22.回復

望美は応急処置の後、当初集中治療室に入れられたが、容態は安定していると判断され、翌朝には普通の病室に移された。暴行と全身打撲と言うことだった。幸路は会社に連絡して家族の緊急事態に対応するということでそのまま病院に留まった。状況を察して、病院側は簡易ベッドを用意してくれた。そして、この時は、加害者と幸路のDNA鑑定があったが、当然、幸路の疑いは取り払われた。


次の日の午後になって、望美は眼を開けた。そして、幸路を見ると目を大きくして何かを言おうとしていたが、何も言葉は出なかった。それからまた眠りに入った。その日の夕方、幸路が疲労と寝不足でうとうとしていると、微かな声で目が覚めた。

「幸路? 幸路でしょ?」

幸路は急いで望美を覗いて、言った。

「あぁ、俺だよ。望美、良かった、元気が出て」

「あたし、死ぬの?」

「そんなことないよ。担当医は何も重大なことはないと言っていたよ」

「ほんとに、そうかしら。なんだか、ボーっとしている」

そう言うと、また眠ってしまった。


次の日、望美はかなりしっかりしていた。

「幸路、何年振りかしら。でも、どうしてここにいるの?」

「あぁ、もう15年くらい経つかな。実は、俺はタクシーの運転手をしているんだけど、たまたま通った路上で倒れている人を見かけたんで119番したんだ。ところが、その人が望美かもしれないと思って病院まで一緒に来たんだ」

「幸路、あたしは、幸路に言いたいこと、言わなければならないことが沢山あったのだけど。恐ろしくて、幸路に一回も連絡できなかった。もう許してはくれないと思うけど、いつかは罪滅ぼしをしなくてはと思っていた」


「俺も、自分の行動が正しいかったとは思わないよ。どんな理由であれ、突然失踪して、長い間逃げていて、卑怯だと思ったし、罪悪感が付きまとっている。でも、今、言えることは過去は変えられないということだ」

「そうね。それでも、もし、幸路が耐えてくれるんだったら、許してくれなくても、すべてを話さないといけないと思うんだけど」

「そうか。許す、許さないって言うのは辞めようか。お互い苦しいだけだ。俺も話すことはある。それは、望美にとっては、聞きたくないことかもしれない」

「あたしに、どうのこうのいう権利はないわ。ところで、ここはどこ?」

「慈恵医大第三病院だよ」

「そう。あたしは、この近くに住んでいるの。もし、あたしが退院できたら、うちに来てくれる? 話がしたい。あたしは今一人なの」

「あぁ、いいよ。行くよ」

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