K③
貨物室に突入した警備員が二手に別れ、壁沿いに列を成して進んでくる。
その一手の一番前の警備員の頭に両手が迫る。
一瞬の内に視界を塞がれ、背中に誰かの胸板が当たる。
警備員は右の肘で肘鉄砲を食らわすが、その時には首を太い右腕が迫り、体は宙に浮いていた。
「武器を捨てろぉ……さもなきゃこいつ殺るぞぉ……」
男の声が静かな貨物室を人質事件の最前線に変える。
後ろの警備員達が男の指示に従い、左手を挙げながらスタンガンを握った右手を下ろす。
だが。
「……ヴェェイ…カース ボライ(わかった……落ち着け)」
「へぇぇい?かーすぅぼらん?」
「ヤー シャン ウェスウォック(お前は逃げられない)」
「ゆーきゃん?えす……こっく?」
「レッサァ ォブァイッド(そいつを離せ)」
「れっつぅぁ……ごぉ、おぶいっと?」
「メルボス……アイドラン ゴベェレッチ イドレェラン?(もしかして………ローラン語が分からないのか?)」
「あぁぁ、ゆーきゃんすぴーんきんぐぅ……ぐぅ………ぐぅ……じゃあぁぁぁ………ぱんぐぅぅう?」
俺はなんとか捻り出した英語で意思疏通を図る。
「アァ……バッツドォ クレーツ(あぁ……こっちが気を引く)」
警備員が俺と目を合わせながら会話してくる。
「ゆーきゃんと!すぴーきんぐぅ……ぐぅ……じゃあぁぱんぐぅ!」
「ノトレェ ジントラル ゼトロォ ガンダロアァ(そっちに気づいてない。怯ませろ)」
ん?こいつら英語わかんねぇのか?
「あぁぁ……っ、だからぁ、ゆーきゃん……ぐあぁっ!」
右の脇腹から電流が走る。
と、同時に人質にしていた警備員が俺の腕を払うと右から警備員が飛びかかってきた。
(こんの野郎ぉ!なめてんじゃねぇ!)
払われた右腕を勢いそのまま後ろに引いて前に突き出す。
警備員の鼻にまともに俺の拳が入る。
ドォッ!
警備員は衝撃で後ろの同僚達にぶつかりながら倒れる。
ビリリリッ……
(なんだこりゃあ、ビリビリ言いやがって。体が強ばりやがるのはこいつのせいか)
電流を流す針金みたいなものが俺の動きを鈍くしているようだ。
「お……らあっ!」
強ばり、上手く動かない右手で無理矢理針金みたいなものをつかんで剥がす。
良くもやってくれたな、お返しだ。
俺は剥がしたものを放り投げると、警備員達に襲いかかった。
まずは目の前の人質にしてたやつ。
ビリビリさせるやつを力任せに剥がしたのが以外だったのか、呆気にとられたような顔をしていたが、すぐに銃口を俺に向ける。
(当たるかよぉ……)
俺は体制を低くし、一気にやつのあごに左の拳を突き上げる。
ドッ!
警備員の足が床から離れ、体が宙を舞った。
ドサァッ!
警備員が頭から床に落ちる。あごを殴られ、後頭部から衝撃を受けた警備員は眉一つ動かさない。
良い感じに気絶させられたのだろう。
よし、次だ。
俺は次の獲物に狙いを定める。
気絶したやつの後ろにいた中年くらいの警備員に手を伸ばしたその時だった。
ビリリッ、ビリリッ、ビリリッ……
俺の体のあちこちにさっきの針金みたいなのが張り付いた。
どうやら、警備員達が銃で撃ってきてるらしい。体の震えが収まらない。
こぉ……のぉ………。
俺はどうにか警備員達に近づこうと足を動かすが、震えが止まらず、まともに動かない。
やっとのことで一歩、一歩と前に進むも、警備員達は銃を向けながら一定の距離をとり、一向に近づくことができない。
しかも。
ビリリッ……、ビリリッ、ビリリッ……
警備員達が次から次へと針金を俺に撃ち込んできた。
体の震えが強くなり、体が言うことを聞かなくなるっていく。
ぐぅぅぅ………
俺は獣のような唸り声をあげた。
こんな連中に……やられてたまるかぁ……
沸々と湧いてくる憎悪とは裏腹に立っているだけで精一杯で足を踏み出すこともできなくなった自分に怒りが湧いた。
くっそぉ……てめぇらぜってぇ……殺すぅぅ!
「ああああああああぁぁぁぁぁ!!」
俺は雄叫びをあげて、半ば倒れるように警備員達に向かって駆け出した。
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