憧れのギター
僕はギターに憧れていた。
僕がギターを弾き、あきちゃんが歌う。
そんな理想の未来をあきちゃんと塾の日に繰り返し話してきた。
今まではただの憧れでギターを触った事もなく、想像で楽しむだけの世界だった。
初めてギターに触れてみてその気持ちは急加速。
弾けるようになったら楽しいだろうな。気持ちいいだろうな。と目の前にあるギターに夢中になってしまった。
使い方もよくわからず何も演奏できないが、音を出すだけで感激の連続で手がとまらなくて音をならし続ける。
初めてのギターに夢中な僕をあきちゃんはギターから引き剥がした。
『一緒に音楽聴こうよ!!』
まだ朝なのでそんなに大きな音は出せない。
控えめのボリュームで音楽をかけるが、それでも僕が家で聴いている音量よりも遥かに大きくコンポの性能が良いので迫力がすごい。
今まで聞いたことがない本格的な音楽。
心に響く重低音や爽快なギターのフレーズ。
今までは僕は音楽の表面にだけ触れていて、今ようやく音楽とはどんなものなのかを理解したような気持ちになった。
音で感動する事を初めて知った。
『音楽をはじめたい。』
感動して感極まり、ついポツリと呟いてしまった。
『ゆうちゃんはもう音楽をやってるじゃん。』
あきちゃんは僕が習ってるエレクトーンやピアノの事を言うがそうじゃない。
『多分僕が本当にやりたい音楽はこういうバンドの音楽なんだ。
聴く人達を感動させる事が出来るこんな音楽を作りたい。』
僕の話を聞いたあきちゃんはニコッと笑い僕の頬に手を当てて優しい表情をした。
まるで僕が今日、このセリフを言う事をわかっていて待っていたようだった。
僕の目を見て真剣な表情で話し始める。
『キミは器用だから楽器を演奏出来る。前にギターやりたいって言ってたよね。
あきの家に来たら真っ先にギターに興味が出ることはわかってたよ。
あきは歌うのが好きだからボーカルをやってあげるね。キミはギターでいいのかな?』
僕はコクリと頷いた。
あきちゃんが今日、家に僕を招待した理由は一緒に音楽を始める最初のきっかけを作りたかったんだと悟った。
あきちゃんの部屋にあるスコアの中から、僕達が話すきっかけになったあのCDの人気バンド
その代表曲のスコアを手にして僕とあきちゃんはリビングに向かった。
『ママっ!お願いがあるの。』
ちえさんはこの時を待っていたようだった。
笑顔でこちらを向く。
僕はあきちゃんを制して前に出て、ちえさんにスコアを渡す。
『僕にこのTAB譜の読み方を教えてください。』
あきちゃんが続けてお願いする。
『ゆうちゃんにギターを教えてあげてほしいの。』
ちえさんにはあきちゃんが事前に打ち合わせをしていたみたいだ。
ちえさんは大喜びして歓迎してくれた。
お昼を食べてからあきちゃんの部屋で教えてくれる事になった。
もうお昼前だったのでちえさんはお昼ご飯を作っている最中だった。
リビングでちえさんの話を聞きながらお昼を待つ事にした。
ちえさんは16歳であきちゃんを産んでいる。
中学生の頃に真剣にバンド活動をやっていてそこそこ人気もあり、ライブを何度か繰り返していたそうだ。
16歳の時に出産のためにバンドを辞めたらしい。
その後、なっちゃんも生まれて幸せにやってきたから後悔はしてないけど、バンドとしてはやり残した感じがずっとあって、その夢の続きをあきちゃんに託しかったと語ってくれた。
ちえさんの通っていた中学はバンド活動が盛んな学校で、文化祭には生徒たちが演奏するライブがあったりするのでバンドをしてる人も多かったらしい。
ちえさんはそんな音楽が盛んな中学の中でもギターのレベルが高く、そこそこ有名だったそうだ。
解散ライブでも多くの人が解散を惜しんだそうでまだバンドの世界を忘れられないらしい。
当時のバンドメンバーとはまだ連絡を取り合っているし、ギターも定期的に演奏して感覚を忘れないように趣味で練習を続けているらしい。
僕達はまだボーカルとギターしかいない。
まだ時間はかかるだろうがいずれベースとドラムのメンバーも探してライブをしたいと今後の目標をちえさんに語った。
全面的に協力してくれると言ってくれてすごく嬉しかった。
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