第37話 似て非なる世界
「ご主人様、まずは周囲を明るくさせてもらいますね」
アリシアはスラッシュにそう告げると、右手を天に向け謎の言葉を呟く。
つまり魔法を発動させたのだ。
彼女の右手のひらから放たれた光の玉のようなものは、そのまま真っすぐに浮かび上がると彼らの頭上で止まった。
それは暗闇を照らす灯りの役割を担っているようだ。
そうだろうなぁ、とは思ってたけど…
この見た目の感じ、きっとゴブリンなんだろうな…
2人に向かって森の中から出てきたのは10匹ほどの魔物。
それらは緑色の肌をした小人のような容姿をしている。
「とりあえずオレはあいつらの相手をするから、アリシアちゃんは下がってて!
まずは自分の身を守ることに徹し…」
「えっ?!」
スラッシュの言葉を聞いたアリシアは驚きの声をあげる。
とほぼ同時に、彼女の足元から生えてきたのであろう樹の根、もしくは太い枝のようなものが魔物達を串刺しにしていた。
「あっ!
申し訳ございません、つい…」
「いや、別に謝ることじゃないんだけど…
てか、寧ろ有難いと言えば有難いことなんだけどね…
…ただ…魔物、全部死んじゃったね…」
「もしかして…なんですが…
ご主人様は生きた魔物が見たかった、ということでしょうか?
…だとしたら、本当に申し訳ございません!
あ、でも、森の中には10匹位の群れが5つほど、まだこちらの様子を窺っているようですが…」
よく考えてみたら、別に死んでても鑑定できるんだよな、昨日の冒険者みたいに。
だとしたら、とりあえずは、こいつらのステータスでも見てみるか。
「気にしないでいいよ。
死んでてもスキル使えるはずだから。
それに、今更なんだけど…
よく考えてみたらオレ、武器的なもの何も持ってないし…
なんで、みんなツッコんでくれなかったんだろ…?」
「それは私も含めて、みんなご主人様が武器なんか持たなくても大丈夫だと思っていたからだと思います。
昨日の冒険者ギルドの一件で、ご主人様の力を目の当たりにしていますし…」
「じゃあ、この魔物…
多分だけど、ゴブリン…?で合ってるよね?
こいつらって、昨日の冒険者並みの力しかないってことでいいのかな?」
「仰る通りです。
あ、あと一応お答えしておきますね。
これらの魔物はゴブリンで間違いないと思います。
この世界のシエルスの人達はみんなそう呼んでいますので。
なので、私たちの知っているゴブリンと同じですね」
「う~ん…
そこなんだよなぁ…」
「どうかされたのですか?」
「いや、あのね。
こいつらが、この世界でゴブリンって呼ばれてる存在だっていうのは今はっきりしたよね?」
「え?…あ…はい」
「で、オレが知ってるゴブリンっていうのは前世で見てたイラストとかゲームから、なんとなく想像してる存在であって…
つまり、本物のゴブリンっていうのは、今初めて見るんだよ。
でも、アリシアちゃんが知ってるゴブリンと同じっていうのは?
オレと同じようにイメージだけじゃないよね?
多分だけど、魔法もなんとなく使えるみたいだし、オレがいた地球にはない記憶もあるの?」
「あ、そのことですね…
ご主人様がいた地球の記憶は私の魂が覚えています。
この点はご主人様と全く同じだと思うんです。
それで…これは多分…なんですけど…
仮に、ご主人様が小説やゲームで創造された世界をAだとすると、今のこの体はAの世界の体だと思うんです。
だから、Aの世界の記憶も体が覚えているようで、全てがはっきりとではないんですが、ある程度のことは過去の記憶みたいな感じで残っています。
ただ、この世界はAではなくて、A´の世界のようなんです。
だから、Aの世界と同じ点もあれば、全く異なる点もあるというのがみんなの認識なんです」
「つまり、アリシアちゃんの記憶にあるAの世界のゴブリンと、今目の前で死んでるA´の世界のゴブリンが全く一緒だってこと?」
「その通りです」
「じゃあ、2つの世界で違う点ってのは?」
「色々とありますが…
例えば、先程話にあった魔法の習得に関してですね。
Aの世界では、生まれつきそれぞれに属性が備わっていて、異なる属性の魔法は使えません。
詠唱に関しても、Aの世界では普通に広まっていた謎の言葉を丸暗記すると魔法が使えるようになって、魔力や練度を上げていけばその効果も高くなっていきます。
ですが、この世界での魔法の習得は、さっきも言ったように、とにかく魔導書がないと魔法が使えるようにはならないようです。
ユリアちゃんの話を聞いてる限りでは、属性なども無いような感じですし…
他にも違う点は色々とあるみたいですが、詳しいことまでは…」
「そっか…
てかさ…
そのAの世界って、前世でオレが作った世界だよね。
でも、アリシアちゃんが生まれて間もない赤ん坊の頃とか、そんなの設定すらしてなかったはずなんだけど…」
「ご主人様が物語として書かれる場面、つまり初登場する日時には、その通りに行動するようになっていました。
また、そうなるようにそれまで生きてきた、という記憶があります。
つまり、Aの世界の登場人物の未来は決まっていたんです。
逆に言えば、小説に書かれない人物や場面、日時など…
私で言えば、勇者アリオスを森で見かけるまで、になりますが、Aの世界の住人は普通に自由に暮らしていた、ということになるかと思います」
なんだそれ?
ちょっと怖ぇな…
「じゃあ、例えば、オレが加筆して過去の回想を書いたとしたら?」
「それはわかりません。
ただ、Aの世界というものが、ご主人様が前世でお亡くなりになった後にできたものだとしたら…とエレノアさんは考えているみたいです」
「なるほど…
だとすると、後から修正とかはできないってことになるのか…」
「…あの、ご主人様…」
「ん?」
「…森にいたゴブリン達が逃げていきましたが…」
「ああ、そうみたいだね。
別にいいよ。
死んでるけど、こいつらを鑑定してみるし。
それに、素手であれを殴ったり蹴ったりするのも、なんか嫌だなぁ…って思ってたし」
スラッシュの言葉を聞いて、アリシアは魔法を解除する。
すると、10匹ほどのゴブリンの死体が地面へと落下した。
「鑑定発動」
【名前】:No name
【称号】:-
【クラス】:-
【ランク】:-
【種族】:ゴブリン族
【HP】:0/15
【MP】:0/0
【攻撃力】:16
【防御力】:15
【敏捷力】:27
【スキル】:-
なるほど…
数が面倒なだけで、確かに今のオレのステータスだったら敵にはならないみたいだな…
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます