5.背中の感触
体に感じる振動、傾き。
スピード。
流れていく景色。
風。
ゴンゴンとぶつかるヘルメット。
前野君のしっかりとした体つき。
うわー--------!
初めてのバイクの後部座席。
どきどきが止まらない。
しばらく走ってバイクは止まった。
郊外にあるお蕎麦屋さんの駐車場だった。
バイクに乗っていたのは30分弱くらいだったらしいけど、すごく長くも、一瞬だったようにも感じる。
「楽しかった!」
前野くんの言われるまま、肩に手を当て立ち上がってからバイクをおりる。ヘルメットを脱いですぐ、興奮して言った。
「あはは。よかったー」
外したヘルメットと手袋を渡すと、キャスケットを被せてストールを巻いてくれた。
「寒くなかった?」
「うん。大丈夫」
「本当だ、手が温かい」
そのまま手を繋がれ、お蕎麦屋さんの扉をくぐった。お昼時を過ぎた店内にいるのは数組のグループだけだった。
「ここ、ツーリングの途中で寄ることがあるんだ」
「へぇ。ね、よくバイクに乗るの?」
「たまにかな。学生の時はみんなと毎週どこかに行ってた」
前野君おすすめのお蕎麦はとてもおいしい。
「倖さんはバイク乗ったことある?」
「車の免許取るときに原付乗った」
「…あれは乗ったのに入るの?」
「入るよ。楽しかったし」
「はは。楽しい程乗ったんだ?」
「うん。教習所をひたすら時間が来るまでぐるぐると。あと、わざとバイクを倒して起こす練習とか」
優しい雰囲気のお蕎麦屋さんの空間はゆっくりしていて、話が弾んだ。
「もう3,40分くらい走ったところにおすすめの場所があるんだけど、行ってもいい?」
「うん。いいよ。どんなとこ?」
「気象台。これから行けば、日が沈むの見れるよ」
「うわっ!行ってみたい」
駐車場で再びヘルメットを被る。上手く顎のところを止めれなくて前野君に止めてもらう。
「ありがとう」
「どういたしまして」
そういえば、このヘルメットは前野君のだって言ってたな。
「ねえ、このヘルメットって前野君の?」
「うん。俺の」
「それなら、前野君が被ってるのは誰の?」
「これも俺のだけど、兄貴とか友達とかも被るから。
安心して、それは俺しか被ってないから。
他の男が使ったメットなんて倖さんに被せたくないしね」
確かに知らない人が被ってるのは嫌だな。
「なんかね、このヘルメットいい匂いがする」
というと、顔を赤くした。
「う…」
返事をしない前野君は手袋を渡してくれた。
「これも前野君の?私にぴったりだけど。ん?あれ?手、大きかったよね?あれ?」
手を繋いだ時、前野君の手は私の手をすっぽりと覆うくらい大きかったと思い出す。
「それは俺のじゃないよ。俺のじゃ、ぶかぶかだよ」
「そうだよね」
私にぴったりサイズの手袋をじっと見る。
「彼女さん、怒らないかな?」
と尋ねると、慌てて、
「それ、倖さん用にさっき買ってきたやつだから!」
と言われた。
「え。わざわざ?」
「うん。それに彼女いないから。彼女いて他の女の子を誘ったりとかしない」
「あ、そうなんだ。…前野君も律儀なんだね」
ふと彰のことを思い出してしまい、頭を振る。
ヘルメットが重くてうまく動かせない上にフラッとしてしまった。
「何やってるの?」
と笑われた。
バイクに乗せてもらい、出発する。
今度もドキドキしたけど、前野君の背中にくっついていると、彼の背中が広いこととか、見た目より体ががっしりしていることに気が付いた。
それが、男性だということを意識させ、バイクに乗っているドキドキとは違うドキドキを感じた。
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