4月のライブ

4月のライブでは今までは先着で販売していた500枚のCDを今回は販売しないことにした。

販売という形式ではなく、来場者全員に無料配布する事になったのだ。

8月のフェスの宣伝になると、吉沢さんが宣伝費としてCDの制作費を出してくれたのだ。


宣伝CDのため、8月のフェスで歌う曲ばかりを収録した。

海水浴場を宣伝するTVCMでは、イメージソングとして僕達No Nameの楽曲を流してもらえる事になったので、その曲を1曲目に収録してより多くの人に覚えてもらう事にした。


そしていよいよ4月のライブ当日

天使のような悪魔のGigs Vol,3

〜名前のないもう一つの空の色〜


入り口で来場者全員に8月のフェスの告知フライヤーと配布CDが配られる。

来場者の驚きは隠しきれず、多くの人から質問された。

『また復帰するよね?』

『いつまでもファンとして待ってるからな!』

『受験頑張れよ!!』

暖かい応援を沢山もらう。


あやちゃんは空彩解散を発表してるので多くのファンが解散を惜しみ涙する人もいた。

長年やってきたバンド活動で空彩には多くのファンがいる。

愛されてきた証拠だ。空彩への質問が殺到。

まるで質問責めだ。


ライブ開演前のトークなのに8月フェスの質問コーナーと化している。

開演後もすれ違う人達に次々と質問や激励で声をかけてもらえる。

愛されてる実感が湧き、すごく感慨深いのだ。

空彩が抜けてはこのライブを続ける意味はない。

3バンドが揃って主催するのがこのライブなのだ。

8月のフェスでシリーズは終了する事は決定済みだ。

多くのファン達が惜しんでくれるので少し複雑な心境だった。



この日に話した人「全員」が8月のフェスに行くと言ってくれた。

まるで8月のフェスの宣伝のために4月のライブがあったと錯覚してしまうほど、8月のフェスの話題でもちきりだった。


ショックを受けた人も多かったみたいで、この日のBAR売り上げは、お酒が多く注文が入っていつもの倍近くあったと後で吉沢さんから聞いた。


ライブが始まると来場者も演奏を楽しむ雰囲気に変わりいつものライブに戻った。

参加バンドが次々と演奏をして持ち時間を消費する。


今回5番目の演奏バンドを担当するのは「Another」

主催バンドの1つであるAnotherがステージに上がり

『本日はご来場ありがとうございます。

皆さまに告知させて頂いた通り、次回8月のフェスで天使のような悪魔のGigsはファイナルとさせて頂きます。』

『1年間にわたる皆さまの応援は、私たち開催バンド全員の宝であり一生忘れません。

8月のフェス、どうしても全員に感謝を伝えたい。

お忙しい中だとは思いますがお友達などをお誘いの上、どうかご来場お願いします。』


ゆうじくんの言葉に会場内は熱狂に包まれた。


ライブハウスの入り口に3000枚

8月のフェスのフライヤーを置いていたのだが、ゆうじくんの発言の後にみるみるなくなっていった。

来場者の人達が周りの人に配るために持ち帰ってくれたのだ。


ライブの進行は次々と進み、9番目のバンド

空彩の出番だ。

あやちゃんがステージに上がり最初の一言で妊娠を発表。

『8月にフェスをしてシリーズライブを終了するきっかけは、私の妊娠による空彩の解散です。

ご支援して頂いた皆さまには非常に申し訳なく思います。

本当は何年も続けて行きたかったライブですが、私はどうしても赤ちゃんを産みたい。

年齢もそれなりになってきたので将来を見ないといけないと思っています。

私のワガママですがどうか許してください。

8月のフェス。今まで感じた事もない最高の空間を作るので“覚悟して”ご来場ください』


会場は未だ聞いた事もないくらい大きな歓声で満たされた。

涙するファンが多い。みんな空彩が大好きなのだ。

演奏が始められないくらい歓声が止まない。


あやちゃんもステージの中央で涙を流している。

解散する決断をしたあやちゃんが1番辛いし寂しいのだ。

その気持ちは会場にいる全ての人が察していた。


涙や惜しむ声が飛び交い、10分くらいは演奏できないままただ時間だけが流れていったが誰一人それを責める人はいなかった。

会場全体であやちゃんがステージに立っている空間を満喫しているようだった。


『元気な赤ちゃんを産んでね』

『今までたくさん元気をくれてありがとう』

『解散しても空彩の曲は聴き続けるしいつまでも大好きです』

やがて多くのお客さん達があやちゃんに想いを伝え始めた。


僕達はこの来場者の暖かい言葉や行動に感動して涙が出た。

収集がつかないから僕達もステージに向かう。

『皆さんの暖かい言葉、しっかりあやちゃんに伝わったと思います。

本当にありがとうございます。

私達共演バンドや、ご来場の皆さま全員。この空間にいる全員であやちゃんの門出を盛大にお祝いしちゃいましょう!!全員拍手!!!』

あきちゃんがステージに出て会場全員に拍手をさせる。

大きな拍手に包まれながら空彩の演奏が始まった。


あやちゃんは涙が止まらず、まともに歌えなかったが多くの人が知っている曲を演奏するようにしていたので会場全体でみんなで歌った。


最後の大トリ

10バンド目は僕達No Nameだ。

時間はかなり押している。

閉演時間の5分前だ。


『あと5分しかないから1曲だけいくね!』

あきちゃんが僕達に合図を送った。

僕達は合図を察して1番盛り上がる曲で締めくくろうとして演奏を始めようとした時


『俺の腕時計はまだ18時30分だぞ?あと30分の間違いじゃないのか?』

突然大音量のマイク音声で吉沢さんの声が響き渡った。


『ごめんごめん!!あき興奮しちゃって時計読み間違えちゃったみたいだ!

それじゃあラスト30分、気合い入れて行くよー♪』

咄嗟に吉沢さんの好意を汲み取り、暗黙の延長時間が始まった。


ファンの来場者はもちろん、各参加バンドの人達や運営のスタッフさん、scrambleのメンバーやまどかちゃんにまこっちゃんなど、この日ライブハウスにいた人が全員で最後の時間を楽しんだ。


キミと見たライブの景色は今回

悲しみと寂しさ溢れる中、人々の暖かさが広がる素敵な空間だった。


『絶対に来年、受験が終わったら活動を再開しよう。』

そう誓って8月のライブのために全力で練習に励む事にした。


今までとは別次元の、僕達史上最高の演奏を届けるために。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る