第8話【本日は貸切です】

「はい、と言う事で、乱入させて頂きました」


「それで説明つくかい!」


 ですよねぇ。

 ヤシューさんのツッコミも勿論のことですはい。


 五番勝負の翌日、一日掛けで事情聴取に追われた勇者と魔王コンビは疲れ果てた顔で公園に来ていた。


 そこであらかたの説明をし、ヤシューさんから華麗に突っ込まれた、というところだ。



「え、ちょっとまって、てことは、ウチを差し置いて鉱石の価格上げてた奴がいたの?」


「まぁ、そうですね」


「ハァ!? マジ信じらんない! 当代の魔王を舐めてくれちゃってんじゃん!!」


「まぁ、俺も良いように使われてたからな」


 エメさんの憤りに、やれやれとヤシューさんも同意した。


「あ、若いと俺なんですね」


「そこは気づかなくてもいいぞ、レイラック君……」


 やはり身の丈にあった話し方を意識していたのだろう。

 というより、呪いの力を利用して老人になり切っていたというところか。


「てか、この後はどうするつもりなの?」


 エメさんの疑問も至極尤も。

 僕と師匠で擦り合わせた今後の流れを!掻い摘んで説明する。


「まずはウェストランドが全面協力してイーステリアの農業を復活させます」


「でも魔石が……」


「それなら僕の師匠、アリッサ・クロニクルが確保してますので。適正売価より安めにイーステリアに売ってあげてください」


「りょ! んでも、イーステリアだからなぁ……」


「なんだ田舎もんが」


 それでもやはり東西の確執は拭い切れないようだ。またバチバチしそうだったので、準備していたドリンクを差し出す。


「これは?」


「まぁ、飲んでみてください。新作です」


 ヤシューさんもエメさんも、一息に飲み切ると、ほぉっとため息を吐いた。


「何だこれは? 美味いな」


「それ、コーヒーですよ」


「なん……っ!?」


 貴方が泥水って言ったやつです。

 と、心でつぶやく。


「うちはすぐわかったもんねー! やーい、泥水って言ったの飲んでやんの」


「コーヒーの、豆乳割です」


「なっ!?」


「豆乳。マメから作った、飲み物です」


 貴女がこき下ろした豆です。

 と、心でつぶやく。


「お……美味しいじゃん」


「んむ……美味いな……」


 二人して中々一言を言う勇気が出ないようで。

 もう一押しなんだけどなぁ……。

 仕方なく僕はため息を一つ、気合を入れた。


「お二人!」


「「はいっ!!」」


「握手! ごめんなさい!!」


「「ごめんなさい」」


 はい、終わり終わり。

 僕としてもいつまでもモヤつくのは嫌なので終わらせることにした。


「このコーヒーと豆乳みたいに、調和出来る生き方もあるんです」


 二人は互いを見、空になったコップを見た。


「今後のことは何とかできますか? 勿論何かあったら手伝います」


 二人の顔から、こわばりが消えた。


「常連さんの頼みなら、オニにもなりますよ?」


 笑いを与え、返答のような二人からの笑顔を貰いながら、オニギリとホットドッグ、コーヒーとお茶を出す。


「さぁ、これから忙しくなりますよー? ハラが減っては戦はできませんってハナシですから!」



 夜も更け、朝日が登る。


 ごちゃまぜの街にまた、一日が始まろうとしていた。



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腹が減っては戦ができぬってハナシ ノヒト @akirakatase

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