アレルギー

その少年はとある果実が嫌いだった

なぜなら、体が受けつけない物だったから

食べれば、お腹の調子はおかしくなり

触れれば、皮膚が山のように腫れ上がる

そんな果実だった


ただ村にはその果実を食べる風習があった

なぜならその村の特産物だったから


皆美味しそうに食べる

笑って話しながら、団欒と


そんな中、少年の顔は浮かばない

またあの時間がやってくる

また死にたくなるような苦痛の時間が始まる


もう一度食べれば、死んでしまいそうな気がする

なぜなら、ここ最近症状がかなり悪化しているから

胸は苦しい、血の気は引く、怖気がはしる


そして時間はやってきた


「みんな食べているから、食べなさい」

「この村の宝なんだから、なんでそんな嫌がるの?」

「食べなければダメ、そんなのこの村の人間じゃない、認めない」

村の大人たちはいう、そう言って


無理やり食べさせられた

ジタバタする手足は抑えられ

閉じた口もこじ開けられる


目に涙が浮かぶ

だが現実は変えられない

そしてその果実を、咀嚼せず飲み込んだ





結果どうなってしまったか

アナフィラキシーによるショック死だ

少年は死んでしまった、その果実にはアレルギーがあった


どうして彼は死ななければならなかったのでしょう

生得的な、生まれつきの性質が

どうして彼を苦しめなくてはいけなかったのでしょう


彼は別に果実の味や見た目を否定したのではなかった

ただ食べられなかったそれだけ

村の宝であることは分かっていた

でも少年の宝ではない


なぜ村の宝を少年の宝にしなくていけなかったのか

なぜ訳あって拒むことの正当性が

少しも考慮されない世界なのか、村の風習のせいだけで


なぜなぜなぜなぜなぜなぜなぜなぜなぜなぜなぜなぜなぜなぜなぜ


なぜこの世界は

「好き」を主張することは許されて

「嫌い」を主張することは許されないのでしょう


人には好きなことがあるように、嫌いなことも当然ある

郷に入っては郷に従えとはよくいいますが

少年を殺した大人たちは

「嫌い」がないことこそを重んじた

それができる人間、「嫌い」をなくす、隠す人間のみが大人になれる


では少年は「嫌い」をなくせましたか

不可能だ、彼の特性、性質、運命にも似たものだったから


人間として感情を発露することは権利であるのに

世界はルールにない「嫌い」は違反とみなし

組織への侵入を許さない


そんなことがあってたまるものか

なぜ自由に、権利を主張することさえ許されないのか

食べないという否定の選択肢

それを押し通すことは不可能なのか

社会から弾かれて当然なのか

むしろ被害を被る、非難される、まるで加害者の文言なのか

ありえない、ありえない、ありえない

この世界はどこまで不完全なのか、気分が悪い

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