第3話 ユメヒト大地に起きる!

 ・・・


 今暴れている怪獣が出現したのは2度目で、宵の明星が出たころに現れて、明けの明星が出るころに消えていったことから、イチバンボシ明星怪獣というあだ名がつけられた。時刻はすでに24時を回っているが、暴れ放題の怪獣に対して出動した防衛軍の対策といえば、住民たちを避難させて、どうにか今自分たちがいるブロックから動かさないようにするだけだった。現場の指揮官が、怪獣の動きをモニターで監視して、一挙手一投足ごとに指示を出す。東に動けば背後の西から、南に動けば北から、といった具合に、怪獣を右往左往させて疲れさせた後に、麻酔弾を撃ち込んで眠らせるというものだ。とても単純で、実際これで何体も倒した堅実な作戦ではあるのだが、この作戦は、怪獣が例外的な能力を持っていた場合しばしば失敗する。


「司令官、奴と戦うのは二度目とはいえ、こんな単純な作戦でいいのでしょうか……もし奴が攻撃のパターンに気が付いたり、口から熱線でも発射したら、我々は一巻の終わりです。」

「……仕方ないだろう、我々は奴らに対して決定的な手段を持っていない限り、策で戦うしかない。ああ、せめて、色力兵器がまだ使えていたら……」

「よりによって、国連で色力兵器の軍縮が決議され、色力兵器技術が凍結されてしばらくたってから狙いすましたかのように奴らは現れましたからね……」

「それなのに上は決めたことだからといくら突き上げても首を横に振るばかり……割を食うのはいつだって我々下っ端だよ、まったくついてない……」


 指揮官がため息をつきながらモニターを見ていると、怪獣が西へと向かって動き始めたので東にいる部隊に攻撃命令を出そうとした。

 ところが、怪獣の進行方向にいる部隊長から連絡が入った。ひどく慌てている。


「どうした!」

「大変です、怪獣が光線を発射し……うわっ!!」


 画面に一瞬赤い閃光が光ったと思うと、たちまち西の部隊長との通信画面は砂嵐になった。恐れていたことが現実になった。すぐに別方角の部隊に問い合わせて西で何が起こったかを確認する。怪獣は、東からの攻撃にはもはや見向きもせずに、西に陣取る小隊をじっと見つめて、口内にエネルギーを集中させると、それらを一筋の赤色の光線として一気に吐き出した。西の部隊は、跡形もなく消し飛ばされて、陣取っていた道路丸ごとぽっかりと黒焦げになった大穴が開いているだけだった。


「まずい! 各部隊に次ぐ、たった今、西にいた部隊がみな全滅した! 目標はそこからほかの地区へ移ろうとしている!! 大至急目標の進行方向へ先回りして食い止めろ! ここから一歩も出すな! 目標は破壊光線を出すことが確認された、破壊光線を出す際に口の中にエネルギーをため込む動作を行う。もしその兆候が見られた場合攻撃を中止し、直ちに射程距離から避難せよ!」


 指揮官の号令で東、北、南に配置されていた部隊がそれぞれ人員を分けて移動し、怪獣の進行方向へと立ちふさがって攻撃を開始し、目標の動きを食い止めようとした。だが、あくまでも人間同士での戦いに特化した武器で、人間よりも数倍頑丈な怪獣にはもはや蚊の一刺し程度でしかなかった。怪獣はミサイルや弾丸をぶち込まれたあたりを軽くなでた後、長い尻尾を大きく上にあげて、鞭のようにしならせながら勢いよく地面にびたん、びたんと打ち付けた。


「うああああ!!」

「ぎゃあああ!!」


 兵士たちは打ち付けられるたびに発生する衝撃波でトランポリンのように跳ね返り、何度も何度も地面に強く叩き付けられた。そして、それを待ってましたと言わんばかりに、怪獣は大きな口をあんぐりと開けて再び口内にエネルギーをため込み始めた。

 その様子を見ていた指揮官は怒りがふつふつとこみあげてきた。奴のずるがしこさを理解したからだ。この怪獣は、自分たちよりも一枚も二枚も上手な相当の策士だ。エネルギーをため込む間に逃げられないよう、わざと地面を揺さぶって兵士たちを動けなくした後に、ゆっくりとエネルギーをため込んで一人残らず焼き尽くそうというのだ。しかし、今から逃げろと叫んでも、もはや間に合わない……。



「各員、怪獣が光線発射の前兆を見せ始めた! 至急退避せよ! ぼやぼやするな!!」

「……だめだ、もう遅い……間に合わない……」


 オペレーターたちは最後まで必死に逃げろと催促するが、指揮官はこれから起きる大惨事を想像して、思わずモニターから目をそらしてしまった。すると、東に残っている方の小隊から連絡が入った。


「どうした?」

「大変です、未確認の生命体がもう一体現れました! 今度は人型です!!」

「なんだと!?」

「映像、写します!!」


 東の部隊から送られてきた映像に移っていたのは、なんと、大きな道路に全身青色で銀色のラインが入った巨人が横たわっている姿だった。巨人の顔は正面から見ると黒いひし形のようだった。そして間髪入れずに、巨人の黒い顔面を右から左に白い線が数本流れていくと、巨人は手をついてむくり、と起き上がった。黒い仮面を構成する六角形上の複眼が一定のパターンで点滅を繰り返した後、”GO”という文字を表示して、二つの瞳を映し出した後、巨人は西へ向かって走り始めた。


「何やってんだ、早く止めろ!!」

「……いや、待て! 様子がおかしいぞ……!?」


 巨人は大股で怪獣のいる方に駆け寄ると、そのまま勢いよく後ろから抱き着いて怪獣ごと後ろへ勢い良く倒れこんだ。まさにその瞬間、怪獣の口から破壊光線が勢いよく放たれて、夜空に赤い光の柱がまっすぐに立ち上り、そして消えた。怪獣の狡猾な作戦は突然現れた巨人によって無に帰したのだった。


「我々を……助けた……!?」

「まだ警戒を怠るな、各員、巨人と怪獣から一定の距離を保て! 奴は敵か味方かわからない、攻撃態勢を決して緩めるな! 命令されたら今すぐ対巨大生物用ミサイルを打てる準備をしておけ!」


 指揮官の号令に従って兵士たちは自分たちの攻撃が届くギリギリのところまで怪獣と巨人から距離をとった。それを見計らって、巨人は怪獣を蹴り飛ばして立ち上がり、間合いを取った。怪獣は自分の策をぽっと出のやつに邪魔されてご立腹だ、と言わんばかりに巨人に向かって体当たりを仕掛けてきた。巨人は怪獣とぶつかる寸前で素早くしゃがんで、怪獣の腹がふれたのを確かめると怪獣の脚をつかんで立ち上がり、そのまま後ろへと投げ飛ばした。


 また後ろから倒れてしまった怪獣はさらに巨人に突進を仕掛ける。巨人は今度はひらりと身をかわして怪獣を受け流した。怪獣はまたまた転んでしまったが、しかし今度はすぐには立ち上がらなかった。もう倒したかと様子を伺い、巨人が慎重に近づいてくるのを待ち、十分な距離まで来たのを見計らってから、巨人の死角にあった尻尾を思いきりしならせて頬を打ち付けた。


「ウアッ!!」


 不意打ちをまともに食らった巨人はのけぞった。怪獣はやっと起き上がって、ここぞとばかりに反撃を開始した。相手が立ち直る隙も与えずに連続で何度か打撃を与えると、巨人はついに膝をついてしまった。そこでもう一発尻尾を振り回し巨人をはたき落とすと、怪獣は巨人に馬乗りになってさらになぶり始めた。鋭い爪のついた手を巨人の頭めがけて交互に突き刺す。巨人は頭を振ってそれを必死によける。巨人は怪獣がのしかかる中どうにか腕を引き抜くことに成功し、怪獣の腕を抑えて動きを封じた。だが怪獣は、それを見ると不敵な笑みを浮かべた。そして三度、口内にエネルギーを溜め始めたのである。

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