クセが強い家族 後編

『ママー。コンビニ行ったらもうゆうちゃんがいたー。早過ぎー笑』

いきなり大声で僕が1時間30分も早く来たことを報告された。すげぇ恥ずかしい。


奥にあるリビングのドアが開き、女性が1人こっちに向かって来る。

20代前半あたりだろうか?あきちゃんに歳の離れたお姉さんでもいるのかな?

お母さんにしては若すぎるのだ。

『初めまして。おはようございます。』

挨拶はキッチリとする。良い子の鏡だ。

誰なんだろうこの人。妹がいるのは聞いていたがお姉さんは聞いてない。

『おはよー。キミが噂のゆうちゃんかー。いらっしゃーい』

ものすごく軽いノリで挨拶してくれるからすごく気が楽だ。

それにしても「噂の」ってなんなんだよ。日頃どんな噂をしてるんだ?

『あきがキミの事ばかり話すからウチの家族ではキミは有名人なんだよ。』

いきなり最大級のダメージを受けた。

回復魔法を使ってもらわないと今日1日を乗り越えられなさそうだ。すげぇ恥ずかしい。



『ママ、もういいからっ!!』

僕の手を引っ張って奥のリビングへ行こうとするあきちゃん。

『えっ??お母さんなの?えっ?』

若すぎる見た目に軽いノリ。信じられない。

『キミにはこの人があきの妹に見えるの??笑』

あきちゃんは笑いながら聞いてくる。

妹がいるとは確かに聞いているが他に姉妹がいる事は聞いていないからね。

『うん。ゆうちゃん。キミの反応は合格だわ。少なくても「おばさん」とか呼んでたら追い返してあきと会う事は今後禁止にしてたかもねっ。笑』

笑顔でサラッとイジられる。さすが親子だ。


みんなでリビングへ移動する。

あきちゃんはコンビニで買ってきた飲み物をコップに注ぎ食パンをトーストし始める。

『キミが早く来すぎただけであきはまだ朝ごはんを食べてないんだよ。』

ニヤリとしながらこっちを見てるあきちゃん。やはり可愛い。

あきちゃんが食事の間はソファーに呼ばれ母親尋問を受ける事になる。

早く食べ終わってくれ…


『あたしは「ちえ」。ちーちゃんって呼んでいいよ。』

さすがに好きな子の親を「ちゃん呼び」するわけにはいかない。

必死でその呼び方だけは却下するが、「おばさん」や「お母さん」だともう2度とこの家には入れないと脅してくる。

10000歩くらい譲歩してもらい「ちえさん」と呼ぶ事で話はついた。

とにかくこの人はあきちゃんがそのまま大人になったような、ワガママで自由奔放で自分の意見をハッキリと持っているような人だった。



最後にあきちゃんに聞こえないように小声で僕に囁く。

『で、あきの事は好きなの?』

5秒くらい固まってしまったが、素直にならないと後に後悔するのは嫌なので小さく小さく、そしてゆっくりと頷いた。

『あははははぁ〜そうか〜。やっぱりね〜』

僕をバシバシ叩きながら大笑いするちえさん。すげぇ恥ずかしい。


『なんの話してんの〜?』

あきちゃんが会話に混ざりたがる。

『あきちゃんは可愛いね〜って話だよ〜』

笑いながらちえさんはあきちゃんを煽る。


あきちゃんに内容を悟られないかヒヤヒヤしながら誤魔化してるとリビングの入り口のドアが開いて別の人が入ってきた。



『おはよぉー』

次は絶対に間違いない。妹だ!!

眠たい目を見開いて僕をみた後、すごい勢いで向かってくる。


『これがゆうちゃん?』

まるで新しいおもちゃを見つけた目だ。キラキラしてる。

『なんでいるの?10時じゃなかったの?もう10時すぎてるの?』

返答に困る。すげぇ恥ずかしい。

『あきに早く会いたくて来ちゃったんだって〜笑』

ちえさんが煽ってくる。すげぇ恥ずかしい。

まぁ間違いではないのだが…


『へぇ〜。あきちゃんの事が大好きなんだねぇ。

愛してるってやつ??』

質問内容が鋭すぎる妹。すげぇ恥ずかしい。

キラキラした視線をこっちに向けるあきちゃんとちえさん。

妹の悪意のない質問の答えを期待してるのだ。

止めてください……。


『ねぇどうなの?好きじゃないの?嫌いなら家に来ないよね?』

小学3年生の質問とは思えない鋭さに僕のハートはボロボロだ。

もう回復魔法くらいでは回復しきれない。

『ねぇ、あきちゃんのドコが好きなのってば〜』

満足の答えが返ってくるまで止まらない悪魔の申し子。

恥ずかしすぎてパニック寸前となり、妹にかろうじて聞こえるであろう小声で

『全部……』

とだけ答えた。

『キャーー。全部好きなんだって〜照』

大きな声で暴露される。すげぇ恥ずかしい。



ここまで躊躇なく初対面の年上男子をイジれるこの子は間違いなくあきちゃんの妹だと確信。

僕は訪問後、わずか30分ですっかりイジられキャラと化した。

おそらく世界最速記録だろう。ギネスに認定されるかもしれない。


母親は「千恵」

あきちゃんは秋に生まれたから「千秋」

妹は夏に生まれたから「千夏」ちなみに呼び名は「なっちゃん」

ネーミング適当すぎじゃない?

とか思いながらこのクセの強い家族に驚愕する僕だった。


イジるだけで悪意はなく、歓迎してくれている空気は感じられる。

こうして僕はあきちゃんの家族から受け入れられた。

あきちゃんの食事が終わり、そろそろ部屋に行こうとの事になった。

なっちゃんはもっと僕をイジりたかったらしくまだリビングにいろとしつこいが聞き入れてしまうと僕はおそらく命が尽きてしまうだろう。

あきちゃんの部屋に行く方向で話がまとまった。


『えっちな事するなよ〜』

ちえさんが茶化してくる。

『ママー。女の人が男の人を部屋に入れるときはえっちな事をするんだよ。

この前テレビでやってたじゃん。』

なっちゃんはドラマから得た謎の知識をかざしてくる。

『しないです!!』

言っても虚しいだけの反論をしたが、あきちゃんは僕を引っ張ってリビングを出る。

このままではキリがなく終わらないと悟ったのだろう。

リビングでは『したいくせにねぇ』とか『後でなっちゃんが見に行ってあげるから大丈夫だよ』とかまだその話題について話してるちえさんとなっちゃんの声が聞こえてた。


時計は10時少し前くらいだった。

早くついた1時間30分のほとんどはリビングの悪魔2人による尋問に費やした。

もし仮に10時に約束通り来ていたら昼前くらいまでこれが続き、そのままお昼ご飯となり抜け出せなかったのだろうか?

早く来て良かったと心から安堵した。



あきちゃんの部屋についに来た!!

ドアを開けると驚きで固まってしまう。

想像していた女の子の部屋の雰囲気はどこにもないのだ。


部屋一面に貼られる数々のバンドのポスターやフライヤー

大量に並ぶCDの数々とその隣に存在感を放つ大型のコンポ


一台のギターとそれに繋ぐスピーカー(アンプ)や楽譜スコアがあった。

『ギター弾けるの?』

僕はエレクトーンやピアノなら習っているから弾けると話していた。

だがあきちゃんが楽器を弾けるとは聞いていない。

僕はバンドをするならギターがやりたいと話していたのですごく興味があった。


『ママが昔やってたの。あきは少しだけ教えてもらったけど全然弾けないよ。

かっこいいからあきの部屋に置いてるの。』

本当は弾きたいけど弾けないから家にギターがある事は僕に話さなかったんだと思った。


スコアをパラパラっと開いてみたけどピアノの楽譜とは全然違い意味がわからない。

TAB譜というらしく全く読めないのでとりあえず何もわからないままギターを手にする。

シャカシャカと音を鳴らしてみるだけですごく楽しかった。

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