バンド結成
あきちゃんは中学入学から引っ越して遠くの学校に通った。
僕はただ地元で6年生に上がっただけだ。
距離がものすごく遠くなってしまったので会える時間が短くなってしまうのが嫌で、朝早くに家を出て会える時間を極力減らさないように努力した。
いつも9時くらいに家を出て9時30〜40分頃には会っていたのが、7時に出て8時30分頃には会うようになった。
帰りも早くなる分、このくらいの調整は必要だ。
この調整に少し睡眠時間の負担はあるが、早起きだけ頑張れば会える時間を減らさなくても済むので苦にならなかった。
僕は時間を減らさずあきちゃんと会うためにならこのくらいの努力は全く問題ない。
こんな新しいスタイルの生活にもある程度慣れてきた7月上旬、週末いつものように朝からあきちゃんの家に行くと知らない人が3人来ていた。
新しい学校の友達かな?
僕は軽く会釈をしてあきちゃんの方を見た。
『この子がゆうちゃん。
あきの彼氏で年は一つ下の小学6年生。』
僕の事をその3人に紹介するあきちゃん。
『初めまして。』
僕は挨拶だけしてみた。
『じゃあこの3人の事も紹介するね。』
あきちゃんは僕に向かい全員の自己紹介を始める。
『シュウとゆいちゃん。この2人は幼馴染で恋人同士。
お互いの両親が昔、同じバンドをしていたメンバー同士らしい。
生まれる前から家族ぐるみで付き合いがあるんだって』
『こっちはノブ。絶賛彼女募集中。』
3人が僕に会釈で挨拶をしてくれる。
『シュウがベース、ゆいちゃんはドラムをしてるの。
ノブはギターをやっててみんなにあきとゆうちゃんの話をしたら是非一緒にバンドがしたいって話になったの。』
『この5人でバンドをしよう♪』
質問や提案ではなく決定事項の報告をするあきちゃんの話し方。
あきちゃんが自信を持って相談せずに決定してから報告してくる時はあきちゃんの決定を信じていればまず間違いない。
この人は成功の確信があるからこそ決定するのだ。
僕は喜んで快諾した。
今年から夏休みは毎日会うために通うのは少し負担が大きすぎると話していた。
僕は親に相談して、夏休みにまとめてあきちゃんの家に泊まる許可をもらった。
とは言っても夏休み全ては流石にダメだったので夏休み期間の半分をお泊まりする事になった。
かなり特例のお願い事だったがちえさんが僕の両親を説得してくれて何とか実現が出来た。
夏休みの最初の週はあきちゃんの所に行くのを我慢して夏休みの宿題を全て終わらせる。
親が不安に思う要素を排除して行くつもりなのだ。
そして2週目からしばらくあきちゃんの家にお世話になる。
何気なく初めてのお泊まりだ。
僕はかなりの緊張があるが、今まで通い続けているあきちゃんの家である。
ちえさんとなっちゃんは元より仲良しだ。
あとちえさんのお母さん、つまりあきちゃんのおばあちゃんが住んでいるがあきちゃんに甘々のおばあちゃんなので彼氏の僕の事もすごく可愛がってくれている。
みんながすでに家族のように接してくれて理解のある人ばかりだ。
僕はまず両親から預かってきていたお金をちえさんに渡す。
2万円を食費として預かっていたのだ。
僕の両親は気を使い、必ず渡すように言い聞かされていたのだ。
ちえさんは受け取ろうとしなかったが、受け取らなかった場合電話をしてくるように親に言われていると告げると渋々受け取ってくれた。
小学生とはいえ、食べ物を食べる。
お風呂にも入る。
食費や光熱費が上がってしまうので長期間お世話になる時には当然の事なのだ。
夏休みはバンド活動を本格的に始動したいと考えていた。
ちえさんが生まれ育った地元でもあり、あきちゃんが引っ越したこの街はライブハウスがたくさんあってバンド活動が盛んな街だ。
スタジオも多く、安いスタジオは1時間800円という価格で借りられるのがとても魅力だ。
僕達はメンバーが5人に増えた事もあり、スタジをを借りるのに1時間1人あたり160円で借りられるので気楽に音合わせが出来るのだ。
あきちゃんの家に泊まりがけになる初日、みんなに集まるようにあきちゃんが手配してくれていたので駅前のスタジオに集合した。
事前にあきちゃんがみんなから演奏できる曲を聞いていた。
全員が一致して演奏できる曲は3曲。
その中に僕が初めて練習したあの曲も含まれていた。
初めての音合わせは僕とあきちゃんが最も得意なあの課題曲。
初めて録音している他の楽器の音源を使わずに全パート演奏すると、今までの数百倍も完成度の高さに僕達は興奮状態になった。
シュウとゆいちゃんが奏でる低音を真横で聴くと心臓が躍るように刺激を受ける。
すぐ隣でこの音が演奏されてると思うと全身がゾクゾクとする。
シュウも僕のギター演奏に何かを感じている様子で、コッチっを向いて派手にパフォーマンスをしながら笑顔を向けて演奏している。
ノブは演奏についていくのに必死なのか黙々と演奏していて笑顔が少ない。
あきちゃんはそんなみんなの演奏を身体中に感じながら楽しんでいる。
今までのどんな演奏よりも最高の1曲となった。
全員がこれまでにない高揚感を感じながら全力で楽しんで演奏しているのだ。
『やっばいよこれ!!!
例えられる表現がないけど、かなり控えめに言っても「最高」の一言だよ。』
あきちゃんが興奮を抑えきれないまま感想を叫ぶ。
僕達も全員がその感想に同感だった。
誰もがこの素晴らしい感情を「最高」としか表現のしようがない事が悔しいと感じながら、人生で今までに味わった事のある何よりも楽しかったと感じる。
全員一致でこのメンバーでやっていく決意をした。
あきちゃんはスタジオの機材からMDを取り出すと自分のカバンに入れた。
『実は録音してたの。ママに聴かせようと思って!!』
僕も今の演奏をちえさんにどうしても聴いてもらいたいと感じていたので用意周到なあきちゃんに感謝した。
他のメンバーもちえさんが昔バンドをしていた事や、僕達の活動に協力的な事を知っている。
最高のメンバーが揃ってバンド結成した報告が出来る事が嬉しかった。
『バンド名どうすんの?』
帰り道でシュウが聞いてきた。
確かにそんな事など全然考えていなかったが必要があるのかもしれない。
『みんなの意見を出し合おうよ〜』
ノブが全員の意見を求める。
『英語がいいな〜。和名は少し苦手意識あるし。』
ゆいちゃんが早速意見をくれた。
僕はあきちゃんの意見が聞きたくてあきちゃんの方を見た。
『まださ、あきたちは子供で中学生になりたてのメンバーと小学6年生のメンバーだよ。
これから色んな事があるだろうし、様々な経験をして成長していくと思う。
感性や考え方も変わるだろうし方向性も変わるかもしれない。』
『だからさ、最終決定の名前じゃなくていいと思うの。
まだ名前なんてありません。これからの自分達の色によって決まるかもしれない。』
『そんな意味を込めて【No Name】って名前にしよう♪』
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