする事にした。


参加バンドは僕達主催3バンドを合わせて30バンド。

つまり半分以上は落とさないといけない。

落とされたバンドから不平不満が出ないようにフェアに抽選にしたという事だ。


5月の最初の土曜日の夕方に参加希望バンドの各代表者を吉沢さんのライブハウスへ集める。

抽選会で参加決定バンドを決めた。

抽選に外れて参加できなかったバンドも手伝いなどでフェスに関わりたいと言ってくれるところが多く、運営に人手が必要なので非常に助かった。


それほどこのフェスは注目されていて、関わりたいと感じている人が多いのだ。

5月からは毎週参加バンドの代表者が集まってミーティングを繰り返し、企画、進行、運営などさまざまな取り決めをした。



今回は規模が大きすぎて多くのスポンサーなども絡むため、ミーティングの進行は全て吉沢さんが仕切ってくれて僕達主催3バンドがサポートするような形になった。


テレビで活躍中の人気タレントが進行MCで来てくれる事やスポンサー企業が誰もが知っているような大手企業ばかりだった事でミーティングの度に参加バンドの全員が驚かされた。

吉沢さんの本気は子供では想像もできなかったくらい大きなフェスの実現を現実にしていく。


5月と6月でフェスの流れは大体全部決まった。

円滑なミーティングと取り仕切り、話の進め方など吉沢さんからかなり多く学べる事があった。


本当に円滑に物事が決まっていくのでトラブルも少なく、大きなフェスを企画しながらも練習や作曲をする時間も十分にあった。

フェスで演奏する曲を中心に練習を繰り返し、予備曲までもしっかり練習する時間も取れたのは今回が初めてではないだろうか?



そしてついに7月上旬。

フェス参加バンド30バンド全員吉沢さんの指示で集まった。

プレイべを開くという事だった。

代表者だけではなく、参加バンド全員が集まるのは今回が初めてだ。

参加者だけでもすごい人数でフェスの大きさを実感する。

こんな大人数が集まりみんなで一斉に海開き前の海岸のゴミ拾いをする。

大規模なボランティア清掃活動で地元に貢献する事でフェスのイメージアップを図ると同時にその様子を撮影し、海水浴場のCMとして起用する。


地元のケーブルテレビで放送される海水浴場のCMだ。

そのCMに僕達がSTAFFと記載されたフェスのTシャツを着てゴミ拾いや清掃をする姿が映し出されるのでPR効果は絶大だ。


CMで流れるイメージソングは、吉沢さんのわがままにより恐縮ではあるが僕達No Nameがこのために作成した、夏休みをテーマにした曲が採用される事になった。


さらにこのボランティア活動の見返りとして、8月11日開催の僕達のフェスのポスターが大きく、広範囲でこの海水浴場のあらゆる場所に貼ってもらえる。

このCM起用とポスターで僕達のフェスが瞬く間に告知され集客の期待が加速した。

以前からCMを使うとは聞いていたが、吉沢さんの策略には驚く。

ビジネスの天才だ。


こうして着々と準備を進める事が出来たフェス

街一つというレベルを超えて、地域一体の期待を集めながらついに迎えた8月11日当日

大きな特設ステージが備え付けられたスペースのすぐ隣にある海水浴場は朝早くからすでに人で溢れていた。

海水浴場からも丸見えで泳ぎながらでもでもフェスを楽しめるのだが、一応ライブフロアと海水浴場は海水浴の邪魔にならないように腰くらいの高さのついたてで仕切られていた。

出入りも自由で好きなように観戦できるようになっている。


海水浴場も無料で自由に入れる海岸だけあって早くから多くの人が利用できる。

海で遊んでる人や砂浜を散歩しながら会場を眺めてる人、海の家がまだ空いてないのでそのベンチを利用して休んでる人などさまざまだったがみんながフェス目当てで集まっていた。



僕達が吉沢さんの用意した車で海水浴場の駐車場に着いた頃には、かなり多くの人がいて僕達が到着するのを楽しみに待っていてくれたようだ。

『今日は頼むよ!』

『最後までいるから楽しませてねっ!!』

『頑張って最高に楽しませてね!』

多くの人から激昂の言葉をもらって僕達のやる気は最高潮だった。


駐車場でまこっちゃんと合流して、まこっちゃんがこの日のために集めた精鋭警備部隊に誘導されながら、会場の裏手に楽屋の代わりに用意された関係者テントに荷物を運んだ。


いよいよ今日が始まるのだ。

人生の節目といっても過言ではないだろう。

未だ経験したこともない大きなイベントの幕が上がるのだ。

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