4.わくわく

翌日の休日、昼過ぎに起きた。


シャワーを浴びて紅茶を飲んでスマホを開くと、前野君から着信があった。

何だろう?

昨日のお礼もきちんと言いたくて折り返した。


『お腹空いた。ごはん食べに行きませんか?』

『今から?』

『はい。迎えに行きくからつきあってください』


そういえば、私も今日は飲み物しか飲んでなかったなあと思いながら、お腹を摩った。

お腹すいたかも……蕎麦。お蕎麦、食べたいな。


『お蕎麦ならいいよ』

『いいですねー。行きたい店あるんですか?』

『おいしい店がいいな』

『長ズボンとブーツかスニーカーは持ってますか?』

『あるけど。どこに行くの?』

『おいしい蕎麦屋。暖かくて動きやすい服装で待っててください』


30分位で迎えに来るというから急いで支度をする。


ピンポーン。


チャイムが鳴って、慌ててショート丈のグレーのダウンコートを着る。ストール。キャスケット。斜掛けポーチ。ブーツとスニーカーで悩んで足首まである定番の動きやすいスニーカーを履く。


エレベーターから降りると、前野君はマンションの前の柱に寄りかかって立っていた。

私服を見るのは初めてだったけれど、足の長い前野君が履いている黒いパンツがかっこいいなと思った。


小走りで近づくと、私に気付き、すがっていた壁から離れながらスマホをダウンコートの内ポケットにしまった。


「お待たせ」

「俺の方こそ急に誘ってすみません。予定、大丈夫でしたか?」

互いに近寄り隣に立つ。


「うん。大丈夫」

元彼の荷物を断捨離しまくるつもりだったけど、そんな話はしたくない。


そういえば…。

「ねぇ、服ってこれでよかった?」

二、三歩さがって、両腕をばっと広げ服装を見せた。

「凄くいいです」

前野くんは私の頭のキャスケットをポンポンと撫で、

「ふふっ、かわいい」

と、甘く微笑む。

「じゃ、行きましょうか」

と、自然に手を繋がれ、外に出た。


前野君の甘い雰囲気に動揺する。

先週までは用事があるときしか話さなかったのに。

彼の変化に驚き、心臓がバクバクしていた。


そのまま近くのパーキングに連れていかれ、今度は度肝を疲れた。


「これ、愛車」

ポンと座席に手を置いたそれは、大きなバイクだった。


「え?これ?」

「うん」

「あ!だから、動きやすくて暖かい恰好だったんだ?」

「そう。ストールとキャスケットはとんでっちゃうからここに入れていい?」

うんと頷き、ストールをはずす。

「二人乗りってタンデムっていうんだっけ?」

「そう。タンデムの経験は?」

「初めて!二人乗りとかドキドキしちゃう!」

「楽しんでもらえるよう、頑張って運転します。はい、これ被って」


フルフェイスのヘルメットを渡された。

ヘルメットって重いんだと思いながら被る…あれ?

「ねえ。入らないよ。頭、大きいのかな?」

「ふっ。大丈夫、それ俺のだから絶対入る。ここを持って…ずぼって感じで被ってみて」

「ここを持って…ずぼ…入った!」

「そりゃ入るよ。ちょっと上向いて」

「ん」

カチッ。

顎のとこを止めてもらう。


「重いんだね」

「安全を考えるとねー。はい、この手袋付けて」

「はい、俺の肩持って跨って。何かあったら背中叩いてね。ヘルメットが当たるけど気にしないでね」

はい、はいと返事をする。

「手はここ持てる?」

「うん。こう?」

「もっとしっかり、こうやって」


「じゃ、行っきまーす」


ブオン!!


大きなエンジン音がして、バイクは発進した。

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