第38話 魔物とダンジョン

「ねぇ、アリシアちゃん。

今ふと思ったんだけど…

あれだけのゴブリンの集団を逃がしてしまったらヤバくない?

絶対また町を襲いに来る…よね?」


「確かにそうですが、当面の間それはないと思います」



アリシアの話によると、野生の魔物が人を襲うのは基本的には自分達のテリトリーに入ってきた時のようである。

とは言え、チャンスがあれば向こうから町を襲いに来ることもある。

その判断基準は、自分達が勝てると思った時のようである。

今回で例えるなら、前日に武装した冒険者達が町から離れていくのを目撃しており、2日連続で町の見張りがいなかったことが、その基準に該当したとのこと。

他のケースで言えば、一般のヒューマンが護衛もなしに少数で外を出歩いている場合などは襲撃される可能性が高いようだ。

つまり、魔物は知能が低いとされてはいるが、ある程度の思考は持ち合わせているということになる。



「え、でもさ…

それなら、こんな町の外で農作業するとか危なくない?

よく農家として成立してるよね?

…もしかして、農民ってめちゃくちゃ強くないとできないとか?」


「いえ、そんなことはないと思います。

魔物対策についてですが、一般的には農家がギルドに依頼を出して、冒険者達に警備させています。

ですので、依頼の難易度は意外に高くて、ある程度強い冒険者じゃないとその仕事は引き受けることができないようです」


「冒険者って、そんな感じでいいのか?

その人達って結構強いんでしょ?」



スラッシュの問いに対するアリシアの回答はこうである。

駆け出し冒険者の大多数が、まずはダンジョンに入ることができる資格を得るためにランクを上げにることに勤しみ、ある程度のランクになれば、大抵は彼らが進む道は2つに分かれる。

1つは、命を賭してでも高難易度の依頼、例えばダンジョンなどに挑み、一攫千金や未知なるものを求める者。

もう1つの道は、自身の実力を把握した結果、ある程度安定した生活を望む者。

よって、シエルスの冒険者ギルドに高ランクの者が多かったのは、後者の理由からであろう。



「…だから、野菜って結構高価な食材なんですよ。

それなのに、シルヴィーにユリアちゃんときたら…」


「…えっと…つまり…

アリシアちゃんが1人で10匹くらいのゴブリンを瞬殺してしまったから「こんな危ねぇやつがいる町を攻めるとか…まじヤベぇよな」って魔物達が思うってこと?」


「まぁ、そういうことになると思います。

…と言いますか…

ご主人様、ちょっとその言い方ヒドくないですか?

私、そんな危ないやつじゃありませんよ」


「我はそうでもないと思うがな…」


「ボクもそう思うー!」



どうやら魔物を追い払ったというのに、なかなか町の東門まで戻って来ない2人を見て、エレオノーラとシルヴィーが彼らのもとまでやって来たようだ。

相変わらず憎まれ口を叩くエレオノーラだが、冗談っぽい笑みを浮かべながらのものなので、これらの発言は彼女にとって一種のコミュニケーションのようなものなのかもしれない。

実際に女性3人は楽し気にああだこうだと言い合っている。



「ま、とにかく実物の魔物も見たことだし…って言ってもゴブリンだけだけど。

とりあえず、しばらくの間は襲って来ないようだし屋敷に戻ろうか」



その言葉を聞いたエレオノーラは魔物が森の奥深くまで退却して行くのを確認したようで、それをスラッシュに報告し皆で帰路につく。



「あ、そういえばさっき聞きそびれたことがあるんだけど、いい?」


「もちろんです」


「さっきさぁ、今アリシアちゃんが倒したのは野生のゴブリンみたいなこと言ってたよね?

てことは、野生じゃないゴブリンとかもいるわけなの?」


「野生という言い方が適切かどうか?は微妙かもしれませんが、行動パターンが違う魔物と区別するためにそう呼んでいます」


「行動パターン?」


「先程の魔物共は、アリシアがちょっと実力を見せるとすぐに逃げ帰ったであろう。

じゃが、ダンジョンや遺跡、特定の場所に現れる魔物共は、相手がいくら格上であろうが決して逃走することなく襲ってくるのじゃ。

まるで何かの使命感に駆られたようにな。

…と言っても、この世界のダンジョンなどにはまだ行ったことがないから実際のといころはわからぬのじゃがのぅ」


「ダンジョンかぁ…

どんな感じなんだろうなぁ…」


「この世界のダンジョンの話でしたら、明日にでも先程面接をした冒険者たちに聞いてみては如何ですか?

私たちが知っているものとは違う可能性もありますので」


確かに…

今後、旅をするにあたって一応は冒険者っていう身分になる予定だからな。

この世界のダンジョンのことを何も知らないってのはさすがにマズいよな。


「主ー、さっきの人たちもボクのお友達になるの~?」


「一応はそのつもりなんだけどね…

…誰を採用するか?の話は戻ってからみんなにも聞いてもらいたいと思ってる」


まぁ、お友達というよりかは、手下みたいな感じになるんだろうけどね…

さて、みんなのあの8人に対する評価ってどんなものなんだろうな…

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