第8話 シリウス・ガールの登場②
直後、夜空に消えたレイヴン・ヤングが放ったのであろう、刃の雨が降り注いだ。シリウス・ガールは腰を落とすと、先ほどの光の壁――シリウス・アイギスを今度は天に向けて展開、すべてを受け止める。
「羽根を落とす以外に何もできないわけ? 芸のない奴」
闇夜に向かってシリウス・ガールが叫んだ。その挑発に乗ったか、今度はレイヴン・ヤング自ら、分身体とともに群れをなして頭から突っ込んでくる。皆一様に翼を折り畳み、空気抵抗を極限まで軽減した姿となって、落ちてくる
さすがに防ぎきれない。そう判断したのか、シリウス・ガールはアイギスを解いた。解いて――何もしない。自分めがけて急降下する黒い翼を、直立不動で、流れ星でも眺めるみたいに、ただ見上げている。
勝利を確信したレイヴン・ヤングの、嘲笑う顔が見えた気がした。スプレンディドマンは思わず目を覆った。
「――シリウス・ヘリアカル・ライジング」
直後、耳を
全身に強い衝撃を受け、スプレンディドマンは後方に吹き飛ばされる。地面に後頭部を強打して、視界が
状況が、まったく把握できない。
時間の流れが、ひどく遅く感じられる。
耳鳴りに襲われながらもどうにか身を起こし、ぐわんぐわんと揺れる脳味噌を、マスクの上から叩いて覚ます。
次第に、視界が明瞭に戻っていき――その時、スプレンディドマンははっきりと見た。
天に向かってまっすぐに突き上げられた、紅の拳。
固く握り込まれたその拳は、静かに
「……本物がどれかわからないのなら、ぜんぶひっくるめて
シリウス・ガールは腕を下ろし、夜空を見上げた。数え切れないほどの黒い羽毛が、はらり、はらりと、舞い落ちる。シリウス・ガールの拳によって穿たれた、夜空の破片のように思えた。
静寂――ほんの数秒前までの、激しい戦いが嘘のような静寂。スプレンディドマンは思い出したように立ち上がった。「なあ、あんた……」
途端、急激な雨。アスファルトを叩きつける雨音に、スプレンディドマンの声は掻き消される。
それは血の雨だった。
舞い散る黒い羽の向こうで、鮮血に濡れるシリウス・ガールが、顔をこちらに傾けていた。口許に微かな笑みを浮かべて。
その姿は、狂った天使の名に相応しいものだった。
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