第2話
伊豆が嫌いで町を出た。観光客たちがなぜこんなところに喜んでやってくるのか、理解できなかった。自然なんて、金を払ってまで愛でたいものだろうか。
都会の人間は、休日に金をかけることのできる人間たちはどんなに傲慢なのだろうとひねくれた目で眺めていた。
母はそんな観光客たちを相手に働いていた。小さな旅館で働いていたこともあるし、老舗の中規模の伝統的な旅館に勤めていたこともあるし、最新の大型リゾートホテルに働いていたこともある。
仲居として得た金で、伊豆の小さな町で私を育てた。父の顔は見たことがない。
旅館で働く板前だったらしいが、母を捨て、女と町を出たらしい。女は母の同僚だった女だ。母がかわいがっていた後輩だと、高校生のときに知った。
そんなことを、物事の分別や男女のことが十分にわかった年齢を見計らって吹きこんでくるのも、やはり母の同僚の仲居なのだった。
こんな町、うんざりだと思った。私は勉強した。勉強して勉強して勉強した。そんな姿は母をたいそう励ましたらしい。
私はそこに罪悪感を感じていた。偏差値があがればあがるほど、この能力を無駄にしたくないと、母も私も思う。
つまりそれは進学が必要になるということだ。母にその負担を強いるということだ。
国立に行くとしても、軽い負担ではない。でも、私は母のような人生を送りたくなかった。だから、勉強を止めなかった。そして、県内の国立大学に進学した。
母は「良かったね、頑張ったね」と涙を流して喜んだが、私はがっかりしていた。もっといいところに、できれば都内の国立に進みたかったからだ。
しかし、第二次ベビーブームに生まれ、たくさんのライバルに囲まれた私の実力はそこまでだった。都内に出たのは大学を出てからだった。
就職も不本意だった。氷河期と言われ、同年代の皆が思うような仕事に就けなかった。
それでも私は、貧しい中から這い上がったのだから・・・と願ったが、進路はその他大勢の者たちと変わらない、ぱっとしない(最低な)ものだった。
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