1年間
次に練習する曲をあきちゃんと一緒に決めて1曲ずつ確実にマスターしていく。
1ヶ月に1〜2曲のスローペースではあるが確実に練習して演奏できる曲が増えていく。
月、水、金の塾の授業の前、水曜日の自習室
日曜日はあきちゃんの家に行きちえさんからギターを習ったり練習曲を合わせたりする。
ほとんどが音楽の毎日だったがあきちゃんと一緒なので非常に充実して楽しい日々だった。
10月に僕の誕生日とあきちゃんの誕生日
12月はクリスマス。
音楽以外でも一緒に過ごす時間を可能な限り作り、お互いの存在は何にも負けないくらいかけがえのないものとなっていった。
冬を超えて3月、塾の進学コース継続試験の日時が近くなる。
僕とあきちゃんが出会った日だ。
この塾では入塾試験以外にも毎年試験がある。
試験で進級可能かどうかを図るのだ。
勉強がついてこれない子はここで通常コースへ移される。
4年生で入塾して、6年生卒業まで残る人数は半分以下なのだ。
1年前のこの日、僕は入塾試験、あきちゃんは継続試験を受けていたのだ。
最初の印象は最悪だったあきちゃんだが魅了され気がつけば大好きになっていた。
この1年、かなりの時間を一緒に過ごしたし様々な話もした。
継続試験は例年通り2時間で終わるのでいつもより早く塾が終わる。
早く終わるからこそこの日は終わってからも会う約束をした。
試験が終わった後にあきちゃんが教室に迎えに来てくれると言っていた。
試験はやはり簡単で特に苦も無く答えることが出来た。
自信もあったので結果発表に緊張するまでもない。
淡々と帰る支度をしているとあきちゃんが迎えに来て僕達は塾を出た。
この日は2階のいつものベンチではなく、エレベーターで1階まで降りた。
駅の近くの公園に行き、話ながら歩いた。
『今日で出会って1年だね。』
あきちゃんはキラキラした笑顔で僕に言う。
『この1年すっごく楽しかった。あきは同級生とかと話してても全然楽しくなくてみんなレベル低いから合わせて話すの大変なんだよね。』
『ゆうちゃんも学校の友達に同じような事を感じてない?本気で話せるのゆうちゃんが初めてだしさらに音楽の趣味も合う。一緒に目標にしてる所も同じで本当に楽しい1年だった。』
僕も同じように思うし同じように1年間感じてきた。
同年代の友達とは全く話が合わなかったのであきちゃんが本当に心の底から楽しみながら話せる初めての人だったのだ。
最初は絶対に関わりたくないって思った。
話すとすごく魅力的でどんどんあきちゃんの世界に吸い込まれていった。
音楽の趣味が合い、全力で話してもついて来てくれる。
僕の知らない事もたくさん知っていて僕の強すぎる知的好奇心を満足させてくれる。
めちゃくちゃ頭が良くて記憶力が人並外れている。
ニヤリと笑う笑顔が可愛くて、小柄で細い身体に収まりきれない溢れる元気良さ。
尊敬する部分や憧れてしまう部分をたくさん持っている。
そんなあきちゃんの事が大好きで堪らなくなった1年間だった。
夏にはあきちゃんの家に遊びに行くようになり、ギターと出会った。
ちえさんにギターを教えてもらうために毎週通うようになった。
ギターを覚えていき、一緒にバンドを始めたあきちゃん。
将来はメンバーを揃えてライブをしようと誓い合った。
夢を共有する仲間にもなったのだ。
あきちゃんのボーカルの才能は飛び抜けている。
僕はその歌声に魅了された1人なのだ。
このボーカルに見合うギタリストになるために僕は全力で努力をしている。
あきちゃんとなら何でも出来てしまう自信が湧いてくる。
負けず嫌いの僕なのにあきちゃんには全然何しても勝てない。
でもその勝てない事が苦痛でもなく心地良い。
あきちゃんが一つ年上だからかな?
僕よりも飛び抜けた天才だからなのかな?
それとも大好きなかけがえのない存在だからなのかな?
小学4年生の僕にその結果は出せなかったがとにかく大好きで絶対的な存在のあきちゃんと急激に仲良くなれた素敵な1年間だったのだ。
僕があきちゃんの事を大好きなのはもうバレバレである。
ちえさんとなっちゃんの悪魔的なイジりによりもう知れ渡っているのだ。
あきちゃんにとって僕はどんな存在なのだろう?
この答えを考える事は非常に多かった。
夢を追う仲間としての存在なのは良く理解しているのだが、人として、男としてどうなのか。
まだそんな事を考えるような年齢ではないのだけど気になるものは仕方がない。
その気持ちを知ったからと言ってその後にどう関係を変えていくのかもわからない。
お互いが好き同士でいてもその先どうなるものなのかがわかる年齢ではないのだ。
そんなあきちゃんが突然キッと真剣な表情になる。
『大切な話をするね。』
急に雰囲気が変わり僕は一気に緊張しながら頷いた。
『この1年間、ゆうちゃんとたくさん話したし楽しかった。
将来どうなるのかはわからないけど今は一緒にバンドをしたい、ライブをしたいんだって同じ夢を描いているし、周りの大人も肯定的で協力的だね。』
『もちろんその夢は叶えたいしキミとならそれも可能だと思ってる。
そんな夢を一緒に追う相手だからこそ言うべきではないのかも知れないけどあきはもう抑えられないから正直に言うね。』
『ゆうちゃん、キミの事が好き。大好き。
初めての感情だから比べられる経験もないし基準もよくわからない部分があるけどあきはキミの彼女になりたいと思ってるの。』
『彼氏や彼女って言葉だけ聞くと、終わりが訪れる可能性を考えちゃうから不安だったけどキミとなら終わりなんて無い気がするの。
嫌な事があってもお互いに向き合って話し合ってしっかり解決できる、信頼関係が築いていける相手だと思ってるから言う決心がついたの。』
『キミは今日からあきの彼氏になりなよ!!』
何ともあきちゃんらしい告白である。
僕は涙が溢れ出てくるほど嬉しかった。
必死に涙を流さないようにウルウルとした瞳を擦り、コクコクと頷き何とか必死に声を絞り出しながら『お願いします』と答えた。
周りで僕達を見ている人達や塾の生徒達から見たらもうすでに恋人同士だったかもしれない。
親密すぎた僕達は今までと何も変わらないのかもしれない。
だけど本人達にとってはこの形式の変化は非常に大きな事だった。
僕はやっと念願の「あきちゃんの彼氏」になれたのだ。
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