エピソード0 ジンの前日譚

 血を、吐いた。


 いつも戦って吐いている血ではない。


 死を覚悟する量である。


 両手で掬える量を超えている。


 君主ロードは剣を奥に刺し、俺の生命を断裂させようとしている。


 スゥハァスゥハァァ...


 体の温かさが段々とこの世に別れを告げる。寒くなってきた。


 顔を上げると泣いているミロが見えた。


 すまないな。色々と。


 あの時、ついて行く事を許さなければ。目を離していなければ。


 後悔が身を貫く。


「に..げろ...」


 俺は渾身の力を振り絞る。


「はやく...にげろ皆!」


 皆が逃げて行く。


 君主ロードが剣を抜き、俺を再び貫こうとする。


 皆はもう、後ろを向いていない。前しか見ない。


 それで、いい。未来に向かって行くんだ。


 俺は...こいつを止める。


 茶髪が揺れ、優しい緑色の目はもう、黒くなりかけている。

 体の腹部からは血が止まらず、数分もしない内に俺は死ぬだろう。


「ぐぅうぅ...」


 雲のような霧のようなものが俺を包む。


「No name Death」には、記憶の喪失と、技の封印及びステータス大幅減少というデメリットがあるものの、転生する事が出来る。


 この特殊能力ユニークスキルは仲間に言っていない。


 だが、ステータス画面に書いていない隠し能力がある。


「Death」、死ぬ事が確定する場合、「No name」、名前が、記憶力が、自分の事が徐々に無くなる変わりに、これからの。俺の体が転生する体になるのだ。


 つまり。怪我が無くなる。


「がぁあぁあ...」


 その隙に君主ロードが剣を刺しにくる。


「ササゲル、心の臓ヲ」


 この技は、確定で大ダメージを与える。


俺の世界を受け入れろアクセプト・オブ・ザ・マイワールド


 白黒のせかいが展開される。


「俺のせかいは重力が30倍になる。」


 ドガォ


 地面が割れる。体が重くなる。だが、奴は鎧を纏っている。まともに立てないだろう。


 すぅ。


 目を閉じる。未来を見るんだ。俺がどうなるのか。


 黒い髪、黒い目。優しそうな雰囲気を纏う彼は日本人だろうか。アパートで忙しく働いている。


 目を開く。血で覆われていた目は澄み渡り、前髪の黒い髪が見える。


 雲が、霧が晴れる。


 どれだけ動けるか。数秒か、数分か。 


 さあ、行こうか。奴を止める為に。


 俺は再び剣を構え、君主ロードに立ち向かう。




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