おままごと

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おままごと

「おままごと」



配役(1:1:0)

・・・


ミヨ子

お父さん


・・・


規約

・・・

アドリブは筋道の破綻なき限り是とし、他はなし。

・・・






ミヨ子:お父さん、こっちよ。早くお入りになって。


お父さん:久しぶりにお前の部屋に入ったが、酷い散らかりようだね。


ミヨ子:お帰りなさいませ。本日もお仕事ご苦労様でした。


お父さん:はて。何を言っているのだね。


ミヨ子:あのね、私がお母さんの役なの。お父さんは、お父さん。


お父さん:ミヨ子、ふざけるのはよしなさい。お前はもうままごとで遊ぶような歳じゃないだろう。学校の宿題は済んだのか。


ミヨ子:おままごとがしたいの。お願いよ。


お父さん:ミヨ子。


ミヨ子:お願い。


お父さん:……少しだけだぞ。


ミヨ子:うん。お帰りなさいませ。本日もお仕事ご苦労様でした。


お父さん:ああ。


ミヨ子:あちらのご家庭は順調ですか。


お父さん:……ミヨ子、あいつに何を吹き込まれた。


ミヨ子:答えて。


お父さん:……息災(そくさい)だ。


ミヨ子:それは良かった。ところでユキオくんは大きくなりましたか。あの女性(ひと)に、目元の良く似た。


お父さん:悪い遊びはもう終わりだ。あいつはどこにいる。


ミヨ子:あなたに愛想を尽かして出ていきましたよ。


お父さん:何だと。


ミヨ子:(声色が変わって)ミヨ子。お前さえいなければ私はとっくにこんな家を出ているよ。子は鎹(かすがい)とは良く言ったものだね。鎹どころか足の甲を穿(うが)つ五寸釘じゃないか。


お父さん:おいミヨ子、どうした。


ミヨ子:お前はね、重石(おもし)なんだよ。私をこの家に縛り付けるための重石なんだよ。


お父さん:ヒサエ!どこにいる!ミヨ子に何を言った!出て来い!


ミヨ子:お母さんは出て行ったの。お母さんの望み通りになったの。


お父さん:ミヨ子や、あの女から心無い言葉を浴びてさぞ悲しかっただろうね。


ミヨ子:だから、ミヨ子がお母さんなの。


お父さん:そうかい。気持ちが落ち着くまで付き合おう。


ミヨ子:今日のお夕飯はミンチボールよ。さあ、召し上がれ。


お父さん:ああ。本当に食事まで用意しているとは、手が込んでいるな。どれ、頂こう。


ミヨ子:お口に合うかしら。


お父さん:うん。肉の風味がしっかりして美味い。良く出来ているよ。


ミヨ子:良かったの。さあ、たくさん召し上がれ。


お父さん:ミヨ子、お前こんなハイカラな料理をどこで覚えたのかい。


ミヨ子:教えてくれたの。


お父さん:あの……お母さんがかい。


ミヨ子:ううん。ミヨ子が。


お父さん:からかうのはやめてくれ。本を読んで学んだということだね。


ミヨ子:違うの。ミヨ子が教えてくれたの。私に。


お父さん:ミヨ子、とても辛い思いをしたのだね。もう大丈夫だ。お父さんはミヨ子の味方だよ。これからずっと、ミヨ子を守るから。


ミヨ子:(また声色が変わって)あの女もあの餓鬼もただただ憎い。あんなつまらぬ男を盗られたからではない。


お父さん:ミヨ子、どうした。


ミヨ子:あの女とあの餓鬼のせいで、金以外取り柄のない男からも捨てられる羽目になった。


お父さん:何を言っている。しっかりしなさい。


ミヨ子:憎い、憎い、皮を剥いで肉を削いで、はらわたをすり潰してやらねば気が済まぬ!


お父さん:ミヨ子!


(お父さん、ミヨ子を叩く)


ミヨ子:痛いよ、お父さん、手を上げないで。


(ミヨ子、頬を抑えて啜り泣く)


お父さん:お父さんが悪かった。全部お父さんが悪かった。さあ、お母さんを迎えに行こう。


ミヨ子:お母さんは出て行ったの。


お父さん:うん。だから迎えに行こう。お父さんがお母さんに謝るよ。


ミヨ子:ううん。もうお母さんはいないの。


お父さん:大丈夫だよ。お母さんの実家でも親戚の家(うち)でも、手を尽くして探すよ。


ミヨ子:違うの。もうお母さんは。もう、この世に居ないんだよ。


お父さん:ミヨ子。


ミヨ子:ミヨ子が居ないところへ行きたい。お前の居ないところへ行きたい。私を辱めたあの女と餓鬼を微塵にして、ついにはこの世から消えてしまいたい。

全て彼女の望み通りなの。


お父さん:お前は、ミヨ子なのか。


ミヨ子:私はミヨ子。ミヨ子が捨てたミヨ子なの。


お父さん:ミヨ子に何をした。


ミヨ子:望みを叶えたの。


お父さん:返せ!ミヨ子を返せ!


ミヨ子:今更なの。さあ、ミンチボールのお代わりを召し上がって。


お父さん:ままごと遊びはもういい。


ミヨ子:召し上がれ。


(ミヨ子、ミンチボールをお父さんに無理やりに食べさせる)


ミヨ子:召し上がれ。


(お父さん、息が継げずに低く呻く)


ミヨ子:召し上がれ。


(お父さん、そのまま意識が途切れ、傀儡のようにミヨ子に応える)


ミヨ子:お父さんたら、食べ過ぎて眠っちゃったのね。いつもたくさん働いてくれてありがとう、お父さん。じゃあ今度はミヨ子がお父さんね。おーい、今帰ったよ。


お父さん:あら、お帰りなさい。


ミヨ子:今日もお仕事が忙しくってね。お腹がとても空いてしまった。


お父さん:そうでしたか。それはご苦労様でした。


ミヨ子:さあたくさん食べてたくさん働くぞ。


お父さん:あらあら。今日のお夕飯は、ミンチボールですよ。


ミヨ子:おお、お母さん。いつもありがとう。


お父さん:ふふ、どういたしまして。ところで、もうあの女とは切れたのですか?


ミヨ子:何の話かな。


お父さん:とぼけないでください。あなたが手籠めにして孕ませた、あの女と子供のことですよ。


ミヨ子:お母さん、食事中だぞ。もしミヨ子が聞いたらどうするのだ。


お父さん:ミヨ子を言い訳にしないでください。あなたはいつもそうやってなにかあればあの子を盾にして、そのくせ何一つ手を出さない。金さえ出せば子が育つと思っていらっしゃるんでしょう。


ミヨ子:お母さん。


お父さん:あの女のことだってそうです。すぐに別れるからと言っておきながらここまでずるずると。あの子供だってすっかり大きくなって。


(ミヨ子、片手でぐわりとお父さんの口を塞ぐ)


ミヨ子:駄目なの。残滓(ざんし)がこびりついているの。お母さんはそんなこと言わないの。


(お父さん、苦しそうに呻き我に返る)


ミヨ子:お母さんはそんなこと言わないの。


お父さん:ミヨ子、やめてくれ。お父さんが悪かった。


ミヨ子:違うの。お父さんは私なの。あなたはお母さん。


(お父さん、酸欠の中で意識が分裂してゆく)


お父さん:子供の育て方を間違えたな。お前のような浅はかな女を妻にしたのが、そもそも間違いだった。

まあ、何もかも全て人のせいにして本当に酷い方ですね。どういうお育ちをされたのかしら。


ミヨ子:お父さん、お母さん、喧嘩は駄目なの。


お父さん:ミヨ子。


ミヨ子:うん。


お父さん:ミヨ子。


ミヨ子:うん。お父さん、笑って。


お父さん:ハッハッハッハッハッ。


ミヨ子:お母さん、笑って。


お父さん:うふふふふふ。


ミヨ子:ふふ。私の家族は仲良しなの。


(全員、楽しそうに笑い続ける)




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