第40話 面接の結果

-翌朝-




スラッシュたちは大通りを歩き、冒険者ギルドへと向かっていた。

彼に同行しているのは、アリシアとシルヴィー、ユリアの3人である。



なんか思ってたほど混乱してないな…

オレたちを警戒するような感じで遠巻きには見てるけど。



町の住民達が彼らをそのような目で見ているのは、冒険者ギルド内での出来事や人肉を食べながら歩いていたシルヴィーの話が広まったからであろう。

しかも、そのシルヴィーは今、隷属の首輪をしていないので猶更である。

そして、町の様子をしきりに見回しているスラッシュの姿を見て、ユリアが彼に話しかける。



「あんたがいくら魔王を名乗ったって言っても、目撃していない人達にとっては話半分…

町の人たちからすれば、実際のところはどうなの?って感じでしょうね」


「まぁ、確かに。

大勢の前で大々的に力を振るったわけじゃないからね。

でももし、そういう状況になったら、やっぱり町の人ってほとんど居なくなってしまうのかなぁ…」


「そりゃ、ヒューマンを大量虐殺するってなら、そうなるでしょうね。

でも、そんなことするつもりないわよね?」


「そりゃね。

そんなことをする必要がないからね」


「なら、よっぽどの事がない限り町の人達がここを離れることはないわ。

そもそもの話、大半の人達は逃げたくても逃げられない状況なのわかってる?

あんたは、逃げたければ逃げろ、みたいなこと言ってたみたいだけど。

そんな簡単に今の生活を捨てて、この町から離れることができる人なんて冒険者くらいなもんよ」


「まぁ、冒険者でしたら守るべき家族とかがいない人が多いですからね。

それに、外に出て魔物に襲われたとしても、冒険者でしたら戦闘訓練もしているでしょうし、実戦経験もあるはずですから。

そもそも、普段から武装してる状態なので、途中で魔物に襲われる可能性自体が低いと思われますし、特によく使うような街道を進むのでしたら魔物も迂闊には近寄って来ないはずですよ」



ユリアの説明にアリシアが補足を加える。



なるほど…

昨日のゴブリンも相手の実力を見て襲うって感じだったもんな。


「てことは、やっぱりこの世界じゃ、お手軽感覚で他の町には行けないってことだよね?」


「王族などの身分の高い者なら王国兵を同行させるし、貴族なら私兵を伴って移動、そういった配下がいない商人や普通の人なら護衛として冒険者を雇うってのが一般的ね。

だから普通の人が他の町に行くってなると、かなりのお金がかかるのよ。

それに今回の場合だと…つまり、この町から逃げるってことね。

家財道具を運ぶだけでも大変なのに、もし家族がいるなら、女性や子供に老人を連れて長い距離を移動しなきゃならないし、他の町に無事に辿り着いたとしても、そこで受け入れてくるかどうか?も不明。

仮に親戚や知り合いがいるにしても、また最初から生活の基盤を整えなきゃならないってわけ」


だから、みんな町から逃げ出しはしないけど、オレたちを警戒して様子を窺ってるのか…


「主ー!

ギルドが見えてきたよー!」


「そうだね。

…あ、シルヴィー。

一応念のために言っとくね。

昨日家に来た人たち以外にも、もしかしたら違う冒険者がいるかもしれないんだけど、今日はこの前みたいに暴れたらダメだよ」


「主が攻撃されてもー?」


「そうだね。

それに、今日はそんなことにはならないはずだから…多分…」



目的地に着いた彼らがギルドの扉を開ける。



ん?

今日はなんだか閑散としてるな…

この時間にオレがここに来るってわかってたから、他の冒険者達はどこかに行ったのか?



スラッシュたちが入口からまっすぐに進み、受付の前まで来るとセシリアは深く頭を下げた。



「お待ちしておりました、魔王様…

ではなく、スラッシュ様…

…で、本当によろしかったのしょうか?」


「ええ、今はそれで構いません。

その方が今後のことを考えれると好都合なんで」


「…と仰られますと?

あ…失礼致しました…

余計な詮索でしたね…」


「ま、その件については近いうちに話すよ。

で、今日は面接の結果を伝えるだけじゃなくて、他にも用事があってきたんだけど…大丈夫?」


「もちろんです。

私たちにできることであれば…」


「ありがとう。

…じゃ、まずは結果から…なんだけど…

あそこにみんな集まってるみたいだから、セシリアさんもそこへ」



スラッシュに促された彼女は他の7人が待っていたテーブルまで行くと腰を下ろす。



「じゃ、いきなりですけど面接の結果から伝えます。

先に結論から言いますと全員を雇うことにしました。

なので、皆さん合格ということになります」



彼の言葉を聞いてそこにいた者たちは安堵の表情を浮かべる。

彼らにとってこの合格というのは、魔王の配下になるという意味であり、それは理不尽に命を奪われる可能性が低くなった、と捉えているのかもしれない。



「ただ、人によって、やってもらいたい仕事内容が違います。

なので、給料も人によって異なりますが…

よろしいですか?」


「いや…よろしいですか?って…

俺たちは配下にしてくれって頼んでんだぞ…

…それに、給料なんて出んのかよ?」



そう発言したのはバルデスである。



「もちろんですよ。

給料無いと食べていけませんよね?」


「まぁ、そりゃそうだが…

正直言うと、ただの駒…最悪、奴隷みたいな扱いをされるんじゃねぇか…って心配もあったんだが…」


「ああ、なるほどですね。

その気持ち、わからなくはないです。

ただ、面接の時にも言いましたが、別に世界を恐怖に陥れるつもりなんてありませんから。

寧ろ、この世界を安定させたいって思ってるくらいですし…

もちろん、敵対するっていうなら話は変わってくるかもしれないですけど。

…というわけで…

これから、それぞれにやってもらいたい仕事を伝えます。

で、その詳細については、ここにいるユリアが説明をするので、それに従って行動を開始して下さい。

何か質問があれば、とりあえずは彼女にお願いします。

…というわけで、まずはセシリアさんからですね。

セシリアさんには…

………

……



スラッシュは面接を行った順に職務を伝えていった。

そして彼らは、言い渡された仕事についてユリアからそれぞれに説明を受けた後、ギルドから出て行く。



「あの…スラッシュ様…

本当に私はこれまで通りギルドの受付嬢をやってるだけで良いのでしょうか?」


「とりあえずのところはね。

ん?

もしかして…あまり乗り気じゃない?」


「いえ、そういったわけではないですが…」


「ギルド…特に冒険者ギルド。

この世界で起こるであろう色々なことに絡んでくるはずだからね。

だから、詳しい人が配下になって欲しかったんだよ。

それも内情を知ることができる現役のね」


「…わかりました。

そういうことでしたら」


「でさ、セシリアさん」


「セシリアとお呼び下さい。

先程、正式にスラッシュ様の配下となりましたので」


「そう?

まぁ、今はオレもスラッシュっていうただの若造だから、そんなに気にしなくてもいいんだけど…」


「え?」


「いや、なんでもないよ。

…で、セシリア。

色々と聞きたいこととかがあったりするんだけど…

え~っと…そうだなぁ…

何から聞いていこうか…」



スラッシュが質問内容を考えている間、ユリアはまだ残っていた冒険者に説明を。

シルヴィーはやることがなくて退屈なのか?長椅子に横たわり眠っている。

そしてこの時、アリシアの姿はギルド内には無かった。

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