大人の支援者

残された西村先生と僕達は少し話した。

『私はこの学校の音楽専門教師で西村と言います。

他の先生達よりも若干キミ達と年齢が近いから話しやすいとは思います。

学校の先生という少し固い立場で考えなくてもいいから親しみやすく相談しやすい大人でいようと思ってるので何でも相談してきてね。』

めちゃくちゃ優しそうな人だ。

あきちゃん達は学校の音楽の授業でお世話になってるらしくすでに懐いている。


『この街で昔、バンドをしていた事もあるから今後のキミ達の活動にも協力しやすい環境や知識もあるし、繋がりとかもたくさんあるからうまく使ってね。』

18歳未満だとライブの申し込みすら出来ない。

ちえさん達は仕事で忙しいからバンドの保護監督者としては少し余裕がなかったので西村先生の申し出は僕達にとって素晴らしい提案だったのだ。


『ただ、お願いがるの。

キミ達の演奏は素晴らしく、聴く人を夢中にさせる力を持っている。』

『だからこそコピー曲ではなく、オリジナルを作っていこう。

キミ達だけの音楽を作って世界に発信していこう。

もっとバンドが伸びるためには、キミ達が本気でバンド活動していくためには、オリジナル曲が必ず必要だから。』



言葉にはしていないが、いずれはオリジナルでやるつもりだった。

みんな同じ気持ちだったと思う。

だけど話し合った事はなかった。

未知の世界すぎたのだ。


オリジナル曲でライブを盛り上げる姿を想像して全員がニヤけた表情になっていた。

『みんなやる気みたいだね』

表情だけで僕達の肯定が西村先生には伝わっていた。


『ところでキミ達は誰かに音楽を教わって練習してるの?

基礎がしっかり出来てるしそもそも年齢にそぐわない技術の高さにビックリしたよ。』

僕達はこれまでの流れや、あきちゃんのお母さんやその元バンドメンバーに各楽器の演奏を教わっている事などを西村先生に話した。


『へぇ、身近にそんな人がいて恵まれた環境だったんだね。

私も近い内に挨拶をしておきたいから機会があったら合わせてね。』

西村先生がちえさん達に会いたいと言い始めた。

『今日文化祭に来てるから今から呼ぼう。』

あきちゃんはそう言って西村先生から携帯電話を借りてちえさんに電話をかける。

この時代はまだ大人くらいしか携帯電話を持っていないような時代だったのだ。


『ママ!あきだよ。うん、いっぱい怒られてきたよ。

先生がママに会いたいって言ってるから職員室の横の部屋に来て!』

あきちゃんはそれだけ言うと電話を切った。

その言い方だとちえさんは親も怒られるのだと勘違いして来るだろう。

電話を切った後のあきちゃんのニヤけた顔は、わざと勘違いさせるために説明をせずに電話を切った事を物語っていた。


ちえさんは光の速さで職員室の横の部屋に飛んできた。

正式に計測されていたらギネスに載っていたかもしれない速さだ。

『ウチの子達がご迷惑をおかけして申し訳ありませんでした。』

部屋に入るなり謝罪で始まるちえさんの挨拶。


『えっえっっ!!「ちえさん」ですよねっ?』

西村先生はちえさんを見てすぐにパニック状態だった。

ちえさんもこの学校出身でこの街でバンド活動をしていたのだ。

しかも年代もそう変わらないだろう。知っていてもおかしくはない。


『私、ちえさんの一つ年下で西村と言います。

私がこの学校に入学して1年生の時に初めて見た文化祭のライブで、2年生のちえさんを見て感動してバンドを始めました。』

『ちえさん達のライブも何回も行きました。大ファンでしたっ。』

どうやらここでも世間は狭かったらしい。

ちえさんのかつてのファンがちえさんの娘達のバンドを顧問するのだ。


今後西村先生が顧問となってくれる事になった話や、オリジナル楽曲をこれからは作っていくなどの話をちえさんにして体育館に戻る事にした。


『じゃあ、これからこの子達の事を頼むわ。よろしくねっ「まどかちゃん」』

下の名前を名乗っていない西村先生はウルウルと涙目になる。

『私の事知ってくれてたんですねっ。』

ニヤリと笑うちえさん。やっぱりあきちゃんと親子だなって思った。

戻ってくるように言われているのと、話がまとまった報告をするために教頭先生のいる体育館の舞台袖に僕達は戻った。

文化祭も終盤になり、ライブ以外にも様々な催し事などが終わっていた。

教頭先生の挨拶の時間の直前だったので僕達は待つように指示された。


教頭先生がステージに上がっていく。

本日の文化祭に対しての締めの挨拶だ。

この学校は校長はほとんど出てこないそうでなんでも教頭がこなす。

教頭先生は月並みの当たり障りのない挨拶をステージ中央でした後、舞台袖の僕達の方を見ながら手招きをした。

『本日、ライブ演奏の時間で最高の盛り上がりを見せてくれた5人を呼んでいます。』

紹介が始まったので出ないといけない流れだ。

僕達は全員、ステージに上がり中央に進む。


『持ち時間を無視したパフォーマンスや、本来参加を許可出来ない他校の生徒に内緒で演奏させた事に対しては充分な罰を与え、謝罪もしっかりしてもらいました。』

『そして彼らの決意、意識、目標、方向性などをしっかりと聞かせてもらい、当校の音楽教師である「西村先生」が顧問となりバンド「No Name」を全面的に応援する事となりました。』

会場内が大きな歓声と拍手で沸く。


『まずは私から、素敵なライブ演奏をありがとう。

そしてここにいる生徒達に夢と感動を与えてくれてありがとう。』

教頭先生のこの言葉により会場内の様々な所から「ありがとう」「最高だったよ」などと称賛の声が飛び交う。

感動しすぎて大勢の前で泣いてしまいたい気持ちを抑える事で精一杯だった。


ゲリラライブで大切な伝統の文化祭を荒らした僕達に、ここまで大体的に応援すると宣言してくれた学校側の対応や、学校全体の支持を得た心強さで震えた。



あきちゃんはマイクを取りステージ中央から愛を叫ぶ

『みんなっ。ホント大好きっ。

今日はありがとう!!すごく楽しかったし盛り上がってくれたみなさんのおかげで大成功。

これからはあき達はオリジナル曲を作って本格的にライブをしていきます。』

『これから音楽でどんどん有名になっていくから覚えといてねっ。』

『そんなNo Nameの初ライブを堪能した幸運なみんなっ!

これからもずっと応援してねーーーーっ』


最後はやっぱりあきちゃんが中心の世界になる。

王者の素質と言えば良いのだろうか?

あきちゃんにはそういう物が才能として与えられているんだと感じた。

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