18.電話

幸路はまた大事な人を失ってしまったような気がしていた。また、このまま何年も過ぎるのだろうかと思っていた。ところが、それから数か月したころ、急に、夢の中に右波が出てきた。幸路は夢の中で必死に「右波!」と叫ぼうとしているのだが、声がでない。その時、右波がはっきりと言った、「左波をよろしく」と。幸路は飛び起きた。どういう意味か分からなかった。だが、何かが起こっているという興奮は抑えがたかった。


その日の昼間、仕事中に、いつものように羽田空港で待機していると、携帯が鳴った。「左波さんの番号だ!」そう認識すると、幸路は急いで電話に出た。

「幸路さん?」

「左波さんですね!」

「そうです。突然電話をしてすみません」

「いや、話がしたかったんです。会いたかったんです!」

「ほんとですか? 前にも言った通り、もう幸路さんとは会うまいと心に決めていたのですが、事情があって、どうしても我慢が出来なくなって電話してしまいました。許して下さい」

「そんな、俺はずっと会いたかったんです。でも、左波さんにもう会えないと言われて諦めかけていました」


「実は、わたしの中に新しい命が宿っているのです。幸路さんの一部とわたしの一部が一緒になって成長を続けているのです。気が付いてから、わたしは悩みました。でも、幸路さんに知らせない訳には行かないと思って。それより、わたし自身が無性に幸路さんに会いたくなってしまったのです」

「えー! そうなんですか?! 俺たちの子供が?!!」

「でも、......右波のことが、......」

「その、右波なんですが、昨夜、夢に出てきて、はっきりと、『左波をよろしく』と言ったんです。そしたら、今、左波さんから電話で」

「それでは、右波も許してくれるんですね! わたしの家に来てくれますか? まだ、覚えていますよね?」

「いつ行っていいのですか?」

「いつでも。今でも」

「それじゃ、今日は仕事を早退して今からすぐに行きます。会社に車を戻して、タクシーに乗って行きます。3時間以内に行けると思います」

「ありがとう。早く会いたい!」

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