カラオケ

夏休みが終わり9月になった。

平日にあきちゃんの家に行くことが出来なくなり、月、水、金の塾の授業前の1時間と水曜日の自習室での時間、日曜日にちえさんからギターを教わる時間しかあきちゃんと過ごせる時間が無くなってしまった。

これでもかなり多い方なのだが夏休み中はほぼ毎日あっていたので物足りない。

僕の中の大半はあきちゃんが中心になっているみたいだ。

あきちゃんの事ばかりを考えてしまう。


そんなあきちゃんから10月1日の木曜日、僕の誕生日にお誘いを受けた。

『10月1日の木曜日のゆうちゃんの誕生日、ママにカラオケに連れて行ってもらおうよ。』

木曜日に会えるだけで歓喜なのである。

最高の誕生日だ。

僕は即答で行きたいと伝えた。


あきちゃん、なっちゃん、ちえさん、僕の4人でいく事になった。

僕は親にもちゃんと話し、この日は22時くらいに帰宅する予定でカラオケに行く事を許可してもらったのだ。

小学生なのでこの辺りはキッチリしておかないと心配をかけてしまう。


僕はまだカラオケに行った事はなかった。

人生初めてのカラオケだ。少し緊張してしまう。


部屋に案内されてカラオケボックスに初めて入る。

大きなモニターにマイクスタンド、初めてみるカラオケの機械や音響。


ドリンクを注文すると、お店の人がドリンクとケーキを一緒に持ってきた。

軽いバースデーサプライズを用意してくれてたみたいだ。

ドリンクで乾杯して誕生日を祝ってくれた。


最初の1曲目はあきちゃんが入れた。

僕がギターの課題曲にした、一生懸命練習したあの曲だ。

男性ボーカルのこの曲をあきちゃんはどう歌うのだろうか?


イントロが始まるとちえさんとなっちゃんは僕の方を見ながらニヤニヤしてる。

この家族の事だ。また何か仕掛けてるのだろうか?

僕は少し身構えながらイントロを聴く。

自然と僕の左手は音楽に合わせてギターを演奏するときの動きになっていた。


イントロが終わり、あきちゃんが歌い始める。

その歌声の迫力に僕の全ての意識はあきちゃんの歌に釘付けになり圧倒的な衝撃を受けてしまった。

曲が終わるまであきちゃんから目を離すことが出来ない。

たかだかカラオケボックスの音響で、小学生の女の子の歌声にこれほどの力があるのか…


それはテレビやラジオで聴く、本物のアーティストの歌声よりも圧倒的で力強かった。

歌声に魅了されて全身に衝撃が走る。

まるでこの曲はあきちゃんの楽曲ではないのかと錯覚してしまう。

曲が終わる頃には感動で涙目になってしまい全身で幸福感に包まれていた。


『キミがこの曲を一生懸命頑張ったからあきも頑張って練習したんだよ。

何百回も聴き込んだり歌って録音したり、アレンジしたり試行錯誤してたんだよ。

こんなに頑張るあきを見たのは初めてだよ。』

ちえさんから聞くあきちゃんの努力。

あきちゃんは元々歌が上手い。

天才が努力するとここまで実力を発揮するものなのか。


『めちゃめちゃ良くない?本物よりもうまいよね!』

ちえさんの言葉に僕はコクコクと頷いた。

あきちゃんの歌を多くの人に届けたい。

見合う演奏をするために僕はもっともっと努力して練習しようと思った。

このカラオケで僕のモチベーションはさらに上がり、ギターの練習に励むようになった。


あきちゃんは練習する時間にそれほど余裕がなく、まだこの1曲しか練習が出来てないみたいで他の曲は普通だった。

普通と言ってもまぁ、普通に上手いのだが。

カラオケが上手な人のそれなりの…くらいの歌声だった。

楽しく盛り上がりながらみんなで歌い、あっという間に時間が過ぎた。



あきちゃんの歌を本格的に聴き、音楽の魅力は深まっていく。

早くメンバーが揃ってバンド活動がしたい。

小学生の僕は早く大人になりたい、もっともっと成長したいと願った。

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