文化祭ゲリラの罰
連行された僕達が連れて行かれたのは職員室の隣にある細長い部屋だった。
大きなコピー機が1台とソファが向かい合わせに置いてあるだけの部屋。
プリントの印刷をしたりする部屋と、応接間のような部屋を兼用した場所みたいだ。
偉そうな大人が2人座っているソファの向かいに僕達5人は座るように促される。
自己紹介され、この学校の教頭先生とPTAの会長さんだと教えられた。
めちゃくちゃ偉い人が直接怒りに来たのだ。
僕は身構えた。
『キミ達が今日した行為についてはよくない事だ。
その事については叱らないといけないと私は思っている。』
教頭先生の攻撃が始まった。
『ごめんなさい。ご迷惑をおかけしました。』
一言めから謝る僕達に教頭先生は少しびっくりして目を見開いた。
この年代の子ども達はまず言い訳をする子が多いのだ。
『怒られるとわかっていてやったのかな?』
PTA会長さんは僕達に聞く。
僕達はみんなコクコクと頷いた。
『はい。怒られるのはわかっていました。覚悟の上です。』
『深く反省はしています。悪い事だとわかっていてもやらないといけない、曲げられない物があったのでやりました。罰は受けます。』
あきちゃんがサラサラと答える。
怖くないのだろうか?
『この子は他校の生徒でしかも小学6年生です。中学生でもありません。
あきが強引にやらせるために連れてきました。』
さらに僕を庇うような言葉も先手を打って先に話すあきちゃん。
『これほどまでして曲げられない物と言うのは何なのかな?』
教頭先生の興味が向いた。あきちゃんのペースになってきてる気がした。
『バンド活動です。あきは人生をかけて音楽を始めました。
音楽のために小学生の時に中学生が習う勉強も全て終えて時間を作れるように努力しました。
この1歳年下の「ゆうちゃん」も一緒にです。
他の3人は勉強は他の生徒と変わらない学力ですが、勉強が遅れないように私達が教えていきながら音楽活動を続けています。』
シュウ、ゆいちゃん、ノブの勉強が音楽のせいで遅れないように平日にあきちゃんが教えていたらしいのだ。
『どこまで通用するのかはわかりませんが、私達の音楽を多くの人に知ってもらうために、中学生でお金のない私たちは今出来る事はなんだろう?と考えた結果この文化祭に出させて頂く事と、大きく爪痕を残す事が最善だと判断した結果です。
どんな罰を与えられるよりも得られる物が大きいと判断しました。』
あきちゃんはここまで考えていたのだ。
大人達も思わず黙ってしまう。
長い沈黙の後に教頭先生が口を開いた。
『罰として、バンド活動を禁止されたらどうしていた?』
究極の質問だ。アルティメットクエスチョン!!
『その時は学校を捨ててバンド活動に専念していくつもりです。
学校になんて通う理由がなくなると感じます。』
あきちゃんは恐れを知らない。
言いにくい事を大人を相手にサラッと言ってしまう。
『高校に行けなくなっても大丈夫なのかな?』
教頭先生は苦しくなってくる。
『学力の事なら全然問題ありません。
どんな難関な高校でも今すぐに簡単に満点で合格する自信はあります。』
『内申書の事で脅しているなら別の方法で高校から欲しがる人材として自分で自分のステータスを提示します。
あきが天才少女として有名になれば学校側は生徒として欲しがりますよね?
テレビにでも出て世間を驚かせてやりますよ。』
あきちゃんならやりかねない。
出来てしまう実力を持っているから説得力があるのだ。
学校の先生もあきちゃんの天才っぷりは知っている。
中学の授業でも先生がわからない質問を繰り返して問題になっていたらしいのだ。
かなり若い女の先生が部屋に入ってきた。
『すいません少し話を聞いてしまいました。突然で申し訳ありませんが、この子達を私に預けて今日の件は不問にする事は出来ませんでしょうか?』
『私は長く音楽をやってきましたがこんなに素晴らしい音楽に出会った事はありません。
しかもまだ中学1年と小学6年なんて信じられないです。』
『音楽が盛んなこの学校で教頭をしているなら、この子達の素晴らしさを充分に理解していると思っていますがどうでしょうか?』
教頭先生は「うん」と言いながら頷く。
『私が今後、この子達の監督であり、保護者となり道を誤らないように導きます。
この子達は今後必ず日本中に知れ渡る活躍をするバンドになります。
そのスターを追放した学校になるよりも、スターが誕生した学校になりませんか?』
大人の女性をここまで言わせた僕達の音楽に僕は感動して震えていた。
『キミ達は悪い事をした。その件については謝罪も受けたし西村先生が学校側にメリットのある条件を用意してくれた。なのでこれで今回の罰は終わりとしよう。』
『次は当校の文化祭を盛り上げてくれたお礼だ。
今までにない最高の盛り上がりが今日の文化祭にあった。この学校始まって以来初めてだ。
最高の時間と生徒達に夢を与えてくれてどうもありがとう。』
教頭先生の言葉に僕達は涙が出た。
もう怒られないという安心感と、認められ承認欲求が満たされた感覚が混ざり合う。
『それでは私達は体育館に戻る。キミ達も終わるまでには戻ってくるように。
客席ではなく舞台袖に来てくれ。』
そう言い残すと教頭とPTA会長さんは体育館に戻って行った。
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