20.同窓
今回の幸路の落ち込みは今までにも増していた。言葉数も少なくなってしまった。その様子を見て、また、先輩の真夜が声を掛けた。
「あんた、最高に落ち込んでるみたいだね」
「えぇ」
「なんだか口を利くのも大変そうだね。嫌かもしれないけど、ちょっとそこの24時間喫茶に寄って行こうよ」
「はぁ」
気力のない幸路は連れられるままにその喫茶に入った。
「気の毒だよね、ほんとに。今までにも大変なことがあったのは知ってるけど、あんた、今回は、それ以上みたいだね。まぁ、何も話さなくていいよ。実は、今日は、アタシの方が聞いて欲しいことがあるんだよ。聞いてくれるかなぁ~? もしそう言う気分じゃなかったら、聞き流してもいいから」
「......」
「実は、先週、中学の時の同窓会に行ってきたんだ。卒業以来初めてだから、すごく楽しみにしていたんだ。確かに、中学時代の友人に会うのは実に懐かしかった。ところが、一つ、想像もしていないことがあって、苦しくなって、途中で帰ってきてしまったんだ」
「......」
「あれは中学三年の頃だった。榎春という男の子がよくアタシにちょっかいを出していた。アタシに気があるということは分かっていた。でも、榎春はアタシの好みではなかった。というより、誰も相手にしないようなタイプだった。その榎春が、高校の時に自殺をしたということを、この同窓会で初めて知ったんだ。そして、それは、失恋のせいだということだった。当然、高校はみんなバラバラだったから、アタシはその事を知らなかったんだ。だけど、榎春の事を聞いた時に、急に思い出したことがある。榎春がアタシにまとわりついてうるさかった時に、当然冗談のつもりだったんだけど、『死んでしまえばいい』と言ったことがあったんだ。それを思い出した瞬間から、急に苦しくなってきた。ひょっとして、『アタシが榎春を死に追いやったんじゃないか?』それが頭にこびりついて離れなくなった。榎春が自殺したのは高校の時なので、確かに、それは、アタシとは関係ないかもしれない。たとえそうだとしても、アタシがあんな残酷なことを言ったということは許されないことだ。アタシは自分の事を特に善人とか思いやりがあるとは思っていない。だけど、そんなに残虐な人間とも思っていなかった。そして、一番辛い事は、アタシの言葉が起こしたかもしれない残酷な事態を知らずに、今まで平気な顔をして生きてきたということだ。それで、耐えられなくなって、具合が悪いと言って同窓会を出ざるを得なかった。その後、やり切れない日々を過ごしているんだよ。今までも、アタシは、母、夫、父と順に死んで、不幸がなかったわけではない。だけど、榎春の自殺は、ある意味ではそれ以上の苦痛なんだ」
「......」
「そして、......、思ったんだよ。死んでしまえば良かったのはアタシの方じゃないかって」
「真夜さん、......。そんな、......。それは、......」
「そうだよね。あんたは、人にそんなひどいことをしたことをないよね」
「いや、僕は......。それに、知らないうちに罪を犯していないとは......、とても、......。でも、真夜さん。一つ言えることは、真夜さんは、何度も僕の話を聞いてくれて、僕を助けてくれたじゃないですか。真夜さんが居なかったら、僕も居なかったかもしれないし......」
「あんた、ありがとう。そう言ってくれて、嬉しいよ。少しは気が紛れるよ。はぁ~......。そして......、アタシは、もう婆さんになってしまった。今更という感はあるけど、確かに、自分の言うことなすことに、もっと気を付けないと思ってる。『知らなかった』という言い訳をしなくて済むようにしないと、と思っている」
「確かに、そうですね。でも、簡単じゃないですよね......」
「ところで、アタシ、もうじき、退職しようかと思っているんだ」
「えっ? そんな年なんですか? そうは見えなかったけど」
「まだ、気持ちだけは若いつもりだけどね。まぁ、言っちゃ悪いけど、あんたもこの仕事を始めた頃に比べたら、随分年取ったよね。お互い、短い人生だから、これからも悔いのないように生きないとね」
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