第10話(改) ガンマ星より来た男
五つあるカシオペヤ座の星の内、ちょうど真ん中の位置にあるカシオペヤ・ガンマ星。そこには地球とよく似た住人が文明を築いて暮らしていた。そこから地球めがけて一直線に突っ走る流星。それは宇宙船であった。それを操縦するのは、カシオペヤ・ガンマ星の王子、トネリだ。
「こちらトネリ、ガンマ星間通信基地応答願う。」
「こちら星間通信基地のニポリ。どうぞ。」
「父さん!? どうして通信基地に?」
「ああ、間もなく太陽系に突入すれば超光速通信圏外にでて、こちらとの通信ができなくなるから今のうちにと思ってな。」
トネリの父ニポリは、ガンマ星の王であり、彼の生みの親でもある。彼らガンマ星人は宇宙でもまれにみる単一性のヒューマノイドで、ほかの星から来たものを除き女性が存在しない、男性だけの星であった。男性だけとはいってもそこからさらに、オスの役割をするアルファー性と、メスの役割をするオメガ性の二種類に分かれていた。そしてトネリやその父ニポリの血族は、オメガ性の中でもかなり特殊な、クイーンビー・オメガと呼ばれる体質だった。
「もう父さん、僕のことは大丈夫だから心配しなくてもいいのに。」
「親は子供の心配をするのが仕事なんだ、たとえ王であってもそれは変わらない。それにお前のことだ、どうせ地球で母星のようにまたアルファ、オメガの見境なく”
「作らないよ! 第一地球人は僕らと同じ性別構造じゃないから作れないことくらいわかってるし!」
「さあてどうだか。 いいか、もう一度いうが、今回の地球留学はあくまでも留学だ。旅行じゃないぞ。いずれ王となるお前が大海を知らない井の中の蛙にならないように……」
「わかったわかった、わかったよもう……! こんなところにまで説教されちゃかなわないよ……」
「とにかく、地球についても、王族として、人として正しく振舞い、正しく生活すること。いいな、忘れるなよ。」
「はい分かりました。父王殿。……そろそろ太陽系に入るから、切るね。」
「ああ。体に気をつけてな。父さんは、いつもお前の無事を祈ってるぞ。」
そこで星間通信は切れた。それを確認したトネリはため息をついて愚痴をこぼした。
「もう、なんだってあんなに心配性なんだろうなあ、親っていうのは。」
だがそう思うのも無理はなかった。地球がある時期を境にモンスター、エイリアンからよく狙われる星になったという情報は彼らガンマ星人のもとにも届いており、それゆえ今までずっと行われてきた王族子息の地球留学を見送ろうという話も出たくらいであった。だがトネリは、父王との相談の末、ある条件を飲むという形で今度の留学の承諾を取り付けたのだった。
「ああ、見えてきた。あれが地球か……。」
トネリは鉄アレイをそのまま横にしたような形の宇宙船のコクピット越しから眼前に広がる地球を眺めた。故郷ガンマ星も美しいが、地球はそれに勝るとも劣らない。
感傷に浸るのもそこそこに、トネリは着陸態勢をとるために宇宙船を隕石に擬態させる視覚ヴァーリアを作動させて、金色と茶色の二色で構成された宇宙服に着替え、四本の角が獅子のたてがみのように広がるヘルメットをかぶると、ヘルメットからマスクとバイザーが展開した。これで、ガンマースーツの装着が完了となる。
「よし、ここらへんでいいかな?」
トネリは宇宙船を地球の衛星軌道上に止めると、マンホールのふたのような平べったい機械をもって、宇宙船の後方にあるスペクトル式転送装置の中に入り、中の装置を作動させた。すると彼の身体は虹色に輝きながら光の粒子に分解されて、地球のある地点に一直線に降り注いだ。虹色の光線は熱圏、中間圏、成層圏、対流圏を瞬く間に通過して、地面にたどり着くと、そこでその星の大気中に含まれる物質を取り込みながらトネリの身体を再構成した。地球とガンマ星では大気構成が全く違うので、このような順応作業を行う必要があったのだ。
トネリが降り立ったのは日本という島国の、ある町の人気のない大きな川を渡る橋の下だった。
再び人の身体を得たトネリはヘルメットを外して河川敷を上り、胸いっぱいに地球の大気を味わった。
「んーっ、やーっとついた! 治安が悪いって聞いてたけどなんだ、そこまでガンマ星と変わらないじゃないか。ほんと父さんは杞憂しすぎなんだから……。」
だが、父王の言ったことは決して杞憂などではなかった。突然、トネリの後ろから爆音が発生したかと思うと、遅れて爆風もやって来てトネリの身体を吹き飛ばした。
「うわーっ!!」
河川敷を転がり落ちていくトネリの目に見えたのは、爆炎の中でゆらりとうごめく怪獣の姿だった。何やらごちゃごちゃといろいろなものが混ざったような姿をしているそいつは、町を踏みつぶし好き放題に暴れて回っている。
「あれが、地球の怪獣……。」
しかし怪獣もいるのなら、それを倒す手段もあるはずだ。そう思ったトネリの期待にに応じるように、彼の目の前の道路にまばゆい光の物体が現れた。それはやがて人型となり、ゆっくりと体を起こして怪獣と対峙した。ユメヒトだ。トネリは驚きつつも彼の姿をまじまじと眺めた。さすがにガンマ星にはまだ彼の情報は伝わってはいなかった。
「あれはなんだ!? こちらの味方なのか!?」
ユメヒトは怪獣めがけて突っ走り、あいさつ代わりに飛び蹴りを顔面に食らわせた。怪獣はその勢いのまま横向きで地面に勢い良くたたきつけられた。すかさずユメヒトは馬乗りになって怪獣の首に連続で手刀を打ち付ける。だが怪獣もやられてばかりではない。攻撃のわずかな隙を見つけて首をぐりん、とユメヒトのほうに回し、近距離で炎を放った。その炎を真正面からくらったユメヒトの攻撃の手が緩んだのを見逃さずに、怪獣はユメヒトを突き飛ばして体勢を立て直した。
「す、すごい……ん?」
ユメヒトと怪獣の戦いを唾をのんでみていたトネリの目に飛び込んできたのは、彼らが戦っている住宅地のがれきのすぐ近くでなぜか微動だにせず戦いの行く末を見るかのように鎮座していた一匹の黒猫だった。考えるよりも先に体が動いたトネリは、黒猫のいるところまで一目散に走って猫を抱き上げた。
「だめじゃないか、こんなところで。さあ、僕と一緒に避難しよう。」
「にゃーん。」
だがそんな彼らを怪獣がおいそれと見逃してくれるはずがなかった。グルル、と後ろから聞こえたうなり声にトネリが気付いて振り向いたころには、怪獣の右足が彼らを踏みつぶさんとしていた。
「うわーっ!!」
「そうはさせない!!」
怪獣の右足がトネリを踏みつぶそうとしたその時、彼らの存在に気付いたユメヒトが紙一重のところで間に転がり込み彼らを救い上げた。そして転がるついでに足を延ばし、右かかとで怪獣の顎の下を蹴り上げた。顎に伝わった衝撃がそのまま脳みそまで届き、ぐわんぐわんと頭の中を揺さぶられた怪獣はそのまま膝をついてばったりと倒れた。
「た、助かった……ありがとう、巨人さん!」
トネリはユメヒトの掌の中で、彼に感謝した。ユメヒトは何も言わずただ静かにうなずいて、安全な場所まで彼らを運び、ゆっくりと掌を地上の高さまで下げて、彼らを下ろし、黒い仮面に「行け」「早く」と文字を表示した。
「頑張ってね、巨人さん!」
トネリが黒猫とともに安全な場所まで避難したのを見届けてから、ユメヒトは踵を返して、怪獣との戦闘に戻った。怪獣は完全に死んではいなかったが、先ほどの攻撃がよほど効いたらしく、意識がもうろうとして立ち上がることはできない様子だった。ユメヒトは両手で握りこぶしを作った両腕を交差して気を強めて念力を発動させ、怪獣を空中へ持ち上げた。そして、大気圏の十分な高さまで上昇させた後、ドリームブレードの柄をくの字につなげて、怪獣めがけて回転を付けて思い切り投げ飛ばした。
ブーメラン状になって投げ飛ばされた柄からは光の刃が伸びて、それらが高速回転して光の円盤になり、怪獣を四方八方から切り裂いた。そして、怪獣は空中で爆発したのだった。それを見届けたユメヒトは音もなく静かに消えていった。一部始終を見ていたトネリはとても興奮していた。
「すっごいなあ、地球にはあんなにかっこいいヒーローもいるなんてしらなかったよ……いけない、僕彼に惚れちゃったかも。もう一度彼に会いたいなあ……」
恍惚とした表情を浮かべる彼の頭の中は、もうすっかりユメヒトのことでいっぱいだった。彼はこれからの地球留学生活は人生で一番思い出に残る出来事になりそうな予感がしていたのだった。
ユメヒト ペアーズナックル(縫人) @pearsknuckle
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
フォローしてこの作品の続きを読もう
ユーザー登録すれば作品や作者をフォローして、更新や新作情報を受け取れます。ユメヒトの最新話を見逃さないよう今すぐカクヨムにユーザー登録しましょう。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
参加中のコンテスト・自主企画
同じコレクションの次の小説
関連小説
ネクスト掲載小説
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます