第7話 単縦波状攻撃をかけろ!
「にゃーん」
湯目野エルムは祖父と会った後、特に用もなく町をぶらついており、いつの間にか、昨日ユメヒトに変身して戦った街のそばまで来ていた。少々小腹がすいたので、コンビニでかまぼこスティックを買って食べようとしたところ、彼のそばに一匹の黒猫が寄ってきた。
「なんだよ、これが欲しいの?」
「にゃーん」
物欲しげな眼で黒猫はエルムの持っているかまぼこスティックを見つめている。だが、彼はこの猫に恵んでやる気はさらさらなかった。別に猫が嫌いというわけではなかったのだが、野良の動物に餌付けするのは公衆衛生上よくないということを学んでいたため、彼は黒猫にそっぽを向いてそのまま立ち去ろうとした。
「だめだめ、悪いけどこれはあげないよ。野良猫には餌付けしちゃダメって言われてるんだ。」
「・・・にゃっ!!」
エルムの態度からおそらく目当てのものを恵んでもらえないと察した黒猫はついに強硬手段に出た。体を大きくしならせて、大地を蹴り上げエルムの腕にまっしぐら、エルムが驚く間もなく獲物を奪い取ると、そのまま駆け出して行った。
「あーっ!! こら!! まて!!」
エルムは黒猫の後を追って駆け出して行った。しかし走っても走っても追いつかない。徐々に猫とエルムの距離は離れていき、ついに見失ってしまった。
「はぁ……はぁ……くそう、あのどら猫め……!」
ぜいぜいと息を切らしながら、かまぼこ一個にムキになってる自分に少々みじめさを感じて、エルムはもういい、かまぼこくらいくれてやろうとあきらめをつけて道を戻ろうとしたが、そこで初めて、自分は建造物解体現場の中まで入って来てしまったと気づいた。
「うわあ、勝手に入ったのがばれたら怒られるぞ、早くここから出なきゃ・・・」
エルムは踵を返して現場から立ち去ろうとした。すると、彼の近くにあったプレハブの詰所から助けを求める声が聞こえてきた。
「おおい、だれかーっ!! 助けてくれーっ!!」
「誰でもいい! 早く来てくれーっ!!」
エルムがこれはただ事ではないぞと叫び声のする方へ行って、詰所の中を覗いてみると、全身を紫色の光る輪でぐるぐる巻きに縛られている4人の男性が転がっていた。ジェットストリーム社の監督と3人のオペレーターだ。
「な、何、どうなってるの、これ!?」
「あ! そこの君、ちょうどよかった!! 頼む、そこのモニターの電源コードを全部抜いてくれ!! この光線はそこから出ているんだ!! 」
エルムは監督が指さしたモニターのほうに目をやった。なるほど確かに彼らを縛っている光線は三つのモニターから延びている。そして、そのモニターの後ろから延びている電源コードを目でたどってみるとそれらはすべて詰所の隅の同じ電源タップに刺さっていた。エルムは即座にそれをつかんで引き抜くと、バチン、と音を立ててモニターの画面は消えて、光線は消滅し、監督とオペレーターは束縛から解放された。
「ああ、助かった! おい、すぐに警察と防衛隊に電話するんだ! ああ、そうそう、君、誰だか知らないけど偶然近くを通りがかってくれて助かったよ!」
「いえ、別に、ちょっと、迷い込んじゃったので……でも、ここで何があったんですか?」
「侵略者だよ! 宇宙人だ! モールス星人と名乗る一つ目の化け物が突然襲ってきて、わが社のモビルダーをそのままそっくりのっとったんだ、君も早くここから逃げた方がいい!」
「わ、分かりました!」
エルムは監督に言われてすぐに現場を後にした。しかし、すぐ近くのビルの陰に隠れると、まさかの時を考えて後ろのリュックに入れてきたあの枕を取り出して、それを抱きかかえるようにして壁に寄りかかりながら瞬眠した。
・・・
モールス・モビルダーたちの挑発に乗った他社作業員たちは、威勢よく彼らの挑んだものの、ことごとく返り討ちにされてしまい、ついぞ勝てる者はいなかった。敗因は単純だった。彼らは喧嘩は得意でも、戦闘は得意ではなかったのだ。
「おいおいなんだよ、もう終わりか? 地球人のモビルダーも大したことないな、ええ?」
一番機ガイアは、残りの二人も含めた通算で99体目に倒したモビルダーの残骸を持ちながらあざ笑った。彼らの周りには残り98体のモビルダーの残骸とが彼らを囲むように広がっていた。作業員たちは最初こそ威勢が良かったものの、だんだんモールス・モビルダーがただものではないことに気付き始めてから彼らが恐ろしくなり、99体目が彼らがその目から放ったレーザー光線で切断された瞬間に席を切ったように逃げ出したのだった。
彼らは逃げ惑う作業員たちを追撃することはしなかった。あくまでも目的はユメヒトをおびき出すことだし、どのみちこの星が我々のものになれば今殺そうとあとで殺そうと同じことだと思ったからだ。
「どいつもこいつも間合いという者を考えずに、馬鹿の一つ覚えみたく無造作に突っ込んでくるなんて……やはり二本足の生物は野蛮だな。」
「中には俺たちよりも優れた性能を持ったのもいたけど、何分操縦者が馬鹿じゃあなあ、宝の持ち腐れとはこのことだ!」
「これじゃあ準備運動にもなりゃしねえ! 時間の無駄だったな。ええ?」
一番機ガイアは不満げにモビルダーの残骸を後ろに投げ捨てた。ところが、その残骸はそのまま一番機の背中に投げ返されて砕け散った。
「いてぇっ!! おい!! 誰だあ、俺に投げ返した奴は!!」
まず一番機は二番機と三番機をにらみつける。だが、二番機と三番機はそもそも彼のすぐ横にいて、彼と同じ方を向いていたので残骸を捨てた方向など知らなかった。
「俺じゃないぞ。」
「俺でもないぞ!」
「じゃあ、誰がやったっていうんだよ、ええ?」
すると、後ろの方でごそごそと明らかに自分たちが出す音ではない物音がした。音のしたほうへ三機は振り向くと、残骸の間からゆっくりと立ち上がる人影を確認した。その人影の正体を理解したとき、三機は思わず笑みがこぼれた。
「おお、やっと来たか……ピロマ・クラルの巨人!!」
三機はついにユメヒトと対峙した。いま、ユメヒトは戦闘優位性を保つために基底現実への出力の際にエネルギーを調整し、体のサイズを前回戦った時よりもかなり小さめに縮めていた。これは前回の時と同様の背丈で戦うと小回りの利くモビルダーに対して歯が立たないとエルムが考えてユメヒトに提案した結果だった。
「ほほう、背丈を自由に変えられるのか、器用な奴だ。」
一番機は二番機と三番機に目配せをした。そして互いに短い瞬き、長い瞬き、短い瞬き(モールス星人の眼球言語で”了解”という意味を持つ。)で合図を送ると、三機ともユメヒトに向かって一斉に襲い掛かった。まず二番機マッシュがロング・ヒートカッターを大きく振り下ろした。すぐさまユメヒトは光の刃ドリーム・ブレードを引き抜いてそれを受け止めた。二番機は刃を横にするとブレードの上をバチバチと火花を立たせて滑らせ、ユメヒトの手をなで斬りにしようとしたが、ユメヒトは後ろにはねてそれをよけた。
「どっせーい!!」
しかしその後ろから一番機が猛烈な勢いでショルダータックルをユメヒトの背後に食らわせて、不意を突かれたユメヒトは吹っ飛んだ。吹っ飛んだ先には三番機がいて、ユメヒトを仰向けに転がしてそのまま足でぐりぐりと踏みつけた。
「野蛮な二本足の巨人よ、野蛮な二本足のロボットに踏まれて死ね!!」
三番機が踏みつけを強くすると、ユメヒトは苦しそうにもがいた。しかしユメヒトは仮面にエネルギーを溜めると、複眼をすべて光らせて、仮面からオーラ上のエネルギーを放って三番機にぶつけた。
「うわーっ!!」
目のすぐ近くで放たれたために三番機は一時視界不良に陥り、ユメヒトを踏みつける力が一瞬弱くなった。すかさずユメヒトは三番機を退けて体勢を立て直し、三機から距離をとった。
「味な真似しやがるじゃねえか、ええ? だが忘れてくれるな、俺たちは三機、お前は一人。一人で出せる力は限界があるが、三機が一緒になればその力は三倍以上にもなる!それを今ここで、お前に見せてやろう! 二番機!! 三番機!!
そういった瞬間、二番機、三番機はそれぞれ左右に散開し、一番機は掌を顔の横に添えて、ユメヒトめがけて強烈な閃光を放った。
「さっきのお返しだ!! くらえ恒星眼!!」
その名の通り恒星のそれに負けるとも劣らない光はわずかにユメヒトが顔を覆ったことでどうにか遮られた。しかし、彼らモールスモビルダーにとってはその一瞬だけで充分であった。
「そおれ、いまだ!! 覚悟ぉぉぉぉ!!」
ユメヒトめがけて二番機がロング・ヒートカッターを構えて突進してくる。再びドリーム・ブレードを起動しては先を交えたその時、二番機のから見て右後ろから三番機が滑り出し、ユメヒトの脇腹めがけて拳を突き出してきた。だが、ユメヒトは左腕でもう一本ドリーム・ブレードを造換し、間一髪で三番機の拳を切り落とし、これを防いだが……
「わはは!! 往生せいやーっ!!」
なんと二番機の後方から一番機が、二番機を踏み台にして大きく飛び上がり、組んだ両手をユメヒトの頭に勢いよく振り下ろしたのだった。ユメヒトは頭をそらし、致命傷は免れたものの、その攻撃は肩に直撃してしまい、再び倒れてしまった。
「おうし、これくらい痛めつければ十分だろう、信号弾、放て!!」
一番機の命令で三番機が眼から信号弾を放ち、その信号弾が成層圏に届いて炸裂すると、月の裏から発進していたモールス星人の宇宙船が地上のユメヒトに向けて牽引光線を放ち、地面に倒れていたユメヒトをそのまま月へと連れ去ってしまった。
「やはり、データーは正しかったんだな。あいつは、空を飛べないんだ。」
「こういうタイプの巨人って、よく最後に”シュワッチ”するもんじゃないのか?ええ?」
「中にはそういうやつもいるんだろうな。まあいい、これで野蛮で邪魔な奴を月で寝かせている間に、俺たちはこの地球をいただくことにしよう。」
しかし、三機が地球破壊工作を始めようとすると、前から重たい鉄の塊がアスファルトを踏みしめる音が幾重にも聞こえてきた。異常を聞きつけた防衛軍がやってきたのだ。
「ちっ、おとなしくしておけば命までは取らないでやろうと思ったのによ・・・」
「三番機、腕を付けなおせばあいつらぺしゃんこにできるか?ええ?」
「ふん、あんな野蛮人の低レベルな武器、腕を付けるまでもない。」
「おいおい、とりあえず付け直して万全の状態にしておけ、あいつらの通常兵器は大したことはないが、あの対怪獣ミサイルを放たれると厄介だからな。」
「わかった。」
「そんじゃあ、第三ラウンド、行ってみるか、ええ?」
モールス・モビルダーたちは今度は防衛軍に標的を変えて、戦闘を再開した。
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