エピソード0 ミロの前日譚 続

 あいつらは強かった。私たちの冒険者チームはギリギリの勝負を強いられた。


 私、ミロは魔法の打ち合いを続けていた。


 すぅ


 息を吸って。


 帽子を押さえ思いっきり叫ぶ。


「ファイアぁーーエクスプローション!!」


 爆風を回避しつつ、撃った魔法は奴によって消される。


 黒髪に茶色の目。鋭い目は威圧を感じ、男には珍しく、髪が長い。ドンという名前の奴である。


「陣、発動。」


 手を前に出して言った。


 魔法陣が目の前に作られる。


「ふッ!」


 緑色に光った魔導弾を撃ってくる。魔法陣を設置すれば、魔力を注げば何度でも撃てる代物。欠点は方向を変えれない事だけ。


「畜生...!」


 私には分が悪すぎる。しかし、代わりはいない。皆戦っているのだ。本人の技量と魔力量の勝負。


 いける。この私、自称天才魔術師になら。


 敵の魔術を使わせ、魔力を減らす作戦でいこう。

 ファイアー系で1番弱い術を使う。


「ファイアー!!」


 すると。ドンはぶつぶつと何か言っている。


「陣並行発動...位置固定...魔力装填完了...」


 私のファイアーには目もくれず。

 あれ?私の周りに陣が敷かれてる...ヤバくない?


「ふんっ!」


 ドンが叫ぶ。すると、四方八方から緑色の魔導弾が迫る。私のファイアーは、手元の陣によって相殺されていた。


 死んだ...


 そう思って目をつぶっていたのに。


 ジンは。


「やっぱり自称じゃないか。」


 そう、私を庇っていながら笑って言った。


 ジンにも敵と戦っていた。君主ロードと。敵の中で1番強いにも関わらず、私のピンチに駆けつけてくれた。ずっと見ていてくれていたのだ。


 そう思うと。


 悲しさと嬉しさと悔しさと。色んなのが混ざって涙がポロポロ出ていた。


「なんで来たんだよバカ。」


「お前が心配だからだよ。ミロ。」


 そう言うとすぐに振り向いて言った。


概念無効ゼロ・ワールド


 ジンの周りに白黒のせかいが発生する。


 そして。私を


 え?


 概念無効ゼロ・ワールドは、あらゆる概念をジン自身によって無効に出来る。1つにしか効果は付与出来ないがその分強力である。今回は私に重力は重いという概念を無効にしたのだろう。私は白黒のせかいに出るまで、吹き飛び、出てから止まった。


 私は何かしたのだろうか。


 そう思ってジンを見てみると、ジンは血を吐いて、死にかけていた。


 白黒のせかいは消え、君主ロードが剣をジンに刺していた。


 白黒のせかいで陣があるという概念は無効にしたのだろう。なくなっていた。


 だから、魔導弾があれ以上撃たれていなかったのか。


 遅くに理解してしまった。


 そして。私に概念無効ゼロ・ワールドを使ってしまった。ジンの特殊能力ユニークスキルであり、必殺技。あれがなく、私を庇って君主とまともに戦えるはずがない。


 涙はずっと出ていた。止まらなかった。嗚咽は止まらずそれでも思考は止まらない。


 私のせいだ。私が悪い。私がいなかったら。ここにいなければ。足を引っ張らないと決めたのに。


 後悔だけが募る。


「に...げろ...」


 ジンが辛うじて喋る。君主ロードは刺した剣を抜き、もう一度刺そうとする。仲間は異変に気づき、止めようとする。


「はやく...逃げろ皆っ!」


 ジンが血を吐きながら叫ぶ。


 私達はその言葉を聞き、迷いながらも選択した。逃げる事を。


 後は知っての通り。パーティは解散。

 地獄がまた始まった。

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