エピソード0 斎藤尽の前日譚

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 このは日本という国しか無かった。———————————ある自称天才魔導士より


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 俺は布団からかばっと起き上がった。


「あれ?」


 つい声に出てしまった。しかしその違和感は拭えない。何か心がぽっかり空いた嫌な感じ。


「うーむむ...」


 声を唸らせるが何も出ない。そりゃそうだと思いながら時間を確認する。

 午前7時をすぎたらしい。俺の住んでいる1LDKのボロアパートに寺の鐘がなっていた。


「悩んでても仕方ない。仕事に行く準備をするか。」


 どっこいしょっと重い腰を上げ朝ご飯と仕事の準備をする。今日の朝食は定番の定番目玉焼きセット!手をパチんと合わせる。


「いただきます。」

 

 流石俺。毎日美味い。

 しかしここ最近気分が悪いというか違和感がある感じがするのだ。料理は美味いままなのだが。


 (病院に行くべきか?)


「うーむむむ」


 また声を唸らせた。これ独り言激しい人では?と悩んでる内に朝食をたべおわった。

 

(ま、気にしなくていいだろ。)

 

 そうしてガチャガチャいそいそと片付けと仕事の準備をする。

 

「行ってきます。」


 こうして俺の日常が動き出すはずだった。あの時までは。


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 俺、斎藤尽さいとうじんは24歳の平凡な一人暮らしをしている。俺の両親は早くに他界。その後祖父母に引き取ってもらった。その恩に報いるため高校生、大学生では毎日バイトをしていた。そのお陰でバイトしていた所に雇用してもらえたのが今の職場である。ついでにそこは私服が許可されており、個人的に最高である。

 

 (しかし遠いんだよなぁ。)

 

 電車に揺られながら思う。2時間は個人的に長い。はぁと溜息を出す。しょうがない。これが自分の人生だ。


 (高校生の求人がそこのスーパーぐらいしかなかったんだよなぁ。)

 

 改札を出てから徒歩20分。バスは毎日使うとお金が消えるので使っていない。ちなみに往復300円ぐらいだ。そして見えてくる大きくて赤い文字の看板。

 

 "大型商業施設 斉藤"


 ちなみに斉藤だからな?俺の漢字とは地味に違うからな?と一人ツッコミをしておく。

 "大型商業施設 斉藤"は今の店長、斉藤守さいとうまもるという人がこの家業を継いだ。この人は俺が成人すると同時に社長に就任。そのくせに普通に働く。個人経営で忙しそうなのに。しかも人柄も良く、俺の親友でもある。

 しかし。俺はバスだとか、スーパーだとか呼んでいるのだが、皆は交通公共機関だとか、大型商業施設と呼ぶ。皆、英語やカタカナを使わない。1LDKのボロアパートも俺が作った言葉だ。


「長いし、呼びにくくないか?」と言うと

 

「何だその読み方。日本語か?」

 

 と聞かれる。

 

 (日本語じゃないんですけどね...)


 その自覚はあるがその変化に気づかない。これが俺の日常だった。


 仕事の昼休み。休憩所で斉藤守(俺はもっりーと呼んでいる)が話しかけてくれた。


「尽、ひとまずお疲れ。」

 

「あざます。もっりー社長。」


「何度も言っているけど社長はいらないよ。」


 はにかんだ笑顔で話してくれる。そんな気さくな所が俺は好きなのだ。


「そんな事できないっす。」


「語尾にすとかですもつけなくていいのに...」


 なんか言っているが俺の耳には入っちゃいない。


「あっ。そういえばこれ見た?」


 そう言ってスマホ(携帯電話)を見せながらまた言う。


「怪獣出たらしいよ...?」


「...は?」


 やべ。口が悪くなっちまった。


「すみません。口が悪くなっちまいました。」


 そう言うとううんと首を振って言ってくれた。


「大丈夫だよ。同世代なんだし。」


 優しい...と感動してる場合じゃない。本当か確かめなければ。


「嘘じゃないですか?」


 そう聞くともっりー社長は真剣な眼差しになっていった。


「いや本当っぽいよ。ほら、ここ見てみなよ。」


 言いながら指をさした。

 見てみると某新聞社の名前が載っている。


「...え...」


 驚嘆そして恐怖が来る。焦りまくった。


「どどどどうすればいいんですか?!」


 やべ。噛みまくったわ。

 そう言うともっりー社長は冷静な顔つきで話した。


「大丈夫さ。自衛隊が何とかしてくれる。しかもここは埼玉県で、怪獣がいるのは北海道。遠いし、ね。」


「そうですかね...」


 その冷静さは見習いたいが、これは安心出来ない事だろう。

 そんな風に話していると、1人の男が近づいてきた。ここに来るということは社員だろう。茶髪に染めていて、髪型をボサボサにしているが真面目そうに見える。灰色パーカーをよく着るあいつだった。


「よぉ。尽、社長。尽はまだ黒髪、黒い目なのか。昨日、茶髪に染めてカラコンとか使えば似合うって言ったのによぉ。せめて髪を整えて来いよ。」

 

「うるせ。いーんだよ、これで。」


 こいつは俺の親友であり、同僚だ。偽真だみまこと(俺はだみと呼んでいる)。それがこいつの名前だ。かなり珍しい名前だと思う。


「ま、お疲れ、だみ。」


「お疲れ様。真。」


 2人でこいつを労う。


「何話してたんだ?」


 気になるのかおまえも。そう思うと心の中を読んだようにだみが笑う。


「ふっ。」


 なんだこいつ。


「実はね...」


 もっりー社長がさっき話したことをだみに話してくれた。


「へぇ。んなやつがいるのか。」


 だみの顔色は変わらなかった。強いて言うなら少し笑ったように見えたことか。次にだみが笑みをなくして言った。


「こいつは気にしない方がいい。何事においても支障が出るぞ?」


 俺はその言葉が気になった。


「これは他の人が危機に晒されているんだ。気にするだろ、普通。」


 そう言うとだみは顔をほんの少し引きつらせ、もっりー社長は意外そうな顔をした。


「尽、君は人の事を気にする性格だったかい?」


「そん通りだ。」


 もっりー社長の言葉にだみも同意する。


「僕はね。最近尽の性格が変わったと思うんだよ。以前はとても暗かったのに、今はそんな感じが一切しない。何かあったのかい?」


 心配そうな言葉にここ最近起きている違和感が思い当たる。しかし、これ以上の心配は無用だろう。おれは笑って言った。


「大丈夫ですよ。」


「そうかい。それなら良かった。」


 とても安心した顔になって俺も安心した。


「おっと。そろそろ時間だ。12時半を過ぎている。」


 これ以上話せなくて残念そうな顔しながらもっりー社長はそう言った。


「そうだな。仕事に戻ろう。」


 俺もそう思う。


 そうして仕事に各自戻った。だが、もっりー社長の性格が変わったと話してからだみがずっと黙っていた。あいつにしては珍しい。気分が悪いのだろうか。

 

 そんな心配をしていた1時に差し掛かる頃。

 だみが消えた。もちろん、俺ともっりー社長は店を閉めて探したさ。でもな。その30分後、店の近くに写真のやつが出てきやがったんだ。

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