Episode 003 それは、奇跡のバイオレンス?


 ――私は消えた。暗闇に乗じて溶けるように。もう戻らぬ思いを道連れに。



 とにかく帰るのが怖かった。


 でも、私は正当防衛。身を守るために、ママの身体を利用した。……ママに罪を着せたことには違いないけど、思えばママも同罪。私を見殺しにしようとしたのだから……


 それに、私は手を出してはいない。白銀のペンダントの効果によるもの。


 だったら、催眠術を使ったのだろうか?


 私には、それを知るための知識を持ち合わしてはいなかった。奇跡……


 奇跡というものだった。生きているということ自体が。パトカーのサイレンの音も聞こえてきた。幾度も私を素通りして、その行く先は多分、私の家だった所だ。


 想像するに、ママは捕まる。黄金のバットでパパを殴ったから。そしてパパは、生死は不明。確かめることが怖かったから。でも、ニュースにはなかった。いつまで経っても同じ同じ同じ。何故だろう? パパが生きていて欲しいと願っている。心の何処かでは。


 彷徨える。行き先などなかったから。


 転々としたくも、私にはお友達はいなかった。ボッチだから。幾つもの朝を迎えたことだろう? 路地裏で力尽いた。脳内も目の前までも真っ白になっていって。


 パトカーのサイレン音は、いつしか救急車のサイレン音に変わって、私に近づく。そこからの記憶は曖昧。様々な、ママの親戚の家に預けられるもトラブル。一か月もしないうちに、行く先がなくなって。お祖母ちゃんの家に預けられることになった。


 ママのママ。


 とても優しかった。


 不登校となっていても、無理に行かせようとしなかった、学校。


 その代わりにお手伝いがある。育む役割。お米を育てるお手伝いだ。お祖母ちゃんと一緒に、額に汗を拭った。手に汗握る農業も、お祖母ちゃんが一緒だったら楽しい。


 お祖母ちゃんの名字は『戸中となか』で、ママの旧姓と同じ。そして今は、今は……



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