その少女は、踊りに長けていると近所で有名だ

バレエでも、社交ダンスでも、ホップでもない

型にはまらない、自由奔放な、若さを感じる踊り

それが彼女の唯一無二の特技だった

そんな少女だった


学校、バイト先、会社

いろんな組織に、集団に、人間関係に

彼女は入っていく、溶け込んでいく


その組織は、それぞれ型を持っている

型に嵌め込められる、でないと不良品だから


丸い型が、柔和な性格が

三角の型が、革新的な視点が

真四角の型が、定められた規範が

彼女に求められる

特別、彼女の体は柔らかい

この程度の型ならうまく嵌まることができる

少し体が痛くなった、

今まで踊りで痛くなったことはないのに


まだ型はやってくる、より複雑な型が

手のひらの型が、人々との協調が

バツ印の型が、組織で行ってはいけない行動が

割れたカップの型が、休息してはいけないという規則が

そして無数の型が、彼女がすべきこと、こなさないといけないことが

彼女に求められる


段々と型にうまく嵌まれなくなる

徐々に体の痛みも強くなる

だが、型は次々とやってくる


「痛い」

気づいた頃にはもううまく嵌まれなくなっていた

彼女の特徴的なステップを生み出す、足が

彼女の心情を巧みに表現する、腕が

そして聴衆を魅了する豊かな、顔が

型に嵌まらない、パイ生地の切れ端のように

寸断される、余った生地かのように

不当に、雑多に扱われる

彼女の命であった、ものが


結果どうなってしまったでしょう


彼女の体はもう心臓しか残っていなかった

そう、生きることだけはまだ強要されていた

どんな型にも必要なことだから


彼女の脈動を表現する体はもうない

彼女の情緒を生み出すココロももうどこにもない

型を使った人間が、切れ端をゴミとして捨ててしまったから


どうして彼女の才能は

こんなかたちで、破り捨てられてしまったのでしょうか

どうして踊ることを彼らの型で制限させなくてはいけなかったのでしょう

彼女の個性が、才能が世界に壊された、なぜ?


なぜなぜなぜなぜなぜなぜなぜなぜなぜなぜなぜなぜなぜなぜなぜ


どうしてこの世界には、型から抜け出して自由に踊る道が

個性を活かす道が、当たり前のように存在していないのでしょう

そして、その型はなぜ

その人個人の特性を少しでも理解したものになってないのでしょう


理解が少しあれば、個性を活かす生き方が少しでもあれば

彼女は表現すること、表現する場を

奪われずに済んだのに

まして、彼女の一番の特技だったのに


どんな人にも得意なことや好きなことがあるはず

それのみで生きるのはもちろん不可能に近い

その個性を、社会は型でしか判断できないから

無意味なもののように判別する

歪な型で、さも正しいように


この世界が少しでも個人個人に寄り添ってできていたら

世界は変わっていた気がするのに

なぜこうもうまくいかないのか

しかも、彼女の踊りは欠点ではなく、長所だったのに

何も悪いことはしていない、むしろ評価されるところなのに

おかしい、おかしすぎる、滑稽だ、馬鹿らしい

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