エピソード1 初戦闘と邂逅

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 ヤバいヤバい!なんでモンスターが向こうに行くんだろ?!—————ある自称天才魔導士より


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 1時32分


 俺、斎藤尽さいとうじんは自分の目を疑った。なんでかって?路地裏に来たら怪獣がいたんだよ。俺からすると怪獣よりモンスターなんだが、皆、英語やカタカナを使わないから怪獣と呼ぶ。

 

 電柱に隠れてじいっーと見てみると肌が緑色で所々に白い模様が入っている。身長は80㎝ぐらいだろうか。赤い目は人がいたら襲いかかりそうで恐ろしい顔つきだった。


(人通りがなくて良かった。)


 ほっとするのはいいものの俺の親友であり同僚の偽真だみまこと(あだ名はだみ)を探しに道に出ていた。

 この生物を見たことがある気がした。決してこの世には存在しない。こいつは。それだけが分かる。


(どうしたものか...)


 と言うのも人がいないだけでいつ来るか分からない。こいつは1匹だけだが、俺より確実に強いだろう。ここで焦ってはいけない。


(警察を呼ぼう。)


 そのためにもまずは逃げよう。安全が大事だ。そう思って足を一歩後ずさった。


ドクン


 心が脳が体が震えた。


ドクン


 『』と言われた。


 なぜ。俺は警察を呼ぶだけだ。こっちに来たら勝ち目はないだろ。


ドクン ドクン


 『。』


ドクン ドクン ドクン


 『。』『。』


 脳が割れそうだ。目が震えている。汗がこれでもかというほど出ている。


 『#...!』


 次の言葉聞く前にはもう飛び出していた。これ以上何も聞きたくない。その一心で。


「うああぁあぁあぁああ!!」


 声に出せばバレるがどちらにせよだ。怖さは半減する。ゴブリンはこちらに気付き腰の布切れからナイフを取り出した。一方こちらは素手。勝ち目はなし。


(やつのナイフを奪う!)


 俺にしては珍しく冷静だろう。


「グゥエエエエア!!!」


 ナイフが振り下ろされる。俺は左足を下げ、体を斜めにしてそれを回避する。


(こっちは格闘技を一通り嗜んでるんだ!)


 隙の出来た瞬間に右手でボディブローを放つ。


「グゥエ?!」


 一応効いたが手がとても痛い。赤くなってるな。そうしてゴブリンがナイフから手を離す。

 

 カランカラン...


(よし。あとはどうする?)


 ナイフが無いからって安心は出来ない。やつを倒すか無力化しなければ。一回深呼吸。落ち着こう。やつは頭が悪そうだ。こちらはそこで上回ることができる。


 ナイフを拾う。


ドクン ドクン ドクン ドクン ドクン 


 これから俺がこれからするのは殺しだ。もちろん1回もやったことはない。


 緊張。


 ふぅと息を吐く。ここまでの思考に30秒ほど。やつは体を起こしてこちらを赤い目で凝視している。


「グゥゥゥゥエエエエアァァアァ!!!」


 怒りで我を忘れている。冷静になれてない。右手でパンチを打とうとしているのが丸分かりだ。

 俺はナイフを逆手に持ち、顔の前にナイフを突き出す構えだ。ナイフなどの武器を使ったことはないが一撃の突きで仕留める。射程も長いはず。重心を下げ、俺の身長の半分の生物の心臓を狙う。


 来る。


右、左...


 ボクシングで言うコンビネーションだろう。次は右か。

 体を斜めらせ、バックステップでまた回避し、攻撃を繰り出す。ただの蹴りだが。


「ぉらぁあ!」


「グゥ!」


 蹴りがやつの胴体に入り、横に吹き飛ぶ。その隙に。俺は狙いを定めて走り出した。


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 1時02分頃


 偽真ことだみは店から出て、めんどくさそうに頭をボリボリ掻いていた。


「っはぁ。今日かよ。一昨日は北海道に出せとか面倒くさいな。」


 だみは何もない空間を見ながらブツブツ話した。


「にしても周りが気づき始めてる。早く行動しなければいけない...と。」


 だみには見える蒼白い画面。モニターが映し出されているような画面で、A4の縦が小さく、横が長い方の大きさ。そこにメールを打っている。


(これでOK。後は潜伏するか。)


 ピコン


 メールが返ってきた。


『了解。ゴブリンを4体ほどそちらに送る。』


「ゴブリン4体?!クソ雑魚だし少ねぇ。全然それでいいんだけどな。」


 そう思っていると、続きがあった。


『向こうににも大変なのだ。そもそもその世界の住民は弱いのだから大丈夫だろう。』


(そうだったな。お前はくそ野郎だぜ。だが。俺にとっては最高な野郎だ。)


 そう思いつつモニターの中心を手で半分にして消した。紙を半分に切るように。


 その30分後にゴブリンが1匹ずつ送られてくることは知らなかった。


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「おぉおおぉらぁああぁ!!」


 ゴブリンが立ち上がる瞬間を狙ってナイフを心臓に穿つ。


ドシュ


 嫌な音が聞こえた。そして。


「ウガアアアァァ...」


 叫び声が段々と小さくなり、そして消えた。

 虫は殺してもあまり何も思わないのに。

 こいつを殺すととても虚しくなる。申し訳なくなる。

 何故か。こいつは血が赤く、知能を持ち、心が現れていた。ただそれだけなのに、罪悪感だけが心を埋め尽くす。


「はぁ。」


 溜息しか出ない。血が体についている。血生臭い。

 どうやって帰ろうか。そもそもこんなに叫んだのに人が来ないのは人がいないと言うことではないのか。

 よし。上着だけ脱いでひとまず店に帰ろう。そう決めて路地裏を出て大通りに出ると人が沢山いる。


「...ッッ?」


 人混みの中心にゴブリンがいた。しかし人は気にせず歩いている。ゴブリンも人を気にせず何かを探している。


「すみません。通ります。」


 そう言い続け人混みの中心に行く。


 ゴブリンと気づかなかったがもう1人灰色のパーカーを着た茶髪の青年が一緒にいる。フードをかぶっているので顔が見えないが、俺の同僚にそっくりだ。


「君、ここにいない方がいいよ。」


 知らん人に言われるのは癪に障るかもしれないが、安全のためだ。

 だが。その男はふっと笑いやはりお前か、と呟いた。


パチん


「解除」


 人が消えた。ヤバい。誘い込まれたってこと?


「よぉ、尽、いや?」


 そいつはだみだった。にこっと笑い言い放った。


「すまないが死んでくれ。」


 手が刀を掴む形にしてまた言う。


外部装置デバイスオン」


ジ...ジジジ...ジジジジ...ジジジジジジジジジジジ


 空間が歪み刀が出てくる。


「...は?」


 意味が分からん。ゴブリンが出てのも分からんが、だみが俺を殺しにかかってくるのも意味分からん。


「だみ!どうゆう事だ!説明しろ!」


 逃げても死ぬならば。せめて、聞いて死のう。


「そうだなぁ。ジン。そもそも俺は偽真ではない。」


 そう言うとだみの姿が


「...え?」


 そいつはだみではなかった。


「俺はダミ。この世界の監視者であり、かつお前を監視し、殺す存在だ。」


 茶髪に染められた髪は銀髪に変わり、服装はこの世にはない服装でまさに魔導士だった。口は見えるが、目を隠す銀色の仮面をつけている。こいつ銀色好きだな。


「さらばだ。元親友よ。」


 そう言って刀を振りかざす。しかし、俺にはすんでの所で届かず止まった。


「ぐぅぅ...?」


「やらせないよ。」


 謎の女が出てきた。ベージュの髪でセミロング。蒼い瞳は海のような深い蒼い色で綺麗だった。服装も魔導士の装いでダミに形は似ている。


「最大火力でいくよ!『ファイアーエクスプロージョン』!」


 ダミ動けるようになったと手をグーパークーパーしている。


「貴様バカか?魔導士で刀を使っていたら魔法は切れるのが当たり前だろうが。ミロ。」


「うるさい!自称天才魔導士ミロはそんな事分かってるわバカ!」


「変わってないな。ジンを殺された以来か。」


「話す余裕あるの?」


「ぐぅ...」


 ダミは刀で切れるたと言っていたのに炎を切れていない。


「貴様ぁ!さてはだな?それでは対応すべき方法が分からん。」


「その通り♪鍛錬してたってこと!」


 ふぅとダミが息を吐いた。


「『ざぁん』!」


 刀を下から上に振り下ろすだけだが、渾身の一撃のようにみえた。


「結局オリジナルでも力で押し切ればいい事。死ね。」


「止まりなさい。『ストップ』」


「またか。」


 ダミの動きが止まる。


「行くよ。ジン。」


 ミロという女が手を出してくる。しかし、その手を取ることは少し難しかった。

 なぜって?助けてくれたとは言え、知らないやつにジンと呼ばれているんだ。怪しいにきまってる。

 そう考えているとミロが眉を顰めた。


「一緒に行かないと、ジン、あなたは死ぬわよ。」


 俺には決定権がないようだ。助けてもらったのだ。黙ってミロの手をとる。

 ダミは静かに怒った顔で言う。


「黙って行かせると思うか?」


「ふっ。」


 ミロが笑うとダミが悔しそうな顔をした。


「分かるくせに。ダミ。」


「ゴブリンは殺していたのか...」


 どうゆうことだ?その疑問にミロが答える。


「ここに来る前に殺しておいたのよ。」


「いや、そっちもそうなんだけど...ダミはミロさんの顔で分かったのかなって...」


 そう言うとまたミロは眉を顰める。


「ミロでいいわ。それはね。ダミは心をよめるのよ。」


「っえ?!」


 前に少し笑っていると思ったら笑みをなくしたのはそうゆうことだったのか。


「もういいでしょ。早く行こ。」


「う...うん。...ってどこに?」


「違う。ジンにはパラレルワールドって言っても分かるよね?」


「まぁ分かるけど...」


「あなたは昔生きている時はそこにいたの。」


「昔生きている時...?」


 表現がおかしくないか。まるで俺が前は死んだみたいな言い方だ。


「そう。あなたは生き返ったのよ。」


「...え?」


 最近の違和感はそれだったのか?ずっとそうだったのか?俺には今まで生きていた記憶はあるのに。死んでいたのか?もちろん昔の記憶なぞない。


 そんな複雑な感情が外に出ていたのだろうか。ミロも複雑そうな顔で言った。


「私にもよく分からない。あなたの魔力をこの世界でたまたましていた時に見つけた。」


 そしてにっこりと笑い言った。


「最初は本当に戸惑った。でも行ってたらジンだったよ。姿も何もかもが変わってもジンだよ...」


 ミロは笑いながらポロポロ涙を流していた。

 俺はその雰囲気が気まずかった。俺は覚えていないのだ。申し訳ない。

 ダミはケッと吐き捨てた様子で止まっている。動けないし何も出来なさそうだ。


「さ。今度こそ行こうか。異空間開門ゲート・オープン。」


 空間が捻れ、宇宙のビックバンのようになってゲートが出現した。


「さようならダミ。あと5分はそのまんまだよ。何せ私の魔力の半分を使ったもの。」


 ダミは諦めたようすではぁと溜息を吐いた。


「そうかよ。精々楽しめるといいな。」


「負け台詞はいらないよ。でも。あなた。」


 ダミは肩をすくめた。


「何のことかな。」


「殺せるチャンスは沢山あった。きっと私が来る前にも。でもやらなかった。つまり...」


 鬼のような形相でダミが言った。


「早く行け!バカミロ!」


 分からん。ジンを殺した仲間じゃないのか?

 ふっとダミが笑う。


「正確にはジンが殺された後だがな。行ったのは。」


 なるほど?


「まぁ、達者でな。ジン。」


 そんな会話をして、俺とミロはゲートを潜って行った。


(さようなら。もっりー社長(店の店長)、ダミ。2人と親友になれて本当に良かった。もっりー社長、次の日から行方不明になってます。色々すみません。)


 ジンは本人か分からんがいないが一応2人に別れを告げた。

 

  そうして俺はこの世界から姿を消した。

   俺の日常はここで終わりを告げる。

    そしてジンの物語が始まる。

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