終わりの告知
No Name、Another、空彩の3バンドが作り上げていくこの共同主催ライブの世界はいつまでも続くと思っていた。
人気も絶頂でライブも大盛況。
チケットも飛ぶように売れる。
もちろん僕達だけの力ではない事は充分に把握していてAnotherと空彩がいないと開催は難しいことも理解している。
この3バンドがずっと活動を続けていくと考えていた。
毎年3回のライブを何年も繰り返していくものだと思っていたのだが、終わりは突然やってくる。
4月に行うライブ「vol.3」を目前にした2月の中旬頃の話だ。
『ごめんね、妊娠しちゃったみたいなの。
赤ちゃん産みたいと思うからライブを続けていくのはすごく難しい。
8月のライブで空彩は終わりにしようと思ってる。』
空彩のボーカルのあやちゃんから突然告げられた。
あやちゃんは24歳。結婚も考えるような年齢なのだ。
この期に結婚をするそうだ。
まだまだ子供で結婚や出産などは考えることも出来ない僕達だけど、あやちゃんの気持ちはすごく理解出来たし応援するべきだと感じて承諾した。
ずっと続くと思っていたシリーズライブはあと2回で終わりを迎える事となった。
『残り2回のライブ、全力で楽しんで素敵な思い出を作ろうよ。
そしてあやちゃんの子供に将来、思い出を話してあげようよ。』
あきちゃんはこの話し合いを綺麗にまとめた。
そう、あやちゃんとは縁が切れるわけではない。
快くあやちゃんの出産を祝福できるようにその場にいた3バンド全員が残り2回のライブへのモチベーションを最大限に高めた。
僕はこの年、中学2年生になる。
まだ何をしていてもいい頃でバンド活動に専念できるが、あきちゃん達はみんな3年生。
進路のことを気にしないといけない。
あきちゃんは何もしなくても余裕だ。
行きたい高校にも行けるしやりたい事をなんでも実現できてしまう。
恐らく卒業と同時に起業しても大成功を収めるだろう。
だけど他の3人はそうはいかないのだ。
シュウとゆいちゃんはそこそこ勉強が出来る方なので追い込めばなんとかなりそうでもあるが、ノブは少し絶望的である。
4人全員が同じ高校に行って音楽を続けたいと話してるので受験勉強を頑張らないといけない。
勉強期間が必要なのであれば、この機会に僕達も8月のライブを境に受験のため活動を一時停止にしようという事になった。
その翌年は僕の受験だけだ。
僕は受験勉強なんてする必要ない。
メンバー4人が受験しようとしている高校なんて今の僕でも簡単に合格できる確信がある。
つまり今年の受験をノブが乗り切ったら良いのだ。
さまざまな想いを胸に、ライブハウスのオーナー吉沢さんに話の報告をした。
吉沢さんは少し残念そうな表情をしたが、すぐに明るい笑顔で僕達の決断を尊重してくれた。
4月のライブ当日に来場者へ、次回ライブで定期ライブの終了を告げる事にした。
そして、吉沢さんからの提案。
8月に行う【ラストライブ】は規模を格段に跳ね上げる事になる。
歴史に残るようなライブにしようと話を持ちかけてくれた。
吉沢さんは毎年8月に海水浴場で海の家を幅広く経営している。
そこの自治会と話をまとめて大規模なフェスをやる提案だった。
もちろん主催は僕達3バンドで定期ライブのファイナルとして。
フェスといっても海水浴客が無料で聴ける、入場料や前売りチケットなどもない自由入場型のライブなのだが、長時間開催するので参加バンドも30バンドくらい集めたい。
朝9時頃からスタートして夜21時くらいまでを考えているそうだ。
たくさんの人が訪れ、屋台などもたくさん並び大規模に盛大にやろうという提案だ。
今までのライブと違い、集客に収益がないので全てのお金は吉沢さんが出してくれる。
吉沢さんはその集客により海の家や屋台などの利益が上がる見込みがあるのと、スポンサーをつけて出資させて開催する予定だと言っていた。
そして何よりも地域の活性化につながるメリットが大きいから全く問題ないそうだ。
僕達は普段通りに参加バンドを募り、宣伝のフライヤーを配って集客をするだけ。
チケット売りやノルマなどは全くない。
練習に励めば良いだけなのでいつもよりは気が楽だ。
当日はスポンサー宣伝なども必要であったり、規模が大きいから運営スタッフの確保なども必要なので吉沢さんが全て手配してくれる事になった。
進行のMCにはテレビに出ているタレントさんを起用。
地元のローカル局のTVCMでは海水浴場の宣伝として流れるCMの中に、フェスの告知も混ぜてもらえる事となり大きく告知された。
こうして僕達3バンドの共同主催ライブは大規模なフェスで締め括る事になった。
4月のライブの打ち合わせを進めながら8月のフェスの告知内容を僕達3バンドと吉沢さんを含めて話し合った。
「No Name」「Another」「空彩」3バンド主催
地域で人気の総勢30バンドが集結!!
天使のような悪魔のGigs『最終章』
〜名前のないもう一つの空の色〜
空彩解散&No Name受験の為活動休止!
最後の定期ライブは大規模フェスを開催!!
入場無料 自由参加フェス
1996年8月11日(日)開催!
開場8時 開演9時 閉演21時
4月のライブまではこの事は秘密だ。
僕達3バンドとその関係者、吉沢さんしか知らない。
SNSなどもないこの時代、情報が簡単に漏れる事もなくひっそりと準備が進んだ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます