1´
退屈な授業を抜け出して、天才は一人屋上で空を仰いだ。耽けるほどの感傷は、特になかったけれど。悠々と滑空する鳥を認めて目を細める。ああ、あれはいいな。
空になりたい。ふと思った。
「……さて、私はソラになりたいのかな。それとも、カラになりたいのかな」
つまるところ、
刹那がその人物に出会ったのは、彼女がまだ医者を名乗れる者ではなかった頃のことだ。刹那の人生には大きな転換期がいくつか存在するが、この出会いは中でも大きな分岐の一つだと言えるだろう。
この子は死んでしまう。この子を治すことはできない。彼女はそれをわかっていた。それでも、その全霊を賭してたった一人の患者と向き合うことを、彼女は選んだ。
見鳥刹那は天才だ。彼女は偉大な医師である。
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